Saturday, March 9, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)

前回は2006年および2007年のNoticeを受けて、2008年に遂に初のオフィシャルKiller B対抗規定が暫定規則および規則案(内容は双方同一)として公表されたところまで漕ぎつけたんだけど、深夜0時を回ってMozartの誕生日となったところで打ち止めになった。0時を回る前はEddie Van Halenの誕生日だったね。

2011年最終規則

2008年の暫定規則は2011年に最終化され、暫定規則そのものは撤回されている。暫定規則はsection 1.367(b)-14Tだったんで最終規則はTemporaryの「T」が外れてただの「-14」になると思いきや番号が代わりSection 1.367(b)-10に生まれ変わった。Killer B特集をトリガーすることになった2023年の規則案は未だ案なんで、この2011年最終規則は今日時点でもKiller B対抗策のオフィシャルバージョンだ。

Section 367(a) v Killer B規則の優先順位

2011年最終規則は原則2008年暫定規則の内容を踏襲しながら、いくつか注目に値する微調整が施されていた。

2008年の暫定規則にはKiller B規則の対象となる取引がSection 367(a)にも同時に抵触する場合の優先順位にかかわる規則が盛り込まれていた。いわゆる「Priority規定」だ。Section 367(a)に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)」で比較的詳細に触れてるんで興味があったらぜひ読んでみて欲しい。CFC課税が導入される30年も前の1932年に導入された米国人がSub Cの非課税規定を利用して資産を外国法人にアウトバウンド移管すると、含み益を課税するっていう趣旨の規定。課税は資産移管先の外国法人を非課税規定適用目的で法人とはみなさないっていう一見まわりくどい方法で譲渡益をトリガーする規則で、その基本的なアプローチは90年以上経った現在も変わらない。

どんなケースでKiller B規則とSection 367(a)が共存し得るかっていうと、例えばSがP株式を現金対価で取得して当P株式を対価にターゲット法人Tの株式を取得するとTriangularのB Reorganizationになる。その際、P、S、Tが全て外国法人でTの旧来株主が米国法人だとすると、取引全体はReorganizationだけどSection 367(a)でT株主はT株式の含み益に課税が生じる。正確に言うと課税は生じるけどTが外国法人なのでGain Recognition Agreement(「GRA」)をIRSと締結して、譲渡から5年以内にトリガーイベントがなければ実際に税金を支払うことにはならないはず。これはT株式を「Indirect transfer」したっていう特別な扱いになるんだけど、367(a)のIndirect transfer規定を語りだすとポスティング2~3回は費やすことになるんで含み益が課税対象になるっていうsection 367(a)下の結論だけ触れておく。一般的に米国人株主が外国法人株式を譲渡する際にsection 367(a)に抵触すると、外国法人のE&Pに対する合算課税は大丈夫~?っていう観点が付きまとうんで常に(a)と(b)のオーバーラップ懸念にかかわる検証が必要で、そのためにコーディネート的な規則がある。Killer B課税はsection 367(b)の一派だけど、2008年暫定規則のPriority規則では、section 367(a)で米国株主が認識する譲渡益が2008年暫定規則に基づきKiller B課税でみなし配当となる金額より低い場合、section 367(a)の課税はなく、Killer Bのみなし配当課税のみ適用があるとしていた。

実はこのPriority規定は呪われた夜と言え、2008年暫定規則から2011年最終規則で手が加えられたけど、2011年以降もKiller Bが絶えなかった理由の一つとなる。ちなみにイーグルスの「呪われた夜」って英語の原題は「One of These Nights」で、歌詞の内容的にこんな邦題を命名したっていうのは十分に理解できるんだけど、呪われた夜がリリースされた頃は僕たちまだ子供だったんで、友達と「One of these…」って英語で「呪われた」って意味だったんだね、とか話し合ってたInnocentな時代だった。最近はわかんないけど昔は結構なケースで英語の曲名に邦題が命名されてたよね。結構面白いのが多い。ビートルズのディラン風John Lennonの曲「You've Got to Hide Your Love Away」が「悲しみはぶっとばせ」(笑)だったり、Jimi Hendrixの名盤Bold As Loveに収録されてた「Ain’t No Telling」が完全に誤訳で「みんなおしゃべり」とか(正しくは「そんなことは分からない」的な意味のThere is no tellingの口語なんでさすがに後年この邦題は消滅)。

Priority規定は何と何を比較?

で、2008年暫定規則下のPriority規定はsection 367(a)にかかわる例外規定の適用は無視して米国株主がsection 367(a)下で認識するであろう譲渡益とKiller B規則に基づきみなし配当となる金額を単純に比較するものだった。すなわち、所得そのものを比較するんで、その結果生じる米国法人税の大小が比較される訳ではない。例えば、米国外法人Pの米国子会社Sが米国法人TをP株式を対価に買収する際、SがP株式をPから現金対価で取得するとKiller B規則で取得対価は分配となる。分配はE&Pの範囲で配当になって米国内法では30%源泉税対象だけど条約の適用が可能だと5%とか0%に減免される。したがって所得額ではなく最終的な税額で比較すると結果が逆転するケースもあるけど大丈夫?っていう問題が2008年から2011年の間に浮き彫りになりつつあった。

とは言え、最終的な米国税負担額を使うことになると、条約だけの影響に留まらず、P、S、Tという全ての登場人物の税務属性、例えばE&Pはいくらあるの~?とかを総合的に加味して考える必要が生じて実務面での運用が難しいという現実に直面する。そこで2011年最終規則では、原則、2008年暫定規則通りに所得額で比較するアプローチは温存しつつ、2つのタイプの取引はKiller B規則適用除外とする、という対応策を盛り込んだ。除外取引の一つ目はPとSが双方ともに外国法人でCFCではないケース。2つ目はPが外国法人でSが米国法人のケースだけど、PがSから受け取る配当はECIでなく源泉税が条約で免税になり、S株式がUSRPIでないケース。要は双方ともにSがPからP株式を取得する際の現金対価をKiller B規則で配当にしたところで米国で課税はない取引だ。これらのケースでTriangular Reorganizationに関してsection 367(a)の適用がある場合にはKiller B課税ではなくsection 367(a)に軍配が上がるということになる。

まあ、Killer Bって主に米国企業がCFCから米国側の課税なしでE&PをRepatする際のプラニングとして検討されてたと思うんで、2011年最終規則に設けられた2つの例外の適用対象となるKiller Bが実際にどれだけ存在したかは興味深いところ。

PのSecurities

2008年暫定規則やその前身のNoticeでは、Killer B規則はSが現金等の対価で「P株式」を取得する取引が適用対象だったけど、2011年最終規則ではこれを「P債券(Securities)」の取得にも適用を拡大してる。T株式、Securities、資産をTriangular Reorganizationで取得する際、対価にP株式に加えてSecuritiesを使用するケースがある。対価がSecuritiesだけだと通常は持分継続に問題があるって考えられるんでSecuritiesは株式に加えて使用される。株式適格組織再編やスピンオフ時に使用されるSecuritiesは7年等の長期債券で、T債権者と交換されないといけない。債権者は株式またはSecuritiesを適格対価として受け取ることが認められる一方、T株主はSecuritiesと株式を交換しても適格対価にはならない。適格ではない対価を組織再編を語る際には「Other property」って呼ぶんだけど、これは俗に言うBootのこと。また買収時にOutstandingだったT債券の元本を超える額のSecuritiesはBootと取り扱われる。OIDの場合、ここで言う元本が組織再編時の「Adjusted Issue Price」なのか、単純に「額面」なのかっていう結構ベーシックな適用に関して未だに明確なルールがなかったりして不思議。

で、2011年最終規則ではPのSecuritiesがT株主またはT債権者にとってBootになる範囲で、SによるPのSecurities取得をKiller B規則の対象にするって規定している。P株式はBootになるかならないかにかかわらずKiller B規則の対象だ。

PのSecuritiesがKiller B規則の対象になったんで、Priority規定にもその点が反映され、T株主およびT債権者がsection 367(a)下でsection 367(a)例外規定の適用を無視したら認識したであろう譲渡益が、Pが認識するKiller B規則下のみなし配当に加えてE&Pの金額および簿価を超えて認識されるみなし譲渡益の合計、より低い場合にはsection 367(a)の適用は停止される。逆に前者の金額をsection 367(a)の例外規定込みで算定し、そっちの金額が後者より高い場合には、Killer B規則の適用が停止され、section 367(a)のみ適用されることになる。Section 367(a)例外規定の適用有無が双方のテストで異なったりしてPriority規定も複雑。

SがPからP株式を取得する際のみなし出資

2008年暫定規則では、Killer B規則に基づくみなし分配後のみなし出資はSが「P以外」の者からP株式を取得するケースのみに認定されると規定されてた。これは個人的にはチョッと釈然としてなくて、もともと2007年のNoticeで初めてみなし出資に言及があった際には、P株式は実際にはSに移管されてるんで、SのPに対する現金分配っていうKiller B規則のRecastだけではP株式はSに移管された取り扱いにならないんで、SがPからP株式を取得した場合も、第三者からの取得同様、みなし出資が認定され、その後形式通りにP株式取得があったって取り扱うのが当然だろうって考えてたんだけど(「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (7)」)、2008年暫定規則ではそうなってなかったんで「う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきり?」って不思議だった。つまり、じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね?っていう単純な疑問だ。2008年暫定規則は第三者からの取得のケースのみにみなし出資が認定されるって明言されてたんで、SがPからP株式を取得する場合、P株式譲渡にしても分配にしてもSから受け取る現金等の対価は実際にPの手元に残ってるんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんでしょうか?とか「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)」で触れた通りモヤモヤした気持ちで3年間を過ごした。

2011年最終規則ではこの点に修正があり、SがPから直接P株式やSecuritiesを取得する際もみなし分配後にみなし出資があったって取り扱うって規定された。これで超スッキリ。

2011年最終規則その後のKiller Bサガ

ここまで完璧にKiller Bを封じこめたかに見えた2011年最終規則。それでストーリーが終わってたら、今回のKiller Bシリーズのポスティングはなかっただろう。2011年後、予想に反してKiller Bはさらに進化し、2014年のNotice、それを受けて変身を続けたKiller Bに対して2016年には更新Notice、そして遂に2023年10月には新規則案公表に至っている。2016年から7年間待ち焦がれてた規則案の思わぬタイミングでの公表に興奮して、まるでローマ帝国の歴史を紐解くかのように長編に着手っていう展開になってるのでした。ポスティングを読んでもらえればテクニカル面で魅せられざる得ないであろう点、IRSと納税者間の息を呑む知恵比べ、の両面から興奮せざるを得ない点は十分に分かってもらえるだろう。

ということで次回からKiller B物語はいよいよFinal Phase。Pokerだったら「No more buy-in」で「Big blind is $1 million」みたいなPhaseに突入だ。