前回から国際課税制度移行時の特別規定となる「留保所得一括課税」に関して触れ始めたが、ちょうど、昨日(2018年8月1日)、一括課税にかかわる財務省規則案が公表された。この規則案、今回の税制改正にかかわる財務省規則としては初のものとなる。規則案は前文113ページ、主文136ページ、計249ページ、と予想はしていたけど膨大だ。2年前の過少資本規則518ページも読めたんだから、その半分と考えれば今回も読み込めるはず、って自分に言い聞かせないとね。
で、この手の規則には、「書類作成負担軽減法」とか訳されることがある米国の「Paperwork Reduction Act」に基づいて、規則対応に各納税者がどれだけの時間を費やす必要があると推定されるか、っていう時間数が記載されている。いつも笑っちゃうけど、Section 965の一括課税対応に費やされる推定時間はナント納税者当り「5時間」だそうだ。250ページの規則を発行しておいて5時間っていうのは大胆だ。
規則案の内容そのものは過去の複数のNoticeから予想されたものが多い。一点、興味深かったのは、留保所得一括課税で課税済み留保所得となった金額を原資として、後日外国法人が米国株主に分配を行い、源泉税が課せられる際の外国税額控除の取り扱い。規則案によると税額控除の対象とはなるけど(それは960があるので当然そのはず)、源泉税のうち外国税額控除の対象となる金額は、一括課税時に税額控除対象となる法人税を減額した際の「Applicable %」で同様に減額するというもの。そうなるんじゃないかな、っていう憶測はあったけど、業界の集まりに来る財務省やIRSの重鎮が全額取らせてあげてもいいんじゃないか、というような趣旨の発言をしているのを聞いたことがあったので変な期待が頭の片隅に残っていた。でも、やっぱり減額だったね。まあ、低税率で課税済みになってる留保所得を原資としているのでしょうがないね。
いきなり財務省規則案を深掘りしてもチョッと分かり難いかもしれないので、まずは一括課税規定の基礎から入って、適宜、規則案で補足されている部分に触れていきたい。
一括課税の基本的なアプローチは、留保所得をSubpart F所得と認定することで、米国株主側で課税所得として認識させるというもの。Subpart F所得とは、従来から税法に存在し、米国のCFC課税の対象となる一定の所得のことで、Subpart F所得となり例外規定の適用がないと、米国株主側で課税所得として認識しないといけない、というもの。
これはなかなかスマートなアプローチで、対象となる留保所得を明確に規定すれば、米国株主側の計算法、CFCの株式簿価の調整、その後の分配、外国税額控除などは既存の法律をそのまま流用することができる。もちろん必要に応じて既存の法律の考え方を変更もできる。したがって一括課税を規定しているSection 965では米国で課税する云々には直接触れられておらず、「Deferred Foreign Income Corporation」が認識している「Deferred Foreign Income」の2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい残高額を当外国法人のSubpart F所得とする、と規定している。米国株主側の属性となるGILTIと異なり、Subpart Fは各CFCの属性と言えるので、外国法人のDeferred Foreign Incomeを各外国法人レベルでSubpart F所得と規定し、後は通常のSubpart F規定に準じて米国株主が他の(通常の)Subpart F所得同様に合算するという仕組み。
で、この基本的なフレームワークの次にくる規定が、マイナス留保所得の扱い。通常のSubpart F所得の世界では、米国株主はプラスのSubpart F所得を持つCFCから、所得のみを合算することになるけど、留保所得課税をSubpart F所得扱いする際の特別措置として、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ外国法人を持分を有し、また少なくとも一社マイナスのE&Pを持つ外国法人を持分を有する場合には、米国株主側で取り込むべきSubpart F扱いされる留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる。
外国法人のマイナスE&Pを他の外国法人からフローしてくるSubpart F所得と、米国株主側で相対するという概念は、従来のSubpart F規定には存在しないので、この点に関しては多くの複雑な検討事項が必要となり、法律でも比較的詳細に規定されている。ここはチョッと長くなりそうなので次回、まとめて触れてみたい。