法律事務所の「タックスヘイブン(租税回避地)」にかかわる機密文書が大量にリークされた「パナマ文書」は、そんなことだろうな、と思っていたことがやっぱり現実だったことが確認・露呈され、各国で話題だけど、パナマ文書に秘められたメッセージはどう解読するべきなんだろう。
今日のポスティングは米国税法のテクニカルな話しではないのであくまで私見というか個人的な感想に過ぎないけど、まず気になるのはこの「タックスヘイブン」という用語。この用語はパナマ文書が暴露している事の真相を捉える上で紛らわしいというか余り適切な表現ではないように思う。タックスヘイブンというと、「タックス」という表現から、課税逃れのために裕福な個人の資産がオフショアに逃避しているのが主たる問題かのように聞こえがちだけど(当然それも問題のひとつではあるけど)、オフショアの世界はもっとディープだ。オフショアはあらゆる法律から逃れようとする資産に隠れ家を提供しているというもっとズッと広範な問題だ。インサイダートレーディング、相続、贈収賄、他の犯罪等にかかわるありとあらゆる法律の適用を回避するために、お金がアンダーグランドに隠れて行き、真のオーナーどころか資産の存在そのものが他の世界からは分からないように仕組まれている。資産の存在そのものが分からなければ、課税など当然できるはずもない。
オフショアは、個人が蓄財目的で、秘匿性の高い場所にこっそり貯蓄しているという程度の問題ではなく(これはこれでもちろん問題だけど)、国家の中枢、軍、諜報機関などの一般人のレベルを超越した大物達が巨額な利益を得たり、世界の政治を有利に動かすために利用しているもっと凄いものだ。
このような観点からは「タックスヘイブン」という用語よりも「オフショア」という方が、問題がタックスに限定されない感じが良く出ていて適切なように思う。オフショアという用語には広範な秘匿性が暗示されているように感じるし、その意味でタックスヘイブンというよりも問題の実態をより直感的に伝えているように思う。
オフショアというと、英国から札束の入ったアタッシュケース片手に船に乗ってチャンネル諸島のジャージーとかに行き、文字通り陸から離れた遠方に出向かないといけないイメージが強いけど、物理的にオフショアに位置するエキゾチックな島を利用する必要は無く、秘匿性が高ければ「オン」ショアのスイスでもルクセンブルグでも、また米国内の州でも立派にオフショアの役を果たすことができる。
米国内のオフショアの話しをする際に、タックスヘイブンという切り口でDelaware州かNevada州に法人を設立するとまるで全然課税されないかのようなニュアンスの記事とかを見ることがあるけど、実際にはそんなことはない。Delaware州にしてもNevada州にしてもそれらの州の法人は当然、米国法人なのでフルに連邦法人税の対象になるし、Delaware州とかNevada州に法人を設立しても、実際に事業を行っているのがCalifornia州とかNew York州であれば設立州には一切関係なく、各州内活動の比率に準じて各州で課税対象となる。もし、Nevada州の関連法人に合法的に他州(しかもユニタリー課税を採択していないところ)の法人の所得を移転させることができれば確かに節税には繋がる。もちろんNevada州にある法人で真のオーナーが分からなければいろいろと悪用されることは十分に想定され、その意味で、不公正な環境を提供している点は否めない。
Delaware州にいくつペーパーカンパニーがあってとか、グーグルとかアップルまでもがDelaware州に登記されているとか、「South DakotaのTrustがな・・・」とかいう切り口で話していても余りオフショアの問題の真髄に切り込んでいる感じはしない。米国の上場企業は合法的な節税こそ最大限に探求しているとは言え、オフショアに隠れ法人とか口座を持って脱税しているようなことは考えられない。でも上場企業のほとんどがデラウェア州で設立されている、または上場の際にデラウェア法人に生まれ変わるのは、節税ではなく、株主訴訟等に関して会社よりの判例が充実していたり、会社法が弾力的な理由により、特に疚しいことは何もない。NYCの会社法とかM&A専門の弁護士が基本的にデラウェア法を扱っているのもこの理由。何か問題があるとしたら、グーグルとかアップルではなく、デラウェア法の秘匿性を利用したシェルカンパニーを通じて脱税その他の違法行為をしているようなケースに限定されるはず。これはケイマン島とかの本当のオフショアに関しても同じことだ。この点は報道を読む際に良く理解しておかないと玉石混淆で問題の本質が分からなくなってしまう可能性が高い。
このように、オフショアは、その秘匿性、すなわちタックスに限定されない広範な法律から逃避できる環境を提供している点が一番問題だと言えるけど、更にその利用が実質、スーパーリッチな一部の者に限られている点も大きな特徴であり、更なる問題だろう。スーパーリッチというと、有名スポーツ選手、芸能人、個人経営者を想像しがちかもしれないが(もちろんこれらのジャンルでも利用している方もいるだろうけど)、オフショアの更なるディープな問題・本質はそのレベルを超えて、巨大な利権も持つ政治家とかいろんな国の国家主権の中枢までもが絡み、とてつもなく富が偏るシステマチックに不公平な世の中を形成する強力な土台となっている点ではないだろうか。
そのような大枠の話しからすると、僕達が毎日格闘しているタックスヘイブンの世界は、「これはCFC課税だな・・」とか「ここはPFICも考えないといけなかったか・・」とか「ちゃんとFBARとか8938ファイルした?」とか「英国が19%の税率になると日本のCFC課税も気にしないとまずいな・・」とか、かなり真面目と言うか比較的イノセントな世界での話しだ。OECDのBEPSとかもあくまでも法律にきちんと準拠する人たちを念頭においての話しだし。情報の透明性を確保するためFATCAとか、またもっと大きなスケールではCRSとかが徐々に浸透してきて、どの程度、オフショアの本質的な問題が解決していくのかはまだまだ未知の世界と言える。
巨大な利権とか国家主権の中枢とかの真の大物が登場してきてしまうと、毎日地道に暮らしている一般庶民にはオフショアの存在そのものが遠い世界の話しだし、大手メディアの報道も腰が引けてるのかもしれないし、オフショアの本質的な問題はなかなか肌で感じられないものとなっている。なので、実は知らず知らずのうちに高税率とかを通じてオフショアの被害者になっていたり、民主主義にあるべき基本的な公正さが欠如していても中々気が付かなかったりする。すなわち無力感すら理解できていなかったのが現実かも。その意味で、パナマ文書は一般庶民に恐ろしくパワフルなオフショアの世界を垣間見せてくれて、その結果、少なくとも無力感だけは認識、共有できたという大きな意味(?)を提供してくれたのかもしれない。
Saturday, June 25, 2016
Saturday, June 11, 2016
日米租税条約改正は一体いつ発効?(3)
前回は、米国で5年間という長期間に亘り租税条約が一切批准されていないという異常事態の中心人物であるRand Paulの父、Ron Paulの話しをしたが、当のRand Paulはどんな政治家なのだろうか。またなぜ租税条約ごとき(?)にそれほどの目くじらを立てているのだろうか?
Rand Paulも父同様、医学部を卒業して眼科医(お父さんは産婦人科医)をして開業していた経歴を持つ。父のRon Paulの政治活動を手助けするうちに自らも政治にかかわるようになり、現在ではケンタッキー州の上院議員だ。共和党の中でも米国の憲法が意図していた小さな政府と最大限の個人の自由を尊重するというまさに父Ron Paul譲りの主張を持つ保守派となる。すなわち、LibertarianとかTea Partyの支持派と考えていいだろう。2016年の大統領候補であったが、トランプ旋風に圧倒され他候補者同様、2016年前半には戦線を離脱せざるを得ない状況となった。
これが租税条約とどのように関係してくるかと言うと、条約には通常、米国と外国政府との間で情報交換ができる規定が盛り込まれている。これがPaul先生の信条に反するところとなる。すなわち、個人の自由とか権利が必ずしも米国憲法下のように保障されていない外国に米国市民の情報が流れたり、また圧制抑圧的な国の政府が自国民の情報を米国から入手して政治的に利用したり、と言う点が米国憲法の趣旨に反するというのが基本的な問題点となる。確かに外国で迫害されているような者が米国に避難していたり、投資をしていたりするケースは十分に想定される。また、外国政府による情報収集は実質、捜査令状のない押収捜査に当たると考えられる部分もあり、個人の自由を侵害する悪の手となり兼ねないというものだ。
このRand Paulが居るおかげで、近年の条約はまずは上院外交委員会を中々通過することができない。ただ、ここは何回か突破している実績がある。日米租税条約の改訂議定書はそもそも2015年夏までオバマ大統領が上院外交委員会にすら回していなかったという不手際があったが、2015年秋に上院外交委員会では一応可決されている。他の条約はその前の年にも同様に可決されている実績がある。ちなみにこの決議をした2015年10月29日の上院外交委員会だが、ナンとRand Paul先生がDC以外で大統領選挙の共和党の討論会か何かに出席している隙を見計らって可決したという中学生レベルの戦術が使われている点がおかしい。
Rand Paulが大統領候補であった一時期、もしかしたら条約に対する頑なな態度が軟化するのではないか、と思われる節があった。彼が情報交換に反対するのは米国の情報が秘匿安全性に欠ける外国に漏れるのを懸念してのことだが、情報交換規定には逆にスイス等の国との情報交換で米国市民による脱税関係の情報も入手できるという側面がある。一部のメディアがこの点に目を付けて、Rand Paulは金持ち脱税の幇助をしている、という趣旨の非難記事を展開したことがあった。これを受けて、他の上院議員一部が仲介する形でRand Paulの顔を立てながら条約の批准が行われるような策が模索された。ところが大統領選挙から離脱してしまい、今更このような方向転換をする必要がなくなってしまったため、また振り出しに戻ったような状況だ。
2015年10月29日に上述の通り、Paul先生が遊説のためOut-of-Town中に他の条約と並び、日米租税条約の改定議定書も上院外交委員会を通過し、財務省もTechnical Explanationを公表したりしたので、「いよいよ批准間近か?」という憶測が一部には流れていた。実際には事態はそんなに甘くない。この後のプロセスとして、上院外交委員会が再度招集され、そこで上院全体の審理に回すかどうかの検討が行われる必要があり、上院に回された後、上院で批准が可決されると、次に大統領の署名が行われ、その後、日米で批准書の交換が行われた時点で初めて発効となる。実に面倒で長いプロセスだ。
一旦上院の本会議に回ると、批准は2つの方法のどちらかで可決される必要がある。1つは「全員一致の書面決議」という方法。これは一人でも反対する者が居ると成り立たない。で文字通り、一人反対しているPaul先生が居る限り、この方法は使えない。もう1つの方法は議場での審理の末、「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票で可決するという方法だ。こちらはPaul先生一人の反対があってもテクニカルには可能な方法と言えるが、議場での審理はかなりの時間を要するという事情があり、他に切迫した審理事項が山済みであろうと推測される上院で租税条約の批准に多くの時間を割くという余裕、インセンティブは余りないように思う。現に2015年はそのまま散会となってしまい、そうなると2016年には再度、上院外交委員会での審理をまた一からやり直す必要があり、堂々巡りとなってしまっている観が強い。
ここまで批准ができないと当然、現状で米国とまじめに条約の締結交渉をしたり、改正交渉をしたりという意欲は相手国側では薄れてくる。他国が「米国とはまじめに交渉したりしても、5年以上も塩漬けにされるんだったら他の国を優先するか・・」という感覚を持つのも当然だろう。財務省はBEPSに対抗する形でModel Treatyの改訂を発表したり意欲的だが、肝心の議会がこの調子では、Model Treatyの内容を反映させる新しい条約に合意できたとしても、批准されるのはいつのこととなるか全く分からない。Rand Paulの情報交換反対の手綱が緩まる気配がない状況で、日米租税条約改定の批准見込みは現時点では一切立っていない今日この頃でした。
Rand Paulも父同様、医学部を卒業して眼科医(お父さんは産婦人科医)をして開業していた経歴を持つ。父のRon Paulの政治活動を手助けするうちに自らも政治にかかわるようになり、現在ではケンタッキー州の上院議員だ。共和党の中でも米国の憲法が意図していた小さな政府と最大限の個人の自由を尊重するというまさに父Ron Paul譲りの主張を持つ保守派となる。すなわち、LibertarianとかTea Partyの支持派と考えていいだろう。2016年の大統領候補であったが、トランプ旋風に圧倒され他候補者同様、2016年前半には戦線を離脱せざるを得ない状況となった。
これが租税条約とどのように関係してくるかと言うと、条約には通常、米国と外国政府との間で情報交換ができる規定が盛り込まれている。これがPaul先生の信条に反するところとなる。すなわち、個人の自由とか権利が必ずしも米国憲法下のように保障されていない外国に米国市民の情報が流れたり、また圧制抑圧的な国の政府が自国民の情報を米国から入手して政治的に利用したり、と言う点が米国憲法の趣旨に反するというのが基本的な問題点となる。確かに外国で迫害されているような者が米国に避難していたり、投資をしていたりするケースは十分に想定される。また、外国政府による情報収集は実質、捜査令状のない押収捜査に当たると考えられる部分もあり、個人の自由を侵害する悪の手となり兼ねないというものだ。
このRand Paulが居るおかげで、近年の条約はまずは上院外交委員会を中々通過することができない。ただ、ここは何回か突破している実績がある。日米租税条約の改訂議定書はそもそも2015年夏までオバマ大統領が上院外交委員会にすら回していなかったという不手際があったが、2015年秋に上院外交委員会では一応可決されている。他の条約はその前の年にも同様に可決されている実績がある。ちなみにこの決議をした2015年10月29日の上院外交委員会だが、ナンとRand Paul先生がDC以外で大統領選挙の共和党の討論会か何かに出席している隙を見計らって可決したという中学生レベルの戦術が使われている点がおかしい。
Rand Paulが大統領候補であった一時期、もしかしたら条約に対する頑なな態度が軟化するのではないか、と思われる節があった。彼が情報交換に反対するのは米国の情報が秘匿安全性に欠ける外国に漏れるのを懸念してのことだが、情報交換規定には逆にスイス等の国との情報交換で米国市民による脱税関係の情報も入手できるという側面がある。一部のメディアがこの点に目を付けて、Rand Paulは金持ち脱税の幇助をしている、という趣旨の非難記事を展開したことがあった。これを受けて、他の上院議員一部が仲介する形でRand Paulの顔を立てながら条約の批准が行われるような策が模索された。ところが大統領選挙から離脱してしまい、今更このような方向転換をする必要がなくなってしまったため、また振り出しに戻ったような状況だ。
2015年10月29日に上述の通り、Paul先生が遊説のためOut-of-Town中に他の条約と並び、日米租税条約の改定議定書も上院外交委員会を通過し、財務省もTechnical Explanationを公表したりしたので、「いよいよ批准間近か?」という憶測が一部には流れていた。実際には事態はそんなに甘くない。この後のプロセスとして、上院外交委員会が再度招集され、そこで上院全体の審理に回すかどうかの検討が行われる必要があり、上院に回された後、上院で批准が可決されると、次に大統領の署名が行われ、その後、日米で批准書の交換が行われた時点で初めて発効となる。実に面倒で長いプロセスだ。
一旦上院の本会議に回ると、批准は2つの方法のどちらかで可決される必要がある。1つは「全員一致の書面決議」という方法。これは一人でも反対する者が居ると成り立たない。で文字通り、一人反対しているPaul先生が居る限り、この方法は使えない。もう1つの方法は議場での審理の末、「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票で可決するという方法だ。こちらはPaul先生一人の反対があってもテクニカルには可能な方法と言えるが、議場での審理はかなりの時間を要するという事情があり、他に切迫した審理事項が山済みであろうと推測される上院で租税条約の批准に多くの時間を割くという余裕、インセンティブは余りないように思う。現に2015年はそのまま散会となってしまい、そうなると2016年には再度、上院外交委員会での審理をまた一からやり直す必要があり、堂々巡りとなってしまっている観が強い。
ここまで批准ができないと当然、現状で米国とまじめに条約の締結交渉をしたり、改正交渉をしたりという意欲は相手国側では薄れてくる。他国が「米国とはまじめに交渉したりしても、5年以上も塩漬けにされるんだったら他の国を優先するか・・」という感覚を持つのも当然だろう。財務省はBEPSに対抗する形でModel Treatyの改訂を発表したり意欲的だが、肝心の議会がこの調子では、Model Treatyの内容を反映させる新しい条約に合意できたとしても、批准されるのはいつのこととなるか全く分からない。Rand Paulの情報交換反対の手綱が緩まる気配がない状況で、日米租税条約改定の批准見込みは現時点では一切立っていない今日この頃でした。
Saturday, June 4, 2016
日米租税条約改正は一体いつ発効?(2)
前回から、2013年1月にせっかく両国で合意されたにもかかわらず未だに米国での批准プロセスが終了しないために日の目を見ない「日米租税条約8年ぶりの改正」の話しを始めた。途中で憲法論というか、Federalismとは、みたいな話しで盛り上がり過ぎて肝心の条約改正の現状に話しが至らなかったので、今回はその辺りから始めたい。
租税条約の批准は上院の管轄である点は前回のポスティングで触れているが、実際には上院の中でも2つのステップを踏む必要がある。まず最初に「Senate Foreign Relations Committee(上院外交委員会)」というところがヒアリングを行い、そこで可決されると本当の上院の審理に回され、その後上院では「全員一致」の決議書、または議場で「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票、のいずれかで可決される必要がある。
米国では実はここ5年間、条約または条約改正が一度も批准されていない。批准を待っているものは、日米条約改正だけではなく、チリ、ハンガリー、ポーランド各国との条約、ルクセンブルグ、スペイン、スイス各国との条約改正と実に7カ国分に及ぶ。余りに進展がないので、2015年後半の上院外交委員会のヒアリングには、財務省国際税務課副次官補(日本語で書くと漢字だらけで凄いタイトルだけど、英語ではDeputy Assistant Secretary of International Tax Affairsと分かり易い)のRobert Stackが5年間も批准がない点に憂慮を表明し、迅速に批准をするよう要請したりして、財務省側のフラストレーションを露呈してていた。このRobert Stackは僕も法曹界の集まりみたいなところでライブで話しを聞いたことがあるが、歯に衣着せぬ物言いで、きつい感じではあったがはっきり意見を言うので、ある意味聞いていて気持ちが良い印象を持っている。大騒ぎになっている過少資本税制の規則案にしても「別に皆が言うような大転換(Seas Change)でも何でもなく、規定も大して複雑ではなく、なぜ皆が大騒ぎしているのか分からない」というような発言をして納税者側を唖然とさせたりして、話しを聞くのが楽しみな方の一人だ。
となると、日米条約改正も、まずは上院外交委員会を突破する必要があるが、何と、この条約改正、そもそもオバマ大統領から上院外交委員会に回されたのが2015年の夏になってのことだそうだ。上院外交委員会自体も租税条約を上院に中々回さないと聞いていたので、「本当に委員会はしょうがないな・・」と思っていたが、実は2年以上もそのレベルにも至っていなかったこととなる。「一体それまで何を・・」と不思議に思わざる得ないが、オバマ政権にしても上院に回したところで可決の目処も立たず、どっちにしても同じと諦めムードだったのかもしれない。
いづれにしても漸く2年という長い年月を経て上院外交委員会に回された日米条約改正だが、この上院外国委員会には「租税条約キラー」の上院議員Rand Paulが君臨しているため、ここを突破するのも並大抵のことではない。
このRand Paulは共和党議員だが、同じく共和党議員のRon Paulの息子だ。Ron Paulは共和党議員ではあるが、思想はLibertarianで、すなわち米国建国の理念に近い、Maximum FreedomおよびMinimum Governmentを理想としている。数年前には大統領候補として、若者を中心に草の根っぽい大きな支持を集め「Ron Paul Revolution」現象を引き起こした大物だ。Ron Paulには風見鶏的な要素が全くなく、共和党員でありながらイラク戦争に反対票を投じたのを始め、彼のVoting Recordは筋の通った立派なものだ。連邦政府が海外で覇権主義的な活動を繰り返すのがそもそも米国を標的にするテロの原因であるとか、Federal Reserve Boardのような機関が人工的に利率を調整したりするからサイクル的に必ず金融危機に陥る、とか指摘し、Federal Reserve Boardは大統領に当選したらその日に解散させる勢いだった。また、連邦政府が市場に介入して景気刺激策のようなことにかかわること自体、自由経済に対する弊害であるとして、連邦政府の経済へのかかわりは最小限、税率を低く(場合によっては連邦税は撤廃?)して環境を整えるべき、という発想の持ち主であった。同じ若者を魅了しているRevolutionでも今年のBernie Sandersとは両極端なアプローチであるところが興味深い。Ron PaulはDukeの医学博士号を持つ産婦人科医でもあり、また空軍の軍医だったりとスーパーマン的な経歴の持ち主でもある。
そんな父を持つRand Paulだが、なぜそんなに租税条約に拒絶反応を示すのだろうか?ここからは次回。
租税条約の批准は上院の管轄である点は前回のポスティングで触れているが、実際には上院の中でも2つのステップを踏む必要がある。まず最初に「Senate Foreign Relations Committee(上院外交委員会)」というところがヒアリングを行い、そこで可決されると本当の上院の審理に回され、その後上院では「全員一致」の決議書、または議場で「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票、のいずれかで可決される必要がある。
米国では実はここ5年間、条約または条約改正が一度も批准されていない。批准を待っているものは、日米条約改正だけではなく、チリ、ハンガリー、ポーランド各国との条約、ルクセンブルグ、スペイン、スイス各国との条約改正と実に7カ国分に及ぶ。余りに進展がないので、2015年後半の上院外交委員会のヒアリングには、財務省国際税務課副次官補(日本語で書くと漢字だらけで凄いタイトルだけど、英語ではDeputy Assistant Secretary of International Tax Affairsと分かり易い)のRobert Stackが5年間も批准がない点に憂慮を表明し、迅速に批准をするよう要請したりして、財務省側のフラストレーションを露呈してていた。このRobert Stackは僕も法曹界の集まりみたいなところでライブで話しを聞いたことがあるが、歯に衣着せぬ物言いで、きつい感じではあったがはっきり意見を言うので、ある意味聞いていて気持ちが良い印象を持っている。大騒ぎになっている過少資本税制の規則案にしても「別に皆が言うような大転換(Seas Change)でも何でもなく、規定も大して複雑ではなく、なぜ皆が大騒ぎしているのか分からない」というような発言をして納税者側を唖然とさせたりして、話しを聞くのが楽しみな方の一人だ。
となると、日米条約改正も、まずは上院外交委員会を突破する必要があるが、何と、この条約改正、そもそもオバマ大統領から上院外交委員会に回されたのが2015年の夏になってのことだそうだ。上院外交委員会自体も租税条約を上院に中々回さないと聞いていたので、「本当に委員会はしょうがないな・・」と思っていたが、実は2年以上もそのレベルにも至っていなかったこととなる。「一体それまで何を・・」と不思議に思わざる得ないが、オバマ政権にしても上院に回したところで可決の目処も立たず、どっちにしても同じと諦めムードだったのかもしれない。
いづれにしても漸く2年という長い年月を経て上院外交委員会に回された日米条約改正だが、この上院外国委員会には「租税条約キラー」の上院議員Rand Paulが君臨しているため、ここを突破するのも並大抵のことではない。
このRand Paulは共和党議員だが、同じく共和党議員のRon Paulの息子だ。Ron Paulは共和党議員ではあるが、思想はLibertarianで、すなわち米国建国の理念に近い、Maximum FreedomおよびMinimum Governmentを理想としている。数年前には大統領候補として、若者を中心に草の根っぽい大きな支持を集め「Ron Paul Revolution」現象を引き起こした大物だ。Ron Paulには風見鶏的な要素が全くなく、共和党員でありながらイラク戦争に反対票を投じたのを始め、彼のVoting Recordは筋の通った立派なものだ。連邦政府が海外で覇権主義的な活動を繰り返すのがそもそも米国を標的にするテロの原因であるとか、Federal Reserve Boardのような機関が人工的に利率を調整したりするからサイクル的に必ず金融危機に陥る、とか指摘し、Federal Reserve Boardは大統領に当選したらその日に解散させる勢いだった。また、連邦政府が市場に介入して景気刺激策のようなことにかかわること自体、自由経済に対する弊害であるとして、連邦政府の経済へのかかわりは最小限、税率を低く(場合によっては連邦税は撤廃?)して環境を整えるべき、という発想の持ち主であった。同じ若者を魅了しているRevolutionでも今年のBernie Sandersとは両極端なアプローチであるところが興味深い。Ron PaulはDukeの医学博士号を持つ産婦人科医でもあり、また空軍の軍医だったりとスーパーマン的な経歴の持ち主でもある。
そんな父を持つRand Paulだが、なぜそんなに租税条約に拒絶反応を示すのだろうか?ここからは次回。
Sunday, May 29, 2016
日米租税条約改正は一体いつ発効?
2013年1月のポスティング「日米租税条約8年ぶりに改正」で触れたように日米租税条約は両国が議定書にサインをして改正が合意されて久しい。ところが、この議定書、2013年1月24日にサインこそされたものの、米国側の批准手続きが完了しておらず、ナンと未だに効力がない。2013年1月と言えば3年以上も前の話しなので、尋常ではない。言い方は悪いかもしれないけど、日本的に考えれば両国がサインして合意した条約改定の批准など、単なる手続き、すなわちラバースランプ的な感覚があり、その意味で、とっくに改正が発効していると勘違いされている方がいても不思議はない。または逆に議定書の存在自体が忘れ去れているイメージもある。
改正のうち特に、「支払利息の源泉税ゼロ%化」と「移転価格の更正に対する両国間のArbitration(仲裁規定)」の導入は待ち望んでいた納税者も多いだろう。租税条約改正という一見無害というか地味と言うかの合意に対する米国の批准手続きがここまで滞っているのはなぜだろうか?実は、これは米国には恐るべし「租税条約キラー」の上院議員が一人存在することに帰する。その話しを理解するため、というかその前に、まず米国の条約の位置づけを簡単におさらいしてみたい。
今更だけど、米国はFederalism(連邦制)に基づく統治形態を敷いているので、連邦政府と州政府の双方が主権国家的な存在となっている。となると双方の政府で制定される法律の相対的な力関係を規定しておかないと運営不可能となる。そこで、米国の連邦憲法には「Supremacy Clause」、 最高法規条項とでも訳されるのだろうか、が規定されており、連邦に法律を規定する権限がある場合、連邦法は州法より優先とされる。いわゆる「Preemption」のことだけど、ここでいう「連邦法」には憲法に基づいて制定される連邦法と並び「条約」が含まれている。
Federalismを理解する上で重要なポイントは、連邦政府は憲法で定められた限定的なパワーのみを持つ一方、州は通常の国同様に一般福祉を含む全ての権限を持っている点だろう。したがって州は、Freedom of SpeechとかEqual ProtectionとかのBill of Rightsに抵触しない限り、好きな法律を制定することができる一方、連邦は憲法で認められる分野、例えば移民分野とか州間の通商であるInterstate Commerceとか、憲法で名言されている分野でのみ法律を制定することができる。一旦、連邦が法律制定の権限を持つと認められると、連邦法と矛盾する州法は無効となる。米国憲法を200年以上も前にドラフトした賢者達は歴史の過ちから、連邦政府を限定的なパワーを持つ機関とすることで、連邦政府が巨大となったり、官僚的に成り過ぎて機能不全となる可能性を恐れ、予め釘を刺していたことになる。
この、連邦政府の権限がどこまで及ぶのかという点は米国のポリティクスを理解する際の最重要ポイントのひとつで、一般に共和党は小さく、民主党は大きく、という方向となる。州、市民等が「そんなことは連邦に言われる筋合いはない」すなわち「憲法で規定される連邦政府の権限を逸脱している」とする訴訟が持ち込まれることは数多い。クラシックな例としては大統領選挙の際に必ず候補者がリトマス試験的に指示するかどうか質問される「Roe v. Wade」がある。その質問の趣旨は、必ずしも中絶そのものを良しとするかどうかということではなく(そのように報道されることがほとんどだし、実際そのようなイデオロギー的な側面も強いけど)、テクニカルな面では、州が自州の住民の意思として決定することを、連邦政府がどこまでどのような憲法で与えられた権限をもって抑制、制御する権利があるのかという憲法解釈となる。
オバマケアにかかわる最高裁判所での判断もまさにその点だ。、憲法上、一般社会福祉的な法律を制定する権限は連邦政府にはなく、ここは典型的な州政府の領域であるにもかかわらず、このような法律を制定してしまったことに対するチャレンジだ。すなわち、国民みんなが医療保険に加入する方がいいかどうか、という判断と言うよりは、そんなことは巨大な連邦政府にあれこれ言われる筋合いはなく、法制化するのであれば庶民に近い州政府が決めればいいことではないかということだ。すなわち、こんな分野に連邦政府が手を出していいのかどうか、という疑問・検討となる。この点は2012年1月にポスティングした「オバマケアは税法だった?」を参照して欲しい。最高裁判所は苦し紛れにオバマケアは「税法でした」と位置づけ、となると連邦政府はもちろん連邦税を規定する権限を今日では持っているので、オバマケアも合憲となった。Casting Voteを握った最高裁判所主席判事のRobertsは保守派のRehnquistの後継ぎとしてブッシュ(ジュニア)政権が任命した保守派と見られていただけに、共和党は判決に大きなショックを受けたのは間違いない。憲法を原文通り厳格に解釈し続けた知の巨匠Scaliaも今年亡くなってしまったし。Rehnquist率いる最高裁判所時代には「Lopez」というLandmarkケースで連邦政府が何でもかんでもCommerce Clauseに託けて法律を制定する姿勢に一矢報いている。最近話題になっているTransgenderの人が男女どちらのバスルームを使用するか、という点に連邦政府が口を出し、既に11州が越権行為として訴訟を起こしているニュースは皆さんも耳にしているんではないでしょうか。この問題は連邦の権限に加え、連邦内の三権分立の問題、すなわち行政機関となるオバマ政権が議会を通さずにこのような規則を発行していいものかどうかという点も議論となる。
と、憲法論で余り興奮し過ぎないうちに(と言うかもう十分に興奮し過ぎたので?)、条約に話しを戻すと、連邦法として条文法と条約が併記されていることは、いくつかの必然的な結果をもたらす。条約の締結は、三権分立の行政に属する大統領に権限が与えられており、プラスで立法機関の一部である上院の批准が必要とされている。通常の法律は上院と下院の双方を通過しないといけいないことから、そのような法律と同列のパワーを持つ条約が上院のみの批准でOkというのは、下院から見ると自分たちを手を通らないにもかかわらず、条文と同じパワーを持つ法律が制定されてしまうことを意味する。当然、下院からすると面白いことではない。
さらに、条文と条約の双方が「Supreme Law of the Land」として同等のパワーを持って君臨しているとすると、2つの法律の規定が相反する場合にどちらに軍配が上がるか、という単純な問題が発生する。普通に考えたら、外国と約束して、税法的には内国法よりも有利にするのが条約なので、条約が勝つと思う人が多いのではないだろうか。実際に税法の話しをしているとそのように考えている人に出会うことがある。税法(Internal Revenue Code)と租税条約が並列にある点はわざわざSection 7852(d)にもその旨が規定されている。では、引き分けで終るのか、というとそうではなく米国では「Later in Time(後法優先)」すなわち後に出来た方が優先というのが基本的な考え方だ。
この条約、二国間で合意されると上院の批准が必要となる。さて、どうしてこの批准が3年経っても完了しないかは次回。
改正のうち特に、「支払利息の源泉税ゼロ%化」と「移転価格の更正に対する両国間のArbitration(仲裁規定)」の導入は待ち望んでいた納税者も多いだろう。租税条約改正という一見無害というか地味と言うかの合意に対する米国の批准手続きがここまで滞っているのはなぜだろうか?実は、これは米国には恐るべし「租税条約キラー」の上院議員が一人存在することに帰する。その話しを理解するため、というかその前に、まず米国の条約の位置づけを簡単におさらいしてみたい。
今更だけど、米国はFederalism(連邦制)に基づく統治形態を敷いているので、連邦政府と州政府の双方が主権国家的な存在となっている。となると双方の政府で制定される法律の相対的な力関係を規定しておかないと運営不可能となる。そこで、米国の連邦憲法には「Supremacy Clause」、 最高法規条項とでも訳されるのだろうか、が規定されており、連邦に法律を規定する権限がある場合、連邦法は州法より優先とされる。いわゆる「Preemption」のことだけど、ここでいう「連邦法」には憲法に基づいて制定される連邦法と並び「条約」が含まれている。
Federalismを理解する上で重要なポイントは、連邦政府は憲法で定められた限定的なパワーのみを持つ一方、州は通常の国同様に一般福祉を含む全ての権限を持っている点だろう。したがって州は、Freedom of SpeechとかEqual ProtectionとかのBill of Rightsに抵触しない限り、好きな法律を制定することができる一方、連邦は憲法で認められる分野、例えば移民分野とか州間の通商であるInterstate Commerceとか、憲法で名言されている分野でのみ法律を制定することができる。一旦、連邦が法律制定の権限を持つと認められると、連邦法と矛盾する州法は無効となる。米国憲法を200年以上も前にドラフトした賢者達は歴史の過ちから、連邦政府を限定的なパワーを持つ機関とすることで、連邦政府が巨大となったり、官僚的に成り過ぎて機能不全となる可能性を恐れ、予め釘を刺していたことになる。
この、連邦政府の権限がどこまで及ぶのかという点は米国のポリティクスを理解する際の最重要ポイントのひとつで、一般に共和党は小さく、民主党は大きく、という方向となる。州、市民等が「そんなことは連邦に言われる筋合いはない」すなわち「憲法で規定される連邦政府の権限を逸脱している」とする訴訟が持ち込まれることは数多い。クラシックな例としては大統領選挙の際に必ず候補者がリトマス試験的に指示するかどうか質問される「Roe v. Wade」がある。その質問の趣旨は、必ずしも中絶そのものを良しとするかどうかということではなく(そのように報道されることがほとんどだし、実際そのようなイデオロギー的な側面も強いけど)、テクニカルな面では、州が自州の住民の意思として決定することを、連邦政府がどこまでどのような憲法で与えられた権限をもって抑制、制御する権利があるのかという憲法解釈となる。
オバマケアにかかわる最高裁判所での判断もまさにその点だ。、憲法上、一般社会福祉的な法律を制定する権限は連邦政府にはなく、ここは典型的な州政府の領域であるにもかかわらず、このような法律を制定してしまったことに対するチャレンジだ。すなわち、国民みんなが医療保険に加入する方がいいかどうか、という判断と言うよりは、そんなことは巨大な連邦政府にあれこれ言われる筋合いはなく、法制化するのであれば庶民に近い州政府が決めればいいことではないかということだ。すなわち、こんな分野に連邦政府が手を出していいのかどうか、という疑問・検討となる。この点は2012年1月にポスティングした「オバマケアは税法だった?」を参照して欲しい。最高裁判所は苦し紛れにオバマケアは「税法でした」と位置づけ、となると連邦政府はもちろん連邦税を規定する権限を今日では持っているので、オバマケアも合憲となった。Casting Voteを握った最高裁判所主席判事のRobertsは保守派のRehnquistの後継ぎとしてブッシュ(ジュニア)政権が任命した保守派と見られていただけに、共和党は判決に大きなショックを受けたのは間違いない。憲法を原文通り厳格に解釈し続けた知の巨匠Scaliaも今年亡くなってしまったし。Rehnquist率いる最高裁判所時代には「Lopez」というLandmarkケースで連邦政府が何でもかんでもCommerce Clauseに託けて法律を制定する姿勢に一矢報いている。最近話題になっているTransgenderの人が男女どちらのバスルームを使用するか、という点に連邦政府が口を出し、既に11州が越権行為として訴訟を起こしているニュースは皆さんも耳にしているんではないでしょうか。この問題は連邦の権限に加え、連邦内の三権分立の問題、すなわち行政機関となるオバマ政権が議会を通さずにこのような規則を発行していいものかどうかという点も議論となる。
と、憲法論で余り興奮し過ぎないうちに(と言うかもう十分に興奮し過ぎたので?)、条約に話しを戻すと、連邦法として条文法と条約が併記されていることは、いくつかの必然的な結果をもたらす。条約の締結は、三権分立の行政に属する大統領に権限が与えられており、プラスで立法機関の一部である上院の批准が必要とされている。通常の法律は上院と下院の双方を通過しないといけいないことから、そのような法律と同列のパワーを持つ条約が上院のみの批准でOkというのは、下院から見ると自分たちを手を通らないにもかかわらず、条文と同じパワーを持つ法律が制定されてしまうことを意味する。当然、下院からすると面白いことではない。
さらに、条文と条約の双方が「Supreme Law of the Land」として同等のパワーを持って君臨しているとすると、2つの法律の規定が相反する場合にどちらに軍配が上がるか、という単純な問題が発生する。普通に考えたら、外国と約束して、税法的には内国法よりも有利にするのが条約なので、条約が勝つと思う人が多いのではないだろうか。実際に税法の話しをしているとそのように考えている人に出会うことがある。税法(Internal Revenue Code)と租税条約が並列にある点はわざわざSection 7852(d)にもその旨が規定されている。では、引き分けで終るのか、というとそうではなく米国では「Later in Time(後法優先)」すなわち後に出来た方が優先というのが基本的な考え方だ。
この条約、二国間で合意されると上院の批准が必要となる。さて、どうしてこの批准が3年経っても完了しないかは次回。
Sunday, May 22, 2016
Inversion/インバージョン(23)「Inversion・過少資本税制と米国税法のこれから」
1月に久しぶりにポスティングを再開するに辺り、「何を書こうかな~」と考えたあげくに気楽に選んでしまった「Inversion」。いつの間にか今回で23回に亘る長編になってしまった。
このInversion、「Inversion (3)」で触れた1983年のMcDermott社による初期型のVersion 1.0から始まり企業と税法・財務省規則との「いたちごっこ」というか「相乗効果」というかで、今ではVersion 5.0にまで進化し、海外にあるそれ相当の大企業を相手に複雑な組織再編を通じて実行され、それとセットで米国の課税ベースを圧縮するさまざまな手法が織り込まれるにまで至った。税法的な大きなターニングポイントとしては90年代のSection 367、2004年ブッシュ政権時のSection 7874、そして2016年の暫定規則があげられる。特に最後通牒的に2016年4月に発行された財務省規則によるInversion規制は現在のSection 7874内で可能な範囲ぎりぎり、または見方によっては権限逸脱に近い部分もある形で極限までInversionを制限している。SigningされてClosingを待つばかりであったPfizerによるAllergenとの統合を利用したInversionが規則発行2日後に断念されてしまったことでShowdownを迎えている状況だろう。
PfizerのInversionは2014年、2015年に発行された2つのNoticeの条件はクリアしており、その後に発表される財務省規則はNoticeの内容に準じると想定されていただけに、規則がNoticeを超える制限を挿入し、PfizerのInversionに特化した形で、すなわち、PfizerのDealが成り立たないように規定している点、財務省は「なり振り構わず」Inversion規制していると言える。特定の法人を狙い撃ちするような規則は認められないため、財務省は「どの法人、Dealを念頭に置いた規則ではない」と当然主張するが、まるで憲法違反の「Bill of Attainder」を連想させるあからさまなPfizerのDeal潰しと受け取られている。
Pfizerとは異なり、そもそもNoticeが発行された時点でその壁を超えられなかったDealもある。例えばAbbVieによるShire買収を利用した英国へのInversionがその一例だ。このDeal、$54B規模だったからかなりのメガDealだった。しかし、2014年のNoticeが直接の理由となり、AbbVieは$1.6BのBreakup Feeを支払ってDealはオフとなった。AbbVieもPfizerがInversionを断念した際に言っていたように、2014年Noticeは彼らのDealを念頭に規定されたのではないかという疑念を持っていたと言われる程、タイミング、その内容が絶妙だった。
Dealがオフになると(Dealが成立したケースでもだけど)株主訴訟はある意味付きものだ。当然、AbbVieのケースでも株主訴訟となり、Dealの公式発表を基にShire株式を取得した株主が「統合発表時にInversionによる税メリットの重要性を過小評価しているかのような公式見解をAbbVieおよびShire側の会長が出しており、これらはMisleadingでありSECのルールに反する」という訴えを起こしている。結果はAbbVie側の棄却申し立てが認められたようだが、原告側の申し立て内容は面白い。
すなわち、Inversionの規制が厳しくなるだけでDealがダメになったということは、会社側が散々言っていた「法人税減は1つのメリットに過ぎず、他の事業目的は余りある」という趣旨の統合発表時の見解はウソだったのか?という株主側の疑問提起だ。実際問題として、発表時にはInversionして税金が低くなることだけを目的とは言えないだろうし、Reputation的にもそこはDownplayする企業が多いのは事実だ。ただ、前回のポスティングでも触れた通り、どのInversionも事業目的が並存しなければ検討されないのもまた事実だろう。ただ、再編後のシナリオに与える税コストの占める位置は大きく、グローバルで必死で競争している米国MNCにとって、その税メリットがなくなってしまうとDeal Economicsに大きな影響があるのも事実。AbbVieに対する訴訟はそのような難しいバランスがチャレンジされたもので、結果的に棄却となったとは言え、Inversionを計画する際の会社側の公式見解のいい回しにも今後は更に気を使わないといけないといういいレッスンだろう。
Inversionに対する税法は不思議なもので、最初から持株会社が外国に設立されていると、何の問題もないが、一旦米国に設立されたものを外国に持っていくのはダメ、という発想に基づく。でも考え方によっては最初からそのように組成する自由があるんだったら、途中でやっても、適切なExitチャージを払えば同じことではないかと思うがどうなんでしょうか?Inversionが無理または難しいと分かれば、今後のスタートアップは間違いなく単純に最初から賢く外国に親会社を設立して米国は一子会社っていうセットアップとしてしまえば済む話しであるとしたら、途中からそうしますっていうと非国民で許されないというのも不思議。根本的な解決策はInversionをし難くするのではなく、Inversionしないでも米国でComfortableに親会社を運営できるような税制とするしかないだろう。税率を下げて、全世界課税を改めて日本が2009年にしたみたいにテリトリアル課税に移行させるしかない。
財務長官が議会に対してInversion規制の強化を訴え、現状のSection 7874の基準である継続持分80%を50%に引き下げようなどという動きを聞くと何の解決にもならないどころか、米国企業の競争力を低下させるだけではないのかな、と心配だ。
米国税法の見地からは、日本企業のMNCは生まれながらにしてInversionしているので、米国企業がInversionしたらこうしたいなと夢に見ているメリットは自然と享受できるし、Inversionした法人に対する様々な足かせも適用されることがない。ただ、BEPSレポートのところでも触れたが、日本企業のMNCが米国でこのようなメリットを少しでも利用している形跡はほとんどない。
米国税法の抜本的改正も掛け声ばかりで遅々として進まない中、今後、米国MNCがどのように、2016年の暫定規則を乗り越えてInversionを進化させて行くかかなり興味深い。という訳で、5ヶ月・23回に亘りいろいろと書いてきたInversion。何か進展があるまで取りあえずこの辺にしておこう。次回からはまた思いついたトピックで。特にInversionのシスター規則、過少資本税制の規則案に関してはこの夏に掛けて進展あり次第取り上げて行きたい。
このInversion、「Inversion (3)」で触れた1983年のMcDermott社による初期型のVersion 1.0から始まり企業と税法・財務省規則との「いたちごっこ」というか「相乗効果」というかで、今ではVersion 5.0にまで進化し、海外にあるそれ相当の大企業を相手に複雑な組織再編を通じて実行され、それとセットで米国の課税ベースを圧縮するさまざまな手法が織り込まれるにまで至った。税法的な大きなターニングポイントとしては90年代のSection 367、2004年ブッシュ政権時のSection 7874、そして2016年の暫定規則があげられる。特に最後通牒的に2016年4月に発行された財務省規則によるInversion規制は現在のSection 7874内で可能な範囲ぎりぎり、または見方によっては権限逸脱に近い部分もある形で極限までInversionを制限している。SigningされてClosingを待つばかりであったPfizerによるAllergenとの統合を利用したInversionが規則発行2日後に断念されてしまったことでShowdownを迎えている状況だろう。
PfizerのInversionは2014年、2015年に発行された2つのNoticeの条件はクリアしており、その後に発表される財務省規則はNoticeの内容に準じると想定されていただけに、規則がNoticeを超える制限を挿入し、PfizerのInversionに特化した形で、すなわち、PfizerのDealが成り立たないように規定している点、財務省は「なり振り構わず」Inversion規制していると言える。特定の法人を狙い撃ちするような規則は認められないため、財務省は「どの法人、Dealを念頭に置いた規則ではない」と当然主張するが、まるで憲法違反の「Bill of Attainder」を連想させるあからさまなPfizerのDeal潰しと受け取られている。
Pfizerとは異なり、そもそもNoticeが発行された時点でその壁を超えられなかったDealもある。例えばAbbVieによるShire買収を利用した英国へのInversionがその一例だ。このDeal、$54B規模だったからかなりのメガDealだった。しかし、2014年のNoticeが直接の理由となり、AbbVieは$1.6BのBreakup Feeを支払ってDealはオフとなった。AbbVieもPfizerがInversionを断念した際に言っていたように、2014年Noticeは彼らのDealを念頭に規定されたのではないかという疑念を持っていたと言われる程、タイミング、その内容が絶妙だった。
Dealがオフになると(Dealが成立したケースでもだけど)株主訴訟はある意味付きものだ。当然、AbbVieのケースでも株主訴訟となり、Dealの公式発表を基にShire株式を取得した株主が「統合発表時にInversionによる税メリットの重要性を過小評価しているかのような公式見解をAbbVieおよびShire側の会長が出しており、これらはMisleadingでありSECのルールに反する」という訴えを起こしている。結果はAbbVie側の棄却申し立てが認められたようだが、原告側の申し立て内容は面白い。
すなわち、Inversionの規制が厳しくなるだけでDealがダメになったということは、会社側が散々言っていた「法人税減は1つのメリットに過ぎず、他の事業目的は余りある」という趣旨の統合発表時の見解はウソだったのか?という株主側の疑問提起だ。実際問題として、発表時にはInversionして税金が低くなることだけを目的とは言えないだろうし、Reputation的にもそこはDownplayする企業が多いのは事実だ。ただ、前回のポスティングでも触れた通り、どのInversionも事業目的が並存しなければ検討されないのもまた事実だろう。ただ、再編後のシナリオに与える税コストの占める位置は大きく、グローバルで必死で競争している米国MNCにとって、その税メリットがなくなってしまうとDeal Economicsに大きな影響があるのも事実。AbbVieに対する訴訟はそのような難しいバランスがチャレンジされたもので、結果的に棄却となったとは言え、Inversionを計画する際の会社側の公式見解のいい回しにも今後は更に気を使わないといけないといういいレッスンだろう。
Inversionに対する税法は不思議なもので、最初から持株会社が外国に設立されていると、何の問題もないが、一旦米国に設立されたものを外国に持っていくのはダメ、という発想に基づく。でも考え方によっては最初からそのように組成する自由があるんだったら、途中でやっても、適切なExitチャージを払えば同じことではないかと思うがどうなんでしょうか?Inversionが無理または難しいと分かれば、今後のスタートアップは間違いなく単純に最初から賢く外国に親会社を設立して米国は一子会社っていうセットアップとしてしまえば済む話しであるとしたら、途中からそうしますっていうと非国民で許されないというのも不思議。根本的な解決策はInversionをし難くするのではなく、Inversionしないでも米国でComfortableに親会社を運営できるような税制とするしかないだろう。税率を下げて、全世界課税を改めて日本が2009年にしたみたいにテリトリアル課税に移行させるしかない。
財務長官が議会に対してInversion規制の強化を訴え、現状のSection 7874の基準である継続持分80%を50%に引き下げようなどという動きを聞くと何の解決にもならないどころか、米国企業の競争力を低下させるだけではないのかな、と心配だ。
米国税法の見地からは、日本企業のMNCは生まれながらにしてInversionしているので、米国企業がInversionしたらこうしたいなと夢に見ているメリットは自然と享受できるし、Inversionした法人に対する様々な足かせも適用されることがない。ただ、BEPSレポートのところでも触れたが、日本企業のMNCが米国でこのようなメリットを少しでも利用している形跡はほとんどない。
米国税法の抜本的改正も掛け声ばかりで遅々として進まない中、今後、米国MNCがどのように、2016年の暫定規則を乗り越えてInversionを進化させて行くかかなり興味深い。という訳で、5ヶ月・23回に亘りいろいろと書いてきたInversion。何か進展があるまで取りあえずこの辺にしておこう。次回からはまた思いついたトピックで。特にInversionのシスター規則、過少資本税制の規則案に関してはこの夏に掛けて進展あり次第取り上げて行きたい。
Sunday, May 15, 2016
Inversion/インバージョン(22)「Inversion規則とBurger King」
今日は比較的最近のInversion取引のストラクチャーのひとつ、ファストフードチェーンBurger Kingによるカナダのコーヒー(+ドーナツ)チェーンTim Hortonsの買収。
Burger Kingは東京、Los Angeles, NYCのどこにもあって(香港にもあったかも)、もちろん看板とか良く見るけど、長~い間行った記憶がない。その昔、ハワイに遊びに行ったりした頃に偶然行ったかもしれないけど。Tim Hortonsに至ってはカナダでは相当有名で、NYCにも、しかもMidtownの行動・徒歩圏内にも店舗はあるみたいだけど、全く行ったことがないどころか、Inversionのニュースになるまで名前すら知らなかった。
Burger KingのInversionは、Burger Kingのお得意先のひとつが米国陸軍だったり、またBuffet Taxの俗称で知られる富裕層の増税を提唱して正義の見方っぽかったWarren BuffetのBerkshireが関与していたり、等の理由で多くのメディア批判に晒されていた。米国税務的な観点では2014年の財務省によるNoticeが出た直後のInversionだったので、「未だInversionは健在・・」という力強いメッセージという意味で意義深かった。
このInversion、基本的な流れはBurger KingがカナダのTim Hortonsを買収する際にカナダを頂点とするMNCグループに生まれ変わるという近年のVersion 5.0の典型と言えるが、パススルー主体を介在させたりかなり複雑な取引だったようだ。ウォールストリートジャーナルによるとInversion後、4年間で$300M近い節税となるというし、他のシンクタンックの試算ではメリットはそれどころではなく$1Bを超えるという報道もあった。だったら、合法的であればWarren Buffetだって誰だって十分に実行する価値のあるDealと言えるだろう。ただ、一方で、他のInversion同様、会社側が主張するように十分な事業目的が存在するから実行している訳で、メディアで揶揄されるようにタックスのみの目的ではないのはその通りだろう。これは全てのInversionに共通で、製薬業界にInversionが多いのも、彼らが他業界よりGreedyとか言う問題ではなく、厳しい国際競争、米国外に存在する大きなマーケット、行政・保険会社からのコストカットの強いプレッシャー、等、企業側から見て構造的に不利な状況では事業運営すらままならないという死活問題が背景にある。
企業側はグローバル競争で勝ち残るのに必死だし、海外マーケットの比重が高く、他国の競争相手がより有利な税務環境で戦っていたら、Inversionを成功させるのはオプションではなくMustとなるだろう。米国議会、財務省、大統領、揃ってInversionする企業、経営者を非国民みたいに言うけれど、企業側から見れば、そんなに言うんだったら早く使い勝手のいいもっとマシな法人税法にアップデートして下さい、という立場となる。議会に至ってはCTB規定の海外2nd Tier主体への適用とかに網を掛ける法改正の機会がありながら何も行動せず、そのくせAppleの社長とか呼び出して、尋問したりと余りに無責任(?)。「Inversionはいけません」でも「国際競争力を殺ぐ最悪かつ常軌を逸する難解な税法は当面ポリティカルに改訂はないので、しっかり準拠して下さいね」という2つが並行して国のメッセージだとすれば、米国MNCは国際競争で苦戦を強いられるしか選択肢がないこととなる。
で、Burger Kingだけど、Tim Hortons買収後は、カナダに新規に設立されるNew Red Canada Partnershipという事業体の子会社となる。このパートナーシップがBurger Kingをお馴染みのReverse Sub Merger手法で株式取得し、カナダには英国法の流れでMerger法がない(?)らしいことから、英連邦ではやはりお馴染みのAmalgamation(Armageddonと間違えないようにね)でTim Hortonsを子会社化する。ここで、なんでパートナーシップ?って不思議に思った方は問題意識がきちんとあり、Issue Spottingで黄色帯(白帯のひとつ上・・)合格だ。Version 5.0の典型的なInversionでは統合後の持株会社は米国外の上場株式会社となるのが通常だからだ。さらに複雑なのは、このパートナーシップの上にカナダ法人の上場持株会社が介在している点だ。しかも、パートナーシップ持分が、Upper Tierの持株会社と同じ配当、議決権も持ち、こちらも上場されている。すなわち、Lower Tierのパートナーシップ、Upper Tierの持株会社の双方が上場企業の形を取っていて、またパートナーシップ持分は1年後に持株会社の株式に転換可能となっている。
随分と複雑はストラクチャーだけど、誰がどの持分を受け取ったかっていう点を良く見てみると何となく謎が解けるような気もしてくる。取引の詳細、実際のところはベールに包まれているのであくまでも推測だけど。Burger Kingは3G Capitalって言うFund(ブラジル系?)が70%所有していて、残りの30%は一般上場株主だ。再編に際して3Gはカナダのパートナーシップ持分のみを受け取り、上場株主はパートナーシップ持分と持株会社の株式のどちらかを受け取っているようだ。投資の神様Warren BuffetのBerkshireはこのDealには現金$3Bをポンと出資しているが、Berkshireはパートナーシップ持分は受け取らず、持株会社の優先株式およびワラント債を受け取っている。Tim Hortonsの旧株主は持株会社の株式を受け取っている。なぜ米国のFund3Gと米国一般株主の一部のみがパートナーシップ持分を受け取ったんだろうか。想像できるのはSection 367の株主レベルの課税を3Gが嫌がり、パートナーシップへの出資とすればSection 351ではなく、Section 721となるのでSection 367に抵触しないということかも。で、かつ同じDeal Economicsとするためにパートナーシップそのものが実質、持株会社株式と同様の権利、流動性を持つような形態を編み出したような感じ。う~ん、Creative。こう言うのって後からストラクチャー見てああだ、こうだと分析するのは容易だけど、実際に考え付いて実行するのは大変な才能。ウォール街、弁護士事務所、Big-4のアドバイザー達は皆本当に頭がいい。国としてはその頭の良さをもっと何か本当にCreateする分野に使わせるような戦略が必要かも。
という訳で今日はBurger Kingでした。先週末と違い、天気もいいので意を決してWhopperバーガーでも食べに行こうかな、とも思ったけど、どうせCarb取るんだったらMidtownのイタリアンの方がいいかも。
Burger Kingは東京、Los Angeles, NYCのどこにもあって(香港にもあったかも)、もちろん看板とか良く見るけど、長~い間行った記憶がない。その昔、ハワイに遊びに行ったりした頃に偶然行ったかもしれないけど。Tim Hortonsに至ってはカナダでは相当有名で、NYCにも、しかもMidtownの行動・徒歩圏内にも店舗はあるみたいだけど、全く行ったことがないどころか、Inversionのニュースになるまで名前すら知らなかった。
Burger KingのInversionは、Burger Kingのお得意先のひとつが米国陸軍だったり、またBuffet Taxの俗称で知られる富裕層の増税を提唱して正義の見方っぽかったWarren BuffetのBerkshireが関与していたり、等の理由で多くのメディア批判に晒されていた。米国税務的な観点では2014年の財務省によるNoticeが出た直後のInversionだったので、「未だInversionは健在・・」という力強いメッセージという意味で意義深かった。
このInversion、基本的な流れはBurger KingがカナダのTim Hortonsを買収する際にカナダを頂点とするMNCグループに生まれ変わるという近年のVersion 5.0の典型と言えるが、パススルー主体を介在させたりかなり複雑な取引だったようだ。ウォールストリートジャーナルによるとInversion後、4年間で$300M近い節税となるというし、他のシンクタンックの試算ではメリットはそれどころではなく$1Bを超えるという報道もあった。だったら、合法的であればWarren Buffetだって誰だって十分に実行する価値のあるDealと言えるだろう。ただ、一方で、他のInversion同様、会社側が主張するように十分な事業目的が存在するから実行している訳で、メディアで揶揄されるようにタックスのみの目的ではないのはその通りだろう。これは全てのInversionに共通で、製薬業界にInversionが多いのも、彼らが他業界よりGreedyとか言う問題ではなく、厳しい国際競争、米国外に存在する大きなマーケット、行政・保険会社からのコストカットの強いプレッシャー、等、企業側から見て構造的に不利な状況では事業運営すらままならないという死活問題が背景にある。
企業側はグローバル競争で勝ち残るのに必死だし、海外マーケットの比重が高く、他国の競争相手がより有利な税務環境で戦っていたら、Inversionを成功させるのはオプションではなくMustとなるだろう。米国議会、財務省、大統領、揃ってInversionする企業、経営者を非国民みたいに言うけれど、企業側から見れば、そんなに言うんだったら早く使い勝手のいいもっとマシな法人税法にアップデートして下さい、という立場となる。議会に至ってはCTB規定の海外2nd Tier主体への適用とかに網を掛ける法改正の機会がありながら何も行動せず、そのくせAppleの社長とか呼び出して、尋問したりと余りに無責任(?)。「Inversionはいけません」でも「国際競争力を殺ぐ最悪かつ常軌を逸する難解な税法は当面ポリティカルに改訂はないので、しっかり準拠して下さいね」という2つが並行して国のメッセージだとすれば、米国MNCは国際競争で苦戦を強いられるしか選択肢がないこととなる。
で、Burger Kingだけど、Tim Hortons買収後は、カナダに新規に設立されるNew Red Canada Partnershipという事業体の子会社となる。このパートナーシップがBurger Kingをお馴染みのReverse Sub Merger手法で株式取得し、カナダには英国法の流れでMerger法がない(?)らしいことから、英連邦ではやはりお馴染みのAmalgamation(Armageddonと間違えないようにね)でTim Hortonsを子会社化する。ここで、なんでパートナーシップ?って不思議に思った方は問題意識がきちんとあり、Issue Spottingで黄色帯(白帯のひとつ上・・)合格だ。Version 5.0の典型的なInversionでは統合後の持株会社は米国外の上場株式会社となるのが通常だからだ。さらに複雑なのは、このパートナーシップの上にカナダ法人の上場持株会社が介在している点だ。しかも、パートナーシップ持分が、Upper Tierの持株会社と同じ配当、議決権も持ち、こちらも上場されている。すなわち、Lower Tierのパートナーシップ、Upper Tierの持株会社の双方が上場企業の形を取っていて、またパートナーシップ持分は1年後に持株会社の株式に転換可能となっている。
随分と複雑はストラクチャーだけど、誰がどの持分を受け取ったかっていう点を良く見てみると何となく謎が解けるような気もしてくる。取引の詳細、実際のところはベールに包まれているのであくまでも推測だけど。Burger Kingは3G Capitalって言うFund(ブラジル系?)が70%所有していて、残りの30%は一般上場株主だ。再編に際して3Gはカナダのパートナーシップ持分のみを受け取り、上場株主はパートナーシップ持分と持株会社の株式のどちらかを受け取っているようだ。投資の神様Warren BuffetのBerkshireはこのDealには現金$3Bをポンと出資しているが、Berkshireはパートナーシップ持分は受け取らず、持株会社の優先株式およびワラント債を受け取っている。Tim Hortonsの旧株主は持株会社の株式を受け取っている。なぜ米国のFund3Gと米国一般株主の一部のみがパートナーシップ持分を受け取ったんだろうか。想像できるのはSection 367の株主レベルの課税を3Gが嫌がり、パートナーシップへの出資とすればSection 351ではなく、Section 721となるのでSection 367に抵触しないということかも。で、かつ同じDeal Economicsとするためにパートナーシップそのものが実質、持株会社株式と同様の権利、流動性を持つような形態を編み出したような感じ。う~ん、Creative。こう言うのって後からストラクチャー見てああだ、こうだと分析するのは容易だけど、実際に考え付いて実行するのは大変な才能。ウォール街、弁護士事務所、Big-4のアドバイザー達は皆本当に頭がいい。国としてはその頭の良さをもっと何か本当にCreateする分野に使わせるような戦略が必要かも。
という訳で今日はBurger Kingでした。先週末と違い、天気もいいので意を決してWhopperバーガーでも食べに行こうかな、とも思ったけど、どうせCarb取るんだったらMidtownのイタリアンの方がいいかも。
Sunday, May 1, 2016
Inversion/インバージョン(21)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」
4月4日に財務省は気合いが入りまくったInversion規則を発表したが、それから数週間経った現在、もっぱらの関心はInversionそのものを難しくした暫定規則の部分よりも、アーニングス・ストリッピングに網を掛ける目的で併設された過少資本税制にかかわる規則案に集まっている。
それもそのはずで、Inversion規則の一環で発表しておきながら、アーニングス・ストリッピング規則案の適用はInversionした事業主体に限定されず、日本企業の米国事業を含む「全納税者」に適用となっているからだ。しかも、規則案の内容が従来の過少資本税制のあり方を大きく逸脱しているというか、手段を選ばずというか、かなり乱暴で、かつ借入が資本とみなされる際の二次的な影響についてDeepに検証した上で公表しているのかどうか疑問もあり、財務の基本であるCash Poolingが実質不可能になる懸念があるなど、適用に実務上の困難が多過ぎ、話題に事欠かないからだ。当然、大きな反響(反発?)を巻き起こしている。
余りの反響に、当初「Inversion関係の一連の規則は早々に、夏にも最終化する」と宣言して勢い付いていた財務省も、ここに来て若干トーンダウンの観は否めない。そんな現実を受けて、先日財務省はSection 7874と385の規則を各々別に最終化することも辞さないと発言し、せめて「Section 7874部分の暫定規則のみ早期に最終化」という流れが現実的なところとなりつつある。Section 385のアーニングス・ストリッピング部分は今年中に最終化できるかどうかも不明な状況だと言えるだろう。多くのコメントがLaw Firm、Accounting Firm、Business Communities、Academic界から寄せられるだろうし、最終化するにしてもそれ相当の手直しまたは適用範囲、定義の明確化が必要に見える(というか手直ししてもらわないと困る?)。でも今年は大統領選挙。ということは規則を早く最終化しないと大統領、そしてそれと付随的に財務省幹部も新チームに変わってしまうことから、規則自体の運命が不明となる。この夏、目が離せない話題の一つだ。
そんな不透明な環境の中、Inversionを済ませているMNC、または最初から外国に所有されているMNCは今から規則最終化までのこの貴重な期間を「もしかしたらEarnings Stripping最後のチャンス」と位置づけ、早速想定されるシナリオに基づきプラニングを開始している。もちろん日本企業以外の話しだ。2004年に日米租税条約が改定され配当に対する源泉税がゼロとなり、さらに2009年には日本で海外子会社からの配当が実質非課税になった時点で規則案がターゲットとしている「Leveraged Dividend」等の実行の機は熟していたが、実行された形跡は余り無く、現時点で駆け込み的に実行する気配もない。規則がこのまま最終化されると1956年のKraftケース以降、外国MNCが米国投資の際に当然のように再三利用してきたLeveraged Dividendが米国から消滅してしまうかもしれず、またしても何もする前に一つの時代が終ってしまうかも。他国のMNCを見ていると、例えば、今、大きな関連会社ローンを米国が借りておけば、Funding規定の36ヶ月の縛りが解ける日が早く来る、というロジカルだが中々思いつかない発想があったりして、相変わらず法律事務所、大手会計事務所、ウォール街等のアドバイザーたちの復活力の早さには舌を巻く。
Leveraged Dividendは外国の親会社に所有されているMNCの米国法人が利用するケースが一般的と思われがちだが、実は米国MNCにも有用だ。例えば、米国親会社がCFC1を持ち、その下に更にCFC2を持っているとする。CFC2にはE&Pがあるが、CFC1にE&PがないタイミングでCFC 1から米国親会社にLeveraged Dividendを実行する(米国親会社のCFC1に対する税務簿価の範囲内で)。E&Pがないので米国では配当課税がない。その後、CFC2がCFC1に分配するとCFC1にE&Pが発生するが、CFC1はそれを原資に米国親会社からの「借入」を返済する形を取ることができる。すなわち、米国側ではCFC1のE&Pに基づく配当所得を認識することなく、現金を米国に還流することが可能となる。
アーニングス・ストリッピング規則案内容に関しては前回まで複数回触れているので、重複する部分は避けるが、日本企業的には「文書化」の部分は早速対応策の検討が必要だろう。ここの部分は規則案の前文にも書いてある通り、従来からも用意しておくべきものなので、「Reminder」的な意味もあるが、文書化が強制されるためにより真面目な対応が必要となる。規則案が最終化される際に変更が加えられるとしても文書化のところはそのまま残ると考えられ、そもそも財務省としては現時点でも用意されているべきものとの認識であることを考えると、規則の施行日以前でも対応は早い方がいい。規則案で勢い付いたIRS調査官がフライング気味に関連者間ローンにかかわる文書化を要求してくるような状況も現行法下でも十分に想定可能だ。
この文書化、余り役に立たない小額免除的な例外が規定されており、一定規模、条件のグループにのみ適用とされる。すなわち文書化の対象となるのは、Expanded Groupの中の最低一社(日本親会社を含む)でも上場されている場合、財務諸表に報告される総資産額が$100 millionを超える場合、または総収入が$50 millionを超える場合、となる。
以前にも触れたが、従来の過少資本税制の考え方は、個々のケースで多くの判断材料を総合的に検討して、債券・金融持分が税務上、株式と位置づける方が適切なのかどうかを決定するというものだった。判断材料としては、当事者によるレッテル、満期日の有無、返済原資、債権者に付与される法的な権利、他の債権者との返済優先順位、借入資本比率、第三者からの調達能力、等いろいろとあるが、何一つをもって決定打になるという性格の分析ではなく、個々のケースに照らし合わせる典型的なFacts and Circumstancesテストというものだった。この中でも鍵となるのは、借り入れ時点での返済能力有無の判断で、ここの部分の文書化は今後ますます徹底が必要となる。規則案でもこの部分は基本的に従来通りだが、この観点からローンであると認められても、その使途次第では株式になってしまう。規則案の凄いところはこの文書化を関連者間ローンが借入と認められる「必要条件」と位置づけている点だ(もちろん十分条件ではない)。すなわち、実際にローンの性格を十分に備えていても(例えばDebt/Equity Raitoが1/9のようなケース)でも文書化がないと株式になってしまう。文書化がされている場合には、最初のハードルは超えられるが、その内容が正当かどうかはIRSが調査時に検討するので、移転価格同様、文書化されていても必ず認められるというものではない。
返済能力の有無に基づく過少資本の判断(およびそれをサポートするための文書化)そのものは、判例を含む既存の法律の考え方から乖離はない。今回の規則案では、それだけでは飽き足らず、経済的な実態として借入と認められても、更に以前のポスティング「Inversion (20)」で触れた邪な用途の(または前後6年間の反証不可能な推定規定に基づき用途が事実認定される)場合には、借入が株式になってしまうという凄い結果が待っている。当初はローンだと考えていた債券・金融持分がある日、株式と取り扱われるようなケースがあり得るが、その場合には、ローンは株式とその時点の簿価で交換されたと扱われる。
この規定は過少資本ではなく、どちらかと言うと租税回避行為に対抗する「Anti-Avoidance」となり、Section 385でそこまでの権限を財務省に与えているかどうかという点はかなり際どい。特に前後6年間の反証不可の推定規定は厳しいし、多くの貸し借りが存在する局面での実務的な適用は負荷が重い。この推定規定の例外として、たな卸し資産の取得にかかわる買掛金、通常の経費支払いにかかわる未払金、が設けられているが、例外としては範囲が狭い。
上述の例外は6年間の反証にかかわる部分だが、借入を使途に基づき株式とする規定そのものにもいくつか重要な例外が規定されている。まず、当期の配当原資(Current E&P)からの配当はLeveraged Dividendでも問題ないとされる。ということは毎年Current E&Pの範囲でLeveraged Dividendを行なえば「地道(?)」にEarnings Strippingが可能となる。また、さらにCurrent E&Pを超えても、用途制限に引っかかる関連者ローンの総額が$50 millionを超えない場合も、使途に基づいてローンが株式となることはない(文書化は、文書化の例外に当てはまらない限り別途必要)。この$50 millionの例外規定適用時の注意事項としては、一旦総額が$50 millionを超えると、その$50 millionを含む全額が使途に基づく株式認定の対象となるという点だ。また関連会社の株式取得に関しては、実際に出資を行い、その後3年間一定の持分を継続している場合には、邪な使途とはならないとされる。それはそうだろう。でないと本当にグループ子会社等に出資する毎に、グループ間ローンが株式に変わってしまうというとんでもない結果となってしまうからだ。
このように発行数週間で、問題続出のSection 385規則案。税法全体、実務的な適用、影響を熟考して発行された感じがしない。もしかしたら財務省も全ての影響を考えるのは不可能なので、取りあえず規則案を出し、業界からの反応を見て「こういう予期せぬ問題もあったか・・」みたいな対応を考えていたのだろうか。その意味ではベータバージョンだったのかも。会社法その他の目的ではローンであり続けるものを税務上全ての目的で株式とする、という扱いは例外的なケースでは仕方がないかもしれないけど、規則案に基づいてメカニカルに適用されると債権者なのか株主なのか混乱が生じる。配当がDRDの対象となるかどうかとか(RR 94-28 の世界)。
という訳で余りにインパクトの大きなInversion規則ではないInversion規則案の話しでした。Section 385は今後も進展がある都度触れていきたい。次回は本道のInversionに戻り、そろそろInversionはWrap-Upかな、という感じ。今日のNYCはMaroon 5じゃないけど「Sunday Morning Rain is Falling」で、しっとり濃い目の紅茶にミルクを入れて一口、みたいないい感じの春の一日の始まりでした。BackgroundはWorkshyで。
それもそのはずで、Inversion規則の一環で発表しておきながら、アーニングス・ストリッピング規則案の適用はInversionした事業主体に限定されず、日本企業の米国事業を含む「全納税者」に適用となっているからだ。しかも、規則案の内容が従来の過少資本税制のあり方を大きく逸脱しているというか、手段を選ばずというか、かなり乱暴で、かつ借入が資本とみなされる際の二次的な影響についてDeepに検証した上で公表しているのかどうか疑問もあり、財務の基本であるCash Poolingが実質不可能になる懸念があるなど、適用に実務上の困難が多過ぎ、話題に事欠かないからだ。当然、大きな反響(反発?)を巻き起こしている。
余りの反響に、当初「Inversion関係の一連の規則は早々に、夏にも最終化する」と宣言して勢い付いていた財務省も、ここに来て若干トーンダウンの観は否めない。そんな現実を受けて、先日財務省はSection 7874と385の規則を各々別に最終化することも辞さないと発言し、せめて「Section 7874部分の暫定規則のみ早期に最終化」という流れが現実的なところとなりつつある。Section 385のアーニングス・ストリッピング部分は今年中に最終化できるかどうかも不明な状況だと言えるだろう。多くのコメントがLaw Firm、Accounting Firm、Business Communities、Academic界から寄せられるだろうし、最終化するにしてもそれ相当の手直しまたは適用範囲、定義の明確化が必要に見える(というか手直ししてもらわないと困る?)。でも今年は大統領選挙。ということは規則を早く最終化しないと大統領、そしてそれと付随的に財務省幹部も新チームに変わってしまうことから、規則自体の運命が不明となる。この夏、目が離せない話題の一つだ。
そんな不透明な環境の中、Inversionを済ませているMNC、または最初から外国に所有されているMNCは今から規則最終化までのこの貴重な期間を「もしかしたらEarnings Stripping最後のチャンス」と位置づけ、早速想定されるシナリオに基づきプラニングを開始している。もちろん日本企業以外の話しだ。2004年に日米租税条約が改定され配当に対する源泉税がゼロとなり、さらに2009年には日本で海外子会社からの配当が実質非課税になった時点で規則案がターゲットとしている「Leveraged Dividend」等の実行の機は熟していたが、実行された形跡は余り無く、現時点で駆け込み的に実行する気配もない。規則がこのまま最終化されると1956年のKraftケース以降、外国MNCが米国投資の際に当然のように再三利用してきたLeveraged Dividendが米国から消滅してしまうかもしれず、またしても何もする前に一つの時代が終ってしまうかも。他国のMNCを見ていると、例えば、今、大きな関連会社ローンを米国が借りておけば、Funding規定の36ヶ月の縛りが解ける日が早く来る、というロジカルだが中々思いつかない発想があったりして、相変わらず法律事務所、大手会計事務所、ウォール街等のアドバイザーたちの復活力の早さには舌を巻く。
Leveraged Dividendは外国の親会社に所有されているMNCの米国法人が利用するケースが一般的と思われがちだが、実は米国MNCにも有用だ。例えば、米国親会社がCFC1を持ち、その下に更にCFC2を持っているとする。CFC2にはE&Pがあるが、CFC1にE&PがないタイミングでCFC 1から米国親会社にLeveraged Dividendを実行する(米国親会社のCFC1に対する税務簿価の範囲内で)。E&Pがないので米国では配当課税がない。その後、CFC2がCFC1に分配するとCFC1にE&Pが発生するが、CFC1はそれを原資に米国親会社からの「借入」を返済する形を取ることができる。すなわち、米国側ではCFC1のE&Pに基づく配当所得を認識することなく、現金を米国に還流することが可能となる。
アーニングス・ストリッピング規則案内容に関しては前回まで複数回触れているので、重複する部分は避けるが、日本企業的には「文書化」の部分は早速対応策の検討が必要だろう。ここの部分は規則案の前文にも書いてある通り、従来からも用意しておくべきものなので、「Reminder」的な意味もあるが、文書化が強制されるためにより真面目な対応が必要となる。規則案が最終化される際に変更が加えられるとしても文書化のところはそのまま残ると考えられ、そもそも財務省としては現時点でも用意されているべきものとの認識であることを考えると、規則の施行日以前でも対応は早い方がいい。規則案で勢い付いたIRS調査官がフライング気味に関連者間ローンにかかわる文書化を要求してくるような状況も現行法下でも十分に想定可能だ。
この文書化、余り役に立たない小額免除的な例外が規定されており、一定規模、条件のグループにのみ適用とされる。すなわち文書化の対象となるのは、Expanded Groupの中の最低一社(日本親会社を含む)でも上場されている場合、財務諸表に報告される総資産額が$100 millionを超える場合、または総収入が$50 millionを超える場合、となる。
以前にも触れたが、従来の過少資本税制の考え方は、個々のケースで多くの判断材料を総合的に検討して、債券・金融持分が税務上、株式と位置づける方が適切なのかどうかを決定するというものだった。判断材料としては、当事者によるレッテル、満期日の有無、返済原資、債権者に付与される法的な権利、他の債権者との返済優先順位、借入資本比率、第三者からの調達能力、等いろいろとあるが、何一つをもって決定打になるという性格の分析ではなく、個々のケースに照らし合わせる典型的なFacts and Circumstancesテストというものだった。この中でも鍵となるのは、借り入れ時点での返済能力有無の判断で、ここの部分の文書化は今後ますます徹底が必要となる。規則案でもこの部分は基本的に従来通りだが、この観点からローンであると認められても、その使途次第では株式になってしまう。規則案の凄いところはこの文書化を関連者間ローンが借入と認められる「必要条件」と位置づけている点だ(もちろん十分条件ではない)。すなわち、実際にローンの性格を十分に備えていても(例えばDebt/Equity Raitoが1/9のようなケース)でも文書化がないと株式になってしまう。文書化がされている場合には、最初のハードルは超えられるが、その内容が正当かどうかはIRSが調査時に検討するので、移転価格同様、文書化されていても必ず認められるというものではない。
返済能力の有無に基づく過少資本の判断(およびそれをサポートするための文書化)そのものは、判例を含む既存の法律の考え方から乖離はない。今回の規則案では、それだけでは飽き足らず、経済的な実態として借入と認められても、更に以前のポスティング「Inversion (20)」で触れた邪な用途の(または前後6年間の反証不可能な推定規定に基づき用途が事実認定される)場合には、借入が株式になってしまうという凄い結果が待っている。当初はローンだと考えていた債券・金融持分がある日、株式と取り扱われるようなケースがあり得るが、その場合には、ローンは株式とその時点の簿価で交換されたと扱われる。
この規定は過少資本ではなく、どちらかと言うと租税回避行為に対抗する「Anti-Avoidance」となり、Section 385でそこまでの権限を財務省に与えているかどうかという点はかなり際どい。特に前後6年間の反証不可の推定規定は厳しいし、多くの貸し借りが存在する局面での実務的な適用は負荷が重い。この推定規定の例外として、たな卸し資産の取得にかかわる買掛金、通常の経費支払いにかかわる未払金、が設けられているが、例外としては範囲が狭い。
上述の例外は6年間の反証にかかわる部分だが、借入を使途に基づき株式とする規定そのものにもいくつか重要な例外が規定されている。まず、当期の配当原資(Current E&P)からの配当はLeveraged Dividendでも問題ないとされる。ということは毎年Current E&Pの範囲でLeveraged Dividendを行なえば「地道(?)」にEarnings Strippingが可能となる。また、さらにCurrent E&Pを超えても、用途制限に引っかかる関連者ローンの総額が$50 millionを超えない場合も、使途に基づいてローンが株式となることはない(文書化は、文書化の例外に当てはまらない限り別途必要)。この$50 millionの例外規定適用時の注意事項としては、一旦総額が$50 millionを超えると、その$50 millionを含む全額が使途に基づく株式認定の対象となるという点だ。また関連会社の株式取得に関しては、実際に出資を行い、その後3年間一定の持分を継続している場合には、邪な使途とはならないとされる。それはそうだろう。でないと本当にグループ子会社等に出資する毎に、グループ間ローンが株式に変わってしまうというとんでもない結果となってしまうからだ。
このように発行数週間で、問題続出のSection 385規則案。税法全体、実務的な適用、影響を熟考して発行された感じがしない。もしかしたら財務省も全ての影響を考えるのは不可能なので、取りあえず規則案を出し、業界からの反応を見て「こういう予期せぬ問題もあったか・・」みたいな対応を考えていたのだろうか。その意味ではベータバージョンだったのかも。会社法その他の目的ではローンであり続けるものを税務上全ての目的で株式とする、という扱いは例外的なケースでは仕方がないかもしれないけど、規則案に基づいてメカニカルに適用されると債権者なのか株主なのか混乱が生じる。配当がDRDの対象となるかどうかとか(RR 94-28 の世界)。
という訳で余りにインパクトの大きなInversion規則ではないInversion規則案の話しでした。Section 385は今後も進展がある都度触れていきたい。次回は本道のInversionに戻り、そろそろInversionはWrap-Upかな、という感じ。今日のNYCはMaroon 5じゃないけど「Sunday Morning Rain is Falling」で、しっとり濃い目の紅茶にミルクを入れて一口、みたいないい感じの春の一日の始まりでした。BackgroundはWorkshyで。
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