前回までのポスティングでは、テリトリアル課税対象となるPureなE&Pがただでさえ少ない中、TCJA下の新国際課税システムに関して財務省やIRSが懐く世界観、すなわちSub FとGILTIが優先的に適用され、残余E&Pがあればテリトリアル課税の対象にしてあげると言うアーキテクチュアー、に基づき、PureなE&Pは財務省規則によりその範囲がますます狭められていく傾向にある点に触れてきた。前回は、その一例として「Extraordinary Disposition」規定による空白期間のE&Pを取り締まる暫定規則を紹介したけど、今回は、空白期間という一過性の話しではなく、恒常的に今後も発生する「Extraordinary Reduction」取引に基づくE&Pを取り締まる暫定規則に触れてみたい。
この話しをするには従来から存在するCFC課税の基本を理解しておかないといけないので、極簡単に背景に触れておく。言うまでなく、この背景そのものも実はとても複雑だけど、ここではLesson 1の「This is a pen」程度に触れておく。
TCJAで導入されたGILTIもそうだけど、従来からもCFCの所得の合算課税は、CFCがCFCであり続ける限り、CFCの課税年度終了時点で、その時点の米国株主に合算課税対象所得がフローアップして課税が発生する。CFCの課税年度を通じて同じ米国株主がそのCFC持分を継続所有していた場合には、この合算方法は普通に当たり前のものだ。一方、期中にCFCの持分譲渡があった場合にどうしてたかっって言うと、譲渡後もCFCであり続けるケースでは、あくまでもCFCの課税年度末に米国株主の位置づけにある者がSub Fを合算することになっていた。GILTIも同様。そうすると、自分が所有していない期間にかかわるSub FやGILTI、すなわち経済的には譲渡人に属するべきSub FやGILTIも、譲受人がまるまる合算しないといけなくなる。で、そんな理不尽な結果を是正していたのがSub F合算額からの「配当除外規定」。この規定は実際の適用はチョッと難しいけど、CFCの課税年度終了時の米国株主がSub Fの合算額を決める際、その課税年度内に他人が受け取った配当のうち、当該年度のSub F相当部分でかつ自分がCFC株式を所有していない期間に対応する金額を除外してよろしいという規定だ。
この制度はTCJA前は概念的に実に良く機能していたと思う。仮に、譲渡が起こる課税年度に実際に配当が存在しない場合も、株式を譲渡する側は、譲渡益に占めるCFCのE&Pのうち譲渡人の持分%および保有期間に対応する金額はみなし配当となるので、配当課税が起こる。そのうち、譲渡発生年度のSub Fに対応する額の譲受人が株式を所有していない期間に帰する部分、面倒な言いまわしになってるけど、要はもし譲渡が課税年度内に一回だけだったら譲渡人が所有していた期間に帰する部分に関して、譲受人によるCFC課税年度末のSub F合算額が減ることになる。元々Sub FっていうのはAnti-Deferralだから、CFCの株式を譲渡した側はE&Pに対して配当課税されることでDeferralは完全に解消され、その分に関して譲受人がSub F合算をする理由も必要もなく、結果として綺麗に各々が課税されるべきE&Pに課税される制度になっていた。
ちなみにこの考え方は、株式譲渡後も外国法人がCFCであり続ける場合にのみ適用が必要なもの。外国人に株式が譲渡され、外国法人がCFCでなくなってしまう場合には、譲渡時点でCFCとしての課税年度が終了するので、譲渡人はその時点で普通にSub F合算をさせられ、譲受人側におけるSub F合算の減額云々の処理は不必要となる。
この実に良く考えられた制度の大前提は、譲渡人が認識する配当が課税されるっていう点。もちろん以前は配当に間接FTCが認められたので実際にFTC後に支払う米国の税金は少ないケースもあっただろうけど、それはSub F合算も同じなので、綺麗にEquationが成り立っていた。ここまで書けば、テリトリアル課税の導入との絡みにピンと来た方も多いだろう。その通り。TCJAでCFCからの配当(みなし配当含む)は100%DRDで非課税となった。となると、譲受人側ではSub FやGILTIの計算基となるTested Incomeの合算額を、譲渡側の配当額に関して減額するにもかかわらず、譲渡側では配当が課税されないというふぞろいの林檎みたいになってしまう(古~)。
CFCのE&Pのうち、PTEPはそもそもみなし配当ではないので、あくまでもPureなE&PがCFCに存在する状態で譲渡が行われる場合の話しだけど、TCJA直後からこの論点は問題となっていて、議会によるTechnical Correctionの可能性も取り沙汰されたりしてたけど、議員さんは国民のために法律を通すために選ばれているはずなんだけど、立法はそっちのけで(苦笑)ポリティカルな事案に忙しいので、当然Technical Correctionが可決したり議論されたりする訳はなく、となると行政側の財務省に策を講じる法的権限が存在するのか注目されていた。
そんな中、不均衡を利用したプラニングが散見され始め、さらに、これは昔からあったけど、譲渡直後にCheck-the-Boxその他の手法でCFCのUS Yearをいきなり終了させてしまい、譲渡以前の期間に対応すると取り扱われる配当額を最大限化してみせたり、法文的にはその通りとは言え、チョッと抜け穴利用が過ぎる観はあった。空白期間の取り扱いと異なり、どちらかと言うと趣旨的にも調子が良すぎる結果となるからだ。
この問題は、Sub Fだけの世界だったらインパクトも限定的に終わったかもしれないけど、GILTIでCFCの所得は基本全て毎期、米国で合算されるために数字的なインパクトが大きい。さらに問題を複雑にしてるのが、TCJAによるCFCや米国株主の認定時のDownward Attribution適用免除規定の撤廃。Downward Attributionの適用が免除されていた従来の認定法では、例えば、日本企業の米国子会社が所有するCFCの株式を日本親会社に譲渡してしまえば、その外国法人はCFCではなくなっていた。ところがDownward Attributionが適用されることになってしまったので、日本の親会社が所有している持分は、米国子会社が所有しているとみなされ、外国法人は引き続きCFCであり続ける。ここで面白いのは、CFCでありながら、本当に直接・間接にCFCを所有している米国株主が存在しないこと。となると、さらに凄い結果となり、CFCの課税年度終了時点でSub FやGILTI合算をする米国株主が存在しないにもかかわらず、外国法人はCFCであり続けるので、譲渡時点でCFCの課税年度は終了せず、だれもSub FやGILTI合算をしないことになる。しかも、譲渡が発生している課税年度のE&Pは譲渡がなければSub FやTested IncomeとしてGILTI合算されたにもかかわらず、みなし配当となる範囲で譲渡人側でテリトリアル課税のDRDで非課税となる。極端な例を挙げると、3月決算のCFCの持分を3月30日に米国から日本に譲渡すると、一年分のSub FやGILTIが消滅してしまうこととなる。4月1日に譲渡したら、3月末でSub FやGILTIはまるまる合算されていたのと著しく対照的。
以前から触れている財務省やIRSの世界観に照らし合わせると、譲渡課税年度のE&Pが一部でもSub FやGILTIを素通りして、テリトリアル課税の対象となるような結果は到底、容認不可能となる。
そこで前回のポスティングで触れたExtraordinary Disposition規定が導入された暫定規則に、今度は「Extraordinary Reduction」という規則が同時に規定された。何でも「Extraordinary」って名付けると怪しい感じになってDRDの対象じゃなくなっちゃうみたいだね。そのうち、CFCにPureなE&Pが存在すること自体ポリシー違反とか言われて、全額「Extraordinary E&P」なのでテリトリアル課税は不適用、になっちゃったりしてね。
難しい話しで長くなってきたのでExtraordinary Reductionに関しては次回。