Tuesday, July 31, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(2)

柄にもなく2回も売上税の話しで脱線してしまったけど、元々は米国の三権分立や判例主義の部分に興味があってどうしても触れておきたかった。三権分立は米国において連邦憲法で保障されている個人の自由にかかわる権利を守るための最重要システムだ。聞こえのいい憲法を持つことは簡単だけど、独裁者が憲法を無視して暴走しないためには強固な三権分立が不可欠だからね。という訳で、それはそれなんだけど、今回からはいよいよ満を持して、税制改正の国際課税に関して。今回の税制改正で一番大きなインパクトがあるのは、何と言ってもクロスボーダー課税の部分だから嫌でも長編にならざるを得ない。

前回の「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(1)」で「しつこく」触れたんで、既にメッセージは伝わってると思うけど、GILTIの導入を考えると、税制改正で米国がテリトリアル課税制度に移行したというのは、ウソとまでは言わないとしても、かなりの語弊がある。従来のDeferral制度が完全撤廃されたことは間違いはないけど、問題はその撤廃の仕方。CFCを含む10%特定外国法人からの配当は非課税になったので、米国もこれでめでたくテリトリアル課税制度の仲間入り、というのは表面的な見え方で、まず先に毎期毎期、GILTIによりCFC課税所得を強制的に米国株主側で所得認識させられるため、CFCの配当原資は毎期ほぼ課税済みとなってしまう。配当非課税で真のテリトリアル制度の恩典を享受できるのは、GILTIから免除されるCFCの償却対象動産の定額償却ベース簿価の10%ルーティンリターン所得のみ。これはかなり地味なテリトリアル制度と言わざるえを得ない。

GILTIに関しては、少なくとも機械的な計算ルールに関して、夏の後半、日本ではツクツクボウシが鳴き始める頃に規則案が出るらしいので、その際に詳細に触れたいが、GILTIの「I」と「L」には騙されないように。GILTIはGlobal Intangible Low-Taxed Incomeの略で「ギルティ―」(Guiltyみたいに)と発音されるけど、米国株主側で課税所得として合算が求められるCFCの所得はIntangibleから発生するものには限定されていない。CFCの課税所得(米国税法ベースで計算!)全額(一部の例外の除き)を米国株主側で合算課税する恐ろしいシステムだ。唯一対象外となり、すなわち真のテリトリアル制度の恩典対象となるのは、CFCの償却対象動産の定額償却ベース簿価の10%ルーティンリターン所得のみ。この額を超過する所得はみなしでIntangibleに帰属すると扱われる。

また、Low-Taxedと命名されているので、高税率国で事業展開するCFCはGILTI合算から免除されているのでは?、と勘違いしがちだけど、それも間違い。米国の従来のCFC課税であるSubpart F制度に規定される「High-Tax Exception」のようなものはGILTI規定には存在しない。Subpart Fと異なり、GILTI合算はMobilityが高かったり、その国に存在する意味がないような怪しげな所得のみが対象となる訳ではない。償却動産簿価の10%ルーティンリターン以外は全て問答無用に合算対象だ。

ではなぜGILTIは、まことしやかに「Low-Taxed」と命名されているかというと、米国株主側で、一旦CFC所得のみなしルーティング所得以外全額を合算した上で、50%のGILTI控除があったり、外国法人税のうちGILTIに適切に対応していると扱われる金額の80%がFTCとして認められるので、算数上は13.125%を超える法人税を現地で支払っていれば、GILTIを合算しても最終的に持ち出しとなる米国法人税はないというのが理由。「なんだ、13.125%だったらLow Taxじゃん」って思うかもしれないけど、これは全てがうまくいく際の理論的な算数。GILTI控除やFTCは米国株主側で課税所得が出ていないと取れないし、また課税所得が発生していても、米国株主側の経費をFTC算定時にGILTIバスケットに配賦してしまうと、GILTIに基づく米国法人税をFTCではきれいに消しきれないという問題がある。これは米国側の枠の問題なので、CFCが外国でどれだけ巨額の法人税を支払っていても関係ない。

となるとGlobal Intangible Low-Taxed Incomeの略のGILTIのうち、正しいのは最初の「G」と最後の「I」だけ?という驚愕の結果となる。Global Everything High-Taxed Incomeと名称変更すると「GEHTI」となってギルティ―がゲフティーになっちゃうね(笑)。

で、米国の新たな国際課税システムを部分的なテリトリアル課税と見るにしても、待ったなしの全世界 課税と見るにしても、従来のシステムに基づくDeferral制度から脱却したことだけは確か。で、この制度移行時に今まで外国に埋蔵されていた巨額の配当原資に従来の35%より低い税率で一括課税しようというのがSection 965の留保所得一括課税となる。今週にでも税制改正に基づく初となる一括課税にかかわる財務省規則案が公表されるのではないかと固唾を飲んで見守っている(大げさ?)最中というまさに今が旬の規定だ、税制改正に基づく新規定のほとんどは2018年課税年度から影響を持つけど、一括課税だけは2017年に取り込まれることが多いので他の規定に先行してガイダンスが必要となる。という訳で、まずは「一括課税」を題材に次回から引き続きUnplugしていきたい。