Saturday, September 5, 2020

BEAT 2020年最終規則 (2)

前回のポスティングで、先週公表された2020年のBEAT「新」最終規則に関して触れ始めた。BEATの計算にかかわる大概のルールは2019年最終規則で既にカバーされているので、今回の2020年最終規則はどちらかというと「ニッチ」っぽい数点にフォーカスされている。具体的には、グループ合算計算、損金算入自己否認、パートナーシップを介したBase Erosion Paymentの考え方の確認、特定の乱用防止規定、にかかわる詳細規定。

損金算入の自己否認に関しては以前の「BEAT財務省2019年「新」規則案(損金算入自己否認)(2)」である程度詳しく触れた提案内容のまま最終化されているのでそちらを見て頂くとして、今回はグループ合算計算に関して少し触れてみたい。ちなみに損金算入自己否認に関して一言だけコメントしておくと、10%のBEATミニマム税を節約するために通常法人税で21%の税効果がある損金算入をなんでわざわざ否認するの?、っていう質問をたまに受ける。この点はNOLとの絡みで期せずしてBEATミニマム税が出てしまうことがあるとか、BEATミニマム税の計算時には外国税額控除が認められないって点が大きい。特に外国税額控除に関しては、TCJA後の米国クロスボーダー課税の世界では、世界中のCFC所得を合算しネットで10.5%支払う税額を、外国税額控除で減少させるっていう設計だから、外国税額控除がなくなってしまうと例え10%の税率でもBEATミニマム税が巨額になることがある。それなら多少の費用を自己否認して21%支払っても、そもそもBEAT適用法人でなくなるのであればそっちの方が断然得策、っていう話しだ。

で、今日のポスティングのテーマとなるグループ合算計算だけど、これもBEAT適用法人になるかどうかの話しに密接にリンクしてる、っていうかその話しそのもの。BEATはその立法趣旨的に、ターゲットとなる納税者のプロファイルは、外国関連者への支出に基づく費用控除がある程度あって、サイズが大きめの多国籍企業となる。このプロファイルに合致する法人を機械的に抽出するため、二つの基準値が法律に規定されていて、それらに達してしまえばBEAT適用法人だし、達していなければBEATの適用自体がない。また、BEAT適用法人になったとしても、BEATミニマム税を支払うことになるかどうかは実際の計算次第。実際に計算してマテリアルなBEATミニマム税が想定される場合には、そもそも適用法人でなくなってしまえば実害ナシということになる。なので、損金算入の自己否認とかいう通常では考え難い発想が登場する。

このテストは機械的な点に注意。BEAT、すなわちBase Erosion Anti-Abuse Taxっていう条文タイトルから、「私はBase Erosionするような意図は一切ありません」みたいなケースにBEATが適用されるのは筋違い、というようなポリシー的な理屈を捏ねたくなるケースもあるけど、納税者の意図はBEAT適用有無に一切関係ない。税法上、条文タイトルは法的効果を持たないしね。

で、誰がBEAT適用法人になるかというと、3つ条件がある。

まず「Corporation」であること。必ずしも米国法人である必要はなく、外国法人もBEAT適用法人になり得るけど、申告法人税の話しだから、ECIがあったり、日本みたいに条約締結国の法人でLOBを満たす場合には、米国PE帰属所得が存在するケースのみ潜在的にBEATとの絡みがある。また、CorporationでもRIC、REIT、S Corpは除外される。Corporationじゃないパートナーシップは直接BEAT適用納税者にはならないけど、パートナーシップの法人パートナーは、パートナーシップ内の取引の自己持分を全て加味してBEATを検討しないといけない。法人がらみの非課税取引、Section 351や332、適格組織再編に基づく資産移管は2019年の最終規則時に財務省の英断(?)でBase Erosion Paymentの定義から除外されてるけど、パートナーシップに関してはそんなカーブアウトが一切存在しない。純粋なAggregateコンセプトで考えるので、Section 721や731に基づく非課税出資や分配時にも常にBEATの影響を検討しないといけない。パートナーシップとBEATの話しはここ1年くらい、そのうちどこかで特集しなきゃ、っていうプレッシャーが夢に出てくる(?)くらいだけど、本当にそのうちね。

で、BEAT適用法人の条件だけど、次に前年までの3年間平均総収入、すなわちCOGSや費用を引く前の売上が$500Mであること、っていう売上基準。返品があったり、固定資産の譲渡があったり、すると売上額の認定自体、結構テクニカルで油断大敵だけどね。

そして3つめの条件がBase Erosion%(「BE%」)が3%以上っていうBE%基準。金融機関は特別に2%。売上基準やBE%基準のベーシックなところ、例えばBE%が何かとか、は規則案時にアップしたポスティングで結構触れているので、「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(2)」等を見て復習していただき、ここでは本題のグループ合算計算にフォーカスする。

以前からさんざん触れてる点だけど、売上基準とBE%基準の算定は「Aggregateグループ」という50%超の資本関係にある関連者を一人の納税者としてみなして行うこと、っていう合算要件がある。ここで重要なのは、BEATの計算そのものは各納税者、または連結納税グループはグループ単位で行う点。グループ合算計算は、あくまでも売上基準とBE%の計算法のみにかかわる要件で、すなわちBEAT適用法人になるかどうかだけは、Aggregateグループ単位で決めて下さい、というものだ。自社のBase Erosion Benefitや売上が少なくても、Aggregateグループ合算で基準値に達する場合には問答無用にBEAT適用法人となり、その上で、個社レベルでBEATミニマム税を計算することになる。この合算の計算は「一人の納税者」というフィクションの適用法とか、これだけでもとてつもなく複雑だけど、ここでは50%超のグループ法人のうち、米国法人とECI(条約国のケースはPE帰属所得)を持つ外国法人の数字を合算して売上基準やBE%基準を算定するとだけ覚えておいて欲しい。

2020年最終規則では、計算方法に関して困難が生じがちな特定の事実関係複数に関して、グループ合算計算時に適用するべきルールを規定してる。大別すると、グループ内のメンバー法人が異なる課税年度を持つ場合、短期課税年度が存在する場合、グループ内メンバー法人がグループに新規加入したり、グループから離脱する場合、支出(Base Erosion Payment)のタイミングと費用控除(Base Erosion Benefit)のタイミングに差異があり、費用控除時点で支出時点とは異なるグループに属してしまっている場合、にかかわる詳細なルールが規定されている。

ここまで書いたところで、今日のNYCは南カリフォルニア顔負けの気持ちのいいお天気なので、チョッと出かけることにします。次回はグループ合算計算の各論点を順番に紐解いていく予定。