Saturday, February 8, 2020

GILTI高税率免除規定

前回までテリトリアル課税の対象となる所得が絶滅寸前って話しを数回に亘りポスティングしてきたけど、その主たる原因は心無いハンターの乱獲、じゃなくてTransition TaxやGILTIを規定したTCJA、またSub FとGILTIが優先的に適用されるという財務省の新たな国際課税システムの世界観にある点に触れた。毎期、CFCの所得は原則全額GILTIとして米国株主側で合算されPTEPに生まれ変わっていく。そんな根本的な仕組みに一矢を報いるかもしれない規定が財務省規則案として公表されている。待望のGILTI高税率免除規定だ。

GILTIと言えば、今話題のOECDのBEPS 2.0 のIncome Inclusion Ruleのモデルだけど実際には似て非なるもの。OECDは2020年1月末にBEPS 2.0 の途中経過を公表し、「Fast Pace」で順調に推移しているフリ(?)をアピールしてて、ピラー1に関しては、「え~自動車業界はConsumer Facingだって名指しで指定されている一方、うちの業界は入ってないけど包括的なリストって訳じゃないから油断は大敵ってことか・・・」とか既に目を通された方も多いと思うけど、Annex 2にはピラー2の現状が記載されていた。で、そのコメントを読んでも、あそこまで焦ったタイミングの導入を正当化する「Policy Objective」が未だに明確でないように感じた。一方、Income Inclusion Ruleのお手本(?)となる米国GILTIはFDIIと共に機能し、米国MNCが米国外事業を行う際、これを米国から行っても海外のCFC経由で行っても米国法人税負担は同じという、ニュートラルな課税関係を提供し、米国MNCの行動パターンを変えさせる、という明確な目的に基づいて設計されている。FDIIっていう制度はGILTIとセットで理解する必要があり、FDIIだけ見て有害税制と言ってしまっては米国の制度設計面からは片手落ちだし、万一FDIIだけ消滅してGILTIだけ存続しようものなら、GILTI導入のPolicy的な意味合いも半減する。全然関係ないけど、システムロスなのに片側検証して所得を認定するような変な感じ?

ちなみに、OECDの作成する文書ってヨーロッパチックで、スペルも米語とは異なるし、用語も米語では馴染まないものが多く、個人的には一読して頭に入り辛い。科学の実験学習のようなフローチャートがついてたりしてたのはビジュアルで助かったけどね。

最終的にピラー2のIncome Inclusion Ruleの末路は現時点では不明だけど、OECDで提案されているミニマムタックス課税は、CFC側で所得がミニマム税率で課税されていないと判断されると、ミニマム税率との差額に当たる部分を本国株主側で支払わせる「Top-Up」方式となっている。一方、米国のGILTIはそうではなく、CFCがどんなに高い税率で課税されていても、みなしルーティンリターンを除き一旦全額米国で合算させられる。合算後に50%の控除があり、それで実効税率が21%の半分の10.5%に下がる仕組み。NOLがあったりして、50%控除が取れないと悲惨。更にCFCが毎期支払う法人税のうち、Tested Incomeに適切に対応すると取り扱われる金額の80%を間接税額控除として使うことができる。教科書的にはCFCが米国外でTested Incomeに対して13.125%の法人税を納めていれば、その80%は10.5%だから、米国で持ち出しの法人税は発生しないことになるし、実際にGILTIの立法趣旨にはそのように明記されている。でも現実には、FTCの制限枠算定時に米国株主側の費用の一部をGILTIバスケットに配賦することになるので、10.5まるまるGILTIバスケットのネット外国源泉所得として残ることは稀。結果としてGILTIバスケットに配賦された米国株主側の費用額の21%が米国における追加課税額となる。

この思わぬ(?)結果はGILTIが可決した直後から問題視されていて、財務省の規則策定権限を利用して、FTCの枠算定時にGILTIバスケットには費用を配賦しないでいいようにして欲しいとか、CFC側で13.125%以上で課税されている所得項目はTested Incomeから免除して欲しいとか、多くの「参考になる(苦笑)」コメントが納税者から財務省に寄せられていた。GILTI規則案では、これらのコメントは日の目を見ず、GILTIの法文に明確に規定されるかなり狭義な高税率免除しか認められていなかった。すなわち、Foreign Base Company Income(「FBCI」)またはInsurance IncomeとしてSub Fなんだけど、Sub Fに従来から規定される高税率免除規定でSub F合算から免除されている所得に限り、Tested Incomeからも免除してあげましょう、という規定だ。これはGILTIの高税率免除規定というよりは、Tested IncomeからSub Fが免除されている措置の延長と位置付ける方が実態に近い。

で、GILTI規則はそのまま最終化されてしまったけど、最終化の際に財務省は「新」規則案を公表し、ナンとGILTIに特化したフルの高税率免除規定案を提示した。元々の旧規則案から180度異なる展開と言え、納税者にとってはうれしい驚きとなった。免除を取り巻く規定がどちらかと言うと堅苦しいので、最終化の際にはもう少し弾力的な規定にして欲しいというコメントもあるけど、余り贅沢を言ってはいけない(?)。

GILTI法文からは読み取れないそんな広範なGILTI高税率免除規定をどうしたら行政府が規則として策定できるか、という法的権限は結構際どい。その証拠に、最初の旧規則案を策定した時点では財務省自ら法的に難しい、という解釈をしていたはず。それがここに来て一転しているのは、立法趣旨に基づくポリシー的なコールとしか言いようがない。ただ、ポリシーだけでは財務省は規則を策定できないから、例えストレッチしまくるにしても、何らかの法的な理論を構築しないといけない。で、いざとなると抜群の伸縮性を誇るストレッチマテリアルに変身してくれるのが手品師の財務省。Sub FのFBCIやInsurance Incomeに従来から適用可能だった高税率免除規定の法文を解剖し、その一部の表現に「全ての所得項目」に高税率免除規定が適用可能とも無理すれば読めなくもない部分があり、それを最大限利用し新らたな解釈を捻出している。なかなかクリエイティブ!議会が法文を変えることは今の政局では難しいだろうから、立法趣旨を反映させるため、End Result Orientedな苦肉の策と言える。納税者にとっては悪い話しではないので、規則策定権を問題視する者もいないだろし。

で、未だ最終化された訳ではないので余り詳細に検討してもしょうがないけど、GILTI高税率免除規定案の内容を簡単に紹介しておくと次の通り。

まず高税率免除がキックインされる税率だけど、18.9%。これは法人税率21%の90%を基準に高税率を規定しているため。TCJA以前は法人税率自体が35%だったので、その90%というと31.5%というとんでもない高税率で、そんな税率の国は今どき地球上には存在しないに近く、ほぼ役に立たない免除規定だった。それが法人税が21%に引き下げられ、その90%が18.9%になったことでSub F適用時には息を吹き返した感じだった。それがそのままGILTIにも拡大される可能性が出てきたと言うもの。立法趣旨的に13.125%を期待する向きもあったかもしれないけど、GILTI高税率免除規定はSub FのFBCIやInsurance Incomeに適用される高税率免除規定の法文を流用しているに過ぎないので、18.9%以外はあり得ないだろう。

次に実際に選択を行う者だけど、これはCFCの支配株主。まるで前回までのテリトリアル課税の対象所得のポスティングで触れたExtraordinary Reduction規定の課税年度をCloseする選択みたいだけど、これは従来のFBCIやInsurance IncomeにかかわるSub Fからの免除と同じ規定。支配株主による選択は選択対象となるCFCの米国株主全員に強制適用となる。

選択は対象となる課税年度に適用されるばかりでなく、納税者が取り消すまでその後の課税年度に自動適用され続ける。選択の取り消しは可能だけど、一度取り消すと、その後60カ月に亘り、IRSの特別な許可を受けない限り再選択が認められない。ただし、CFCの支配株主に変更があった場合は新たな支配株主による選択有無の判断が認められる。従来のFBCIやInsurance IncomeにかかわるSub Fからの高税率免除は、課税年度毎に自由に選択ができるので、60カ月の待機要件はGILTIに対する特別要件。GILTI、特にGILTIバスケットのFTCの状況は毎年異なるので、この5年の縛りは厳しく、緩和リスエストが多く財務省に寄せられているだろう。

で、選択対象は基本個々のCFC単位だけど、従来のFBCIやInsurance IncomeにかかわるSub Fの免除と異なり、共通の支配株主および関連者が直接・間接に50%超の議決権を有する2社以上のCFCを共有支配CFCグループとし、当グループ内CFCには、GILTI高税率免除規定の選択有無を一貫して適用しないといけない。また、選択はCFC単位で行った上で、高税率かどうかの判断は所得項目毎の判断となる。となると、どんな括りで所得項目を特定するかが最重要検討事項になるけど、GILTI規則案では、ここはQBU単位と言っているよう。QBUっていうのはQualified Business Unitのことで、元々機能通貨の適用単位にかかわる規則で登場するコンセプトなんだけど、TCJAでFTCに支店バスケット追加されたり、FDIIも支店所得は対象外だけど、支店という概念をきちんと整理している規定が他にないので、TCJAの世界ではQBUが機能通貨以外の目的で支店の定義として流用されることが多い。

で、GILTI高税率免除規定の適用時に、高税率かどうかっていうのはQBU単位での判断となることから、CFC自体、そしてDRE、本当の支店、等に属する所得は各々税率何%で外国で課税されているのかの判断が必要となる。選択はCFC単位だけど、一旦選択した後、DREとかQBU毎に税率を判断し、低税率の部分には免除が適用されないことになる。米国MNCはCheck-the-BoxでDREを多用しているからここの検討は複雑だろうね。

まあ、これから最終化される過程で細かい規定には変更が加えられることもあるだろうから、詳細は最終化されてから深掘りしてみたい。でも、このままの流れでGILTI高税率免除規定が最終化されて、その適用でCFCの所得がGILTIから免除されると、前回までのポスティングで触れてきたテリトリアル課税の対象所得の候補が一人増えることになる。絶滅するかと思ってたら、急に新種の生物が空から降って来た感じ。

ちなみにGILTI高税率免除規定は財務省規則案が最終化される以前に早期適用することは認められない。でも財務省による高税率免除の法的な正当性を読む限り、規則案ではなく法文に基づいて直ぐにでもGILTI高税率免除を適用するポジションもあり得るように感じられ、ついフライングしたくなるけどね。