Saturday, January 25, 2020

絶滅種に指定されそうなテリトリアル課税対象所得 (3)

前回のポスティングで、2017年12月末までのE&Pは1986年以前に認識されているE&Pを温存している奇特なケースを除き、全額PTEPに生まれ変わっていること、また2018年1月1日以降に開始するCFCの課税年度からは毎期、DeferralなしでGILTI課税されるために、今後もGILTI課税の範囲でCFCのE&Pは継続してPTEPになる点に触れ、CFC側のE&Pにテリトリアル課税適格となる純粋なE&Pが生じ得ない理由をハイレベルに触れた。ちなみに、PTEPではないE&Pの存在自体が希少な点に加え、分配は米国税法目的ではまずPTEPから行われたとみなされる点も、テリトリアル課税適格のE&Pを分配するチャンスが著しく低くなる理由。つまり、Transition TaxとGILTIで積み上がったPTEP全額を分配し終えて初めて、根雪のように僅かに底辺に残っているかもしれない純粋なE&Pを分配できることになる。しかもGILTIで毎期毎期PTEPが増える訳だから、PTEPでないE&Pは常に底辺に押しやられる感じ。

ところで、このPTEP系の話しは早々にラップアップしないと、ってプレッシャーを感じていたのは、例のSection 163(j)の最終規則が公表されると、どうしてもそこにフォーカスせざるを得ないからだ。Section 163(j)の最終規則そのものは、規則を事前評価する政府機関OIRAの審査を終えたと聞いてるけど、先日の法曹界の集まりにおけるIRS高官の話しによると、最終規則の公表と同時に、前回の規則案では検討されていない新たな切り口の規則を同時に新規則案として公表する予定らしい。で、この新規則案の方が未だOIRAの審査に回っていないようで、これに引っ張られる形で全体のパッケージ公表が遅れそう、とのこと。タイミング的にチョッとひと安心。実はパートナーシップへのIPの現物出資に関するAnti-Abuse的な暫定規則が最終化されたりもしているので、そちらもチョッと触れたかったしね。

最終規則を公表する際に、新しい規則案が同時公表されるっていうパターンは、TCJA絡みの規則策定時の常套手段となりつつある。このトレンドは検討を重ねれば重ねるほど新たな課題が続出してくるTCJAの現状を良く反映している。TCJAは、法文そのものだけ読んだだけでは不明な点が多いし、また法文そのものが立法趣旨と異なるケースも散見され、規則策定は世間が考えるほど容易ではない。この点に関して2017年末から今日まで、財務省やIRSは、Deepな知見、各界との頻繁な意見交換、を駆使してテクニカル面で卓越しているばかりでなく、実務的にバランスが取れた規則を信じられないスピードで公表し続けている。もちろん個々の内容には賛否両論なものも多く含まれるし、個人的にも行政府の権限内なのかな、と思うようなこともあるけど、元々とんでもなく複雑な法律にOverlayする形で規定されているTCJAをあれだけの短時間で消化し、執行可能なルールに落とし込む実力には脱帽。これがどれだけ大変か、っていうのを理解していれば、財務省やIRSの努力や能力の凄まじさを認識せざるを得ないし、またポリシー的にも税金を取る側が策定するルールとしてはバランスが取れた規則が公表され続けていると感じることができるはず。

ところが、先日、ニューヨークタイムスが、規則策定を通じて現政権がTCJAを骨抜きにして大企業がラッキーしているという、ニューヨークタイムスの読者層には受けるかもしれないけど、個人的にはアンフェアに感じられる記事を掲載していた。各界の意見を反映し、法文から逸脱せず(たまに際どいけどね)、執行可能なルールを策定しようとしている財務省やIRSの方たちの苦労や努力を踏みにじるように感じられ、メインストリーム・メディアがこのような記事を記載すると、一般の人は財務省やIRSは政治的な意図で規則を策定しているって勘違いしてしまわないかな、って少し心が痛んでしまった。

で、本題に戻るけど、過去のE&Pが全額洗浄されて、今後はGILTIで毎期CFCの所得がPTEPに生まれ変わるシステム下でも、しぶとくPTEPとならないCFCの所得があるにはある。まず、Obviousな項目として今後、CFCが認識する所得のうち、GILTIの基となるTested Incomeから除外されている所得。Sub FやECIはGILTIの計算基となるTested Incomeから除外はされるけど、Sub F対象所得はDeferralなしで毎期、米国で合算されるのでGILTI同様PTEPになる。ECIに至ってはCFCが米国で申告して課税されているし、そもそも外国源泉じゃないのでテリトリアル課税目的ではDRDの対象ですらなく論外。従来からの国内DRDの適用検討の価値はあるけどね。また下層に位置するCFCからの配当所得をTested Incomeから除外するっていう部分は、下層CFC自体がGILTI課税の対象なので単にダブルカウント防止で、これも役に立たない。となると残るは、従来からのSub Fに規定される「Foreign Base Company Income」や「Insurance所得」のうち「High-Tax Exception」の対象となる所得。プラス「米国外オイル・ガス所得」となり、これらがあればテリトリアル課税適格のE&Pが創出されることになる。そんな所得余り多くなさそう、って思うかもしれないけど、その通り。ちなみにSub F向けのHigh-Tax Exceptionに準じた免除規定がGILTIの「新」規則案で提案されていて今後の動向が楽しみ。これもGILTIの規則最終化時点に同時公表された「新」規則案という形で提案されている。

次に、これらも分かり易い項目として、Tested Incomeだけど米国株主側でGILTIにならない所得が挙げられる。このカテゴリーに属するのはCFCの有形償却資産の10%に当たるみなしルーティン所得に加えて、他のCFCのTested LossのおかげでGILTIになっていない部分。面白いことに他のCFCのマイナスで相殺されるプラスの所得はGILTI規定ではPTEPにはならない。Transition Tax時には他のCFCのマイナス留保所得と相殺されて非課税となった部分もPTEPになるっていう法律だったけど、おそらくTransition Taxがテリトリアル課税を想定していない旧来の法律下で規定されているのに対し、GILTIはもちろんTCJA下での処理となり、マイナスでオフセットされた部分がテリトリアル課税適格のE&Pとなる点を加味してこのような異なる取り扱いとしているのだろうか。複雑。

で、前回チラッと間接的に触れたので勘の鋭い方はアレって思われたかもしれないけど、Transition Taxは2017年12月末(稀に11月2日)時点のE&Pが対象となっている。これはCFCや米国株主の課税年度にかかわらず一律。一方、GILTI適用開始日は、2018年1月1日以降に開始するCFCの課税年度。CFCが12月決算の場合には、2017年12月末までのE&PはTransition Taxで課税され、2018年1月1日以降の所得はGILTIで課税されることなり華麗なTransitionとなる。でも、CFCが暦年以外の所謂「Fiscal Year」のケースでは、Transition Taxの対象となった2017年12月末のE&Pと、所得がGILTI対象となり始める間に空白期間が存在する。その空白期間を狙い、ドラフト外入団という形で巨人ジャイアンツは契約締結を決行する、じゃなくて(これも古いけど、今でも知っている人は多いよね?)、空白期間にCFCが認識する所得はTransition Taxの対象でもなければGILTI対象でもないことになる。例えば、日本企業のように米国でも3月決算が多いケースは、CFC課税年度合致要件があるので多くのケースでCFCも3月決算だけど、Transition Taxの対象となるE&Pは12月で打ち止められている。一方でGILTIは2018年4月開始のCFC課税年度から適用なので、1月~3月の所得はGILTI対象にならない。「見、見、見つけた~!」って感じのピュアなE&P。となるはずだったんだけどね。ちなみにCFCの課税年度は大多数の持分を所有する米国株主の課税年度に合わせる必要がある。Sub Kのパススルーみたいな要件で、双方共パートナーシップやCFCの課税年度末に所得配賦や合算額の算定を行うことから、期ズレを利用した所得認識の繰り延べに網を掛けるための規則。CFCの所在国で課税年度の選定が不自由でも米国目的では合致要件に基づく課税年度を採択しないといけない。例えばCFC所在国の法令では課税年度は1月~12月って決まってても、大多数持分所有の米国株主がFiscal Yearの場合、米国税法目的では合致要件に基づきFiscal Yearの採択が強制される。これが理由で、「US Year」とか「Foreign Year」とか言って区別が必要となることがあり、Poolingが廃止され毎期個別に計算されるTCJA下のFTC算定時などには、外国のどの法人税がUS Yearで発生し、かつProperty Attributableと取り扱われるのか、という重要な検討事項にも影響を持つ。

ちなみにCFCの課税年度の合致要件には例外があり、大多数の持分を所有する米国株主の課税年度より1カ月早い課税年度を選択することが認められる。ほぼ間違いなく暦年課税年度の米国企業傘下のCFCのUS Yearが11月だったりするのはこの例外を利用しているケース。1カ月早いというと、1カ月だけの繰り延べだから大したことないじゃん、って錯覚するかもしれいないけど効果はもう少し大きい。11月に課税年度が終了するCFCの所得を取り込むのは、米国株主のその直後の12月決算だから、前年一か月分の所得は11カ月の課税繰り延べが実現されることになる。さっきのTransition TaxとGILTIの関係を考える上でも、GILTIが2018年12月1日以降から適用となるので、11カ月に亘る空白期間が生じることになる。

ここに神経を尖らせたのが財務省。財務省とかIRSの世界観に基づくと、TCJA後の米国国際課税システム下では「Sub F、GILTI、245A(テリトリアル課税)」が一体となって機能し、外国源泉所得の課税関係を決めるというもの。更に優先順位的には、Sub FとGILTIの洗礼を受けた後にサバイバルしているE&Pのみがテリトリアル課税の恩典にあり付ける、というもの。その見地から行くと、空白期間のE&PがGILTIの洗礼を受けることなく素通りでテリトリアル課税適格となるのは、ポリシー違反ということになる。

え~、でもGILTIを想定して慌ててCFCの課税年度の変更でもしているケースは別として、何も知らずに真面目に生活してたら急に2017年末のE&PはTransition Taxで課税と言われ、2018年1月1日以降に開始する課税年度からはGILTIと言われ、法文に基づいて空白期間が存在してしまっているケースをポリシー違反と言われてもね。議会で勝手に法律作ったくせに、と言いたくなるだろう。だったらTransition TaxをCFC課税年度末に存在するE&Pと規定すればよかったのにね。これを行政府に権限委譲されている規則策定のスコープ内と納得できるかどうかは意見が割れるところだろう。

しかし現実は厳しく、財務省はGILTI規則を最終化した際に、245Aにかかわる暫定規則も同日公表し、空白期間に発生する所得のうち、一定要件を充たすものは実質GILTI課税されたかのようにDRDを50%に限定 するという斬新な対抗策を打ち出した。法的な権限は微妙だけど、少なくとも空白期間に生じた所得全額をGILTI対象とかにしてないのは救い。DRDが50%に限定されるE&Pを生み出す取引は、空白期間に起こった通常レベルを超える資産譲渡で、これを「Extraordinary Disposition」、特別譲渡とでも訳すんだろうか、と言う。何がExtraordinary Dispositionかは少額免除を含む詳細な定義で規定されている。この手の取引は、大概において関連CFCに対して含み益を持つ資産を譲渡し、譲渡側CFCで空白期間に多くのテリトリアル課税対象E&Pを計上すると同時に譲渡先CFCでは高い時価に基づく償却を取ることで、今後のGILTIを減額するように設計される。また、空白期間とは言え、従来からのSub Fはもちろん粛々と存在してるんだけど、これらの資産譲渡はSub Fには抵触しないようにプランされるので実質、米国で合算されることなく過大なE&Pが創出され兼ねないものだった。

3月決算の日本企業米国子会社が大多数持分を所有するCFCは課税年度合致要件で3月決算(または2月も可)なので、基本3カ月の空白期間がある。この間にExtraordinary Dispositionがなければ、無事にこの3カ月間に創出されたE&Pがテリトリアル課税適格となる純粋なE&Pとなる。

で、この厳しい暫定規則は空白期間というGILTI導入時の一過性の期間のみにかかわるものなので、空白期間を無事に乗り切れば、時はいつの日にも親切な友達で、過ぎて行く昨日を物語りに変えてくれるんだけど、TCJA下の新国際課税システムの考え方として、Sub FとGILTIが優先で、その後に残ったものがあればテリトリアル課税を認めると言うアーキテクチュアーというかポリシー、思想が明確に示唆された点の意義というかショックは大きい。さらにこの暫定規則にはもう一つテリトリアル課税対象となる所得を制限する、しかもこちらは空白期間のように一過性のものではないLong-Lastingな規則が規定されている。これも面白いけど、ここからは次回。