前回のポスティングでは、Extraordinary Reduction規定の背景Lesson 1に触れたけど、今回はExtraordinary Reduction規定そのものに関して。
この規則の骨子は「CFCの支配株主が認識できるDRDはExtraordinary Reduction額以外の部分に限定する」というもの。相変わらずややこしそうな規定だけど、支配株主とは、関連者の持分も加味して50%超のCFC持分を保有する米国株主で、テリトリアル課税のDRD適用条件を充たす者とされる。面白いことに、関連者規定を加味して自ら50%超の持分要件は充たしてなくても、支配株主と結託したり、協力している仲にあると取り扱われると、そんな株主も支配株主とみなすと規定されている。この実態に基づく支配の考え方は米国の移転価格でよく取り沙汰される論点だね。それにしても、こんな概念で支配株主を定義してる点を見ても、財務省はよっぽどテリトリアル課税の悪用を気にしてるんだね。チョッと気にし過ぎ?
で、Extraordinary Reductionがどんな時に発生するかって言うと、支配株主が所有するCFC持分の10%超のCFC持分を譲渡、または支配株主が所有するCFC持分に10%超の変動が生じた場合。これだけでも複雑~。Section 382の持分変動の規定みたい。これらのテストは、CFC全体の持分ではなく、自分が所有する持分を基に10%を算定するのがポイント。1つ目のテストは、例えば80%の持分を所有する支配株主が8.1%の持分を譲渡すると抵触する。2つ目のテストは、例えば、90%の持分を所有している支配株主が居て、CFCが他の株主に追加株式を発行することで、90%株主の持分が81%未満に低下してしまうようなケースが対象。この2つのテストを読んで、なんでテストが2つ必要なのか分かる人居る?どう考えても2つ目のテストだけで双方の状況をカバーしそうなもんだけど。そこが財務省の凄いところで、最初のテストは、例えばCFCの株主同士で同じ%の持分をスワップして譲渡する場合、誰の持分も低下しないけど、1つ目のテストの譲渡規定には抵触する仕組み。確かにその場合も、双方で譲渡益だのみなし配当だのっていう処理が発生するからなるほどね、って感じ。
で、これらのExtraordinary Reductionをトリガーする取引があった場合、Extraordinary Reductionがなければ支配株主が認識したであろうSub FやTested Incomeで、他の米国株主が認識することのない金額に対応するE&Pを基とする配当額がExtraordinary Reduction額となる。Extraordinary Reduction額としてDRDが否認される配当は、全額21%で課税され、Section 902はもう存在しないからFTCも取れない。
え~、そんなんだったらGILTIより酷いじゃん、って思うかもしれないけどその通り。GILTIだったら50%のGILTI控除があり、米国側がNOLでなければ最悪でも10.5%課税だし、FTCを考えれば場合によってはゼロ近くなることもある。一方、Extraordinary Reduction額としてDRDが否認されるとまるまる21%課税。これは余りに酷いということで、支配株主が自らGILTI課税を選択することが認められる。なんかGILTIが有難く見えてきたりして不思議だけどね。具体的にはExtraordinary Reductionが生じた時点でCFCの課税年度を終了させる選択。以前から言ってるようにCFC課税はCFCのCFCとしての課税年度が終了した時点で発生するものから、課税年度を終了させてしまえば自然とSub FやTested Incomeがフローアップしてくる。支配株主がこの選択をすると、他の株主から見てもCFCの課税年度が終了したように取り扱われることがある。21%課税と0~10.5%課税かの選択だから、選択とは名ばかりで実際にはオプションはなく常に選択をすることになるだろう。だったら、なぜ選択制とか言って格好つけてんのかってというと、多分だけど、法文的にCFC課税年度を強制終了させることはかなり無理があり、これを行政府が策定する規則で強制するのは、さすがに規則策定権限を逸脱してしまう、と考えたのではないだろうか。そこまでして課税年度を終了させてくれたりGILTI課税にしれくれたりして、チョッと優しいお心遣いっぽくもあるけど、単純にDRDを認めてくれたら本当の心遣いだったんだけどね。
ちなみに、Extraordinary Reductionには少額免除制度があり、CFCのSub FとTested Incomeの合計が$50MまたはCFCの課税所得の5%のいずれか低い金額を超えない場合には、Extraordinary Reduction額はゼロとみなされる。
このExtraordinary Reductionは日本企業がCFCを米国傘下から外す際に関係してくる。ついこの前の1月15日に提出した2019年3月期の法人申告書の作成で分かったと思うけど、米国の下にCFCを所有していると、GILTI支払いがあったところ、またGILTI合算でNOLを21%で食ってしまったところ、等の実害を実感したケースもさることながら、Form 8992、特にSchedule A、更に大幅に分厚くなったForm 5471の作成とか、コンプライアンス負荷はとても高い。それでも連邦は規則も大概において分かったし、IRSも良く内容を理解して様式をデザインしているので、GILTIやBEATを含むTCJAのクロスボーダー規定を原因とするコンプライアンス負荷は感覚的に130%アップくらいな感じだろうか。問題は州税。50 州+DCが各々主権国家として別の税法を制定している米国。以前から、どの州がどこまで連邦税法を取り込んでいるかとかバラバラで、実務的にはどこまで探求するべきか、っていう世界に突入してるとも言えるけど、TCJAのクロスボーダー規定を各州がどのように取り込むかに関しても規定がまちまちだったり、良く分かんなかったり。特にユニタリー合算制度との関係とか、州当局も追いついてないことも多い。また膨大な申告書を作成するソフトウェアベンダーも各州の様式や連邦からのデータインポートのタイムリーなアップデートが追い付かず、作成する際にマニュアルオーバーライドしたり、それにより合算計算が無茶苦茶になったりして大変。
日本企業のようなインバンド企業は、生まれながらにInversionしていると同然で米国MNCから見ると夢のようなストラクチャー。すなわち米国傘下からCFCを外すという奥の手があるので、事業上の目的に差支えのない範囲で今のうちに日本親会社の下とかにCFCを付け替えるのがいい。この移管自体にかかわる課税関係は、今回のポスティングのテーマのExtraordinary Reductionを含む複雑な規定を適用して検討する必要がある。ただ、Transition Tax等でCFC側のE&PがPTEPになって、CFC株式の税務簿価が増額している今がチャンス。数年したらCFC株式簿価のトラッキングだけでも訳分からなくなるリスクも高い。BEATはストラクチャー変えてもなくならないから、これだけでも面倒なのに、GILTIはストラクチャー的に合算計算を回避できるので、そのままにしておくってことは、相当のコンプライアンス負荷を覚悟した上での判断ってことになる。コンプライアンス負荷が高いと言うことは、すなわちリスクも高くなるし、会計事務所に支払うFeeも高くなるということ。会計事務所側の、規則の正確な把握も含む作業量増大は凄まじいからね。それでも1月15日の23時59分にはE-Fileが終わるから不思議だけどね(苦笑)。
それにしても、5回に亘ってテリトリアル課税対象所得が絶滅寸前っていうテーマで書いてきたけど、万一、そんな奇特なE&Pを分配することができたとしても、まだゲーム終了ではない。確率としては高くはないけど、GILTIにもSub FにもなってないE&Pを分配して、それがAnti-Hybrid規定に抵触したり、またはテリトリアル課税のDRD適格要件の保有期間を充たしていない配当があったりしたら、テリトリアル課税のDRDは適用されない。それどころかFTCの恩典もないので21%課税で最悪。そんなんだったら、これらも一層のことGILTIになってたら良かったのにね。物事は相対的なので、税負担的には結局GILTIってそんなに悪くないかな、って思わせる局面が多いね。さらにDRDの対象になったからと言っても喜ぶのはまだ早い、DRDの金額が相対的に大きいと、条件次第で配当時に株式簿価を減額させられ、簿価がゼロを割り込むとキャピタルゲインとなる。こちらも21%。またDRDの恩典を受けた後に、CFC株式を譲渡して損失が発生すると、損失計算目的で過去に計上したDRD額に関して株式簿価を減額しないといけない。全て21%で課税される税効果を持つ。散々だね(苦笑)
これらの規定をきちんと適用するには、CFC側のE&Pが何で構成されているのかを常に把握し、分配があったり、譲渡があったりする際には、分配や譲渡益が何なのかを理解しないといけない。実はこの点が規則の理解と並んで大変。テリトリアル課税になって、PureなE&Pも課税されないし、PTEPは課税済みだし、もうPTEPなんて管理しなくていいのでは、って思うかもしてないけど、どんな理由でいつPTEPになったかにより、為替差損益、FTCの取り扱いが異なるからしっかり管理しないといけない。PTEP分配で簿価がゼロを下回るとみなし譲渡益でこちらも21%課税だし。2019年1月のNoticeではPTEPだけでも16種類に区分されていた。皆さんは自社のCFCのE&Pがいくらで、16種類のPTEPのどこに属していて、滅多にないけどPureなE&Pがあったりするかご存知でしょうか?これ知らずして配当とかできないし、申告書の作成もできない。2017年末で一旦E&Pが洗浄されているのを機に今後は毎年トラッキングがMust。なかなか自分達ではできないのでBest ITS Practice Ever!(トランプのTwitterみたい)のEY US国際税務部門にFeeベースで依頼してみる(笑)?