Sunday, May 6, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(9)

前回までいろいろと脱線しながら、8回に亘り税制改正の中でも日本企業の視点から注目度の高いBEATミニマム税規定に関して分析してきた。法文解釈的には、1月時点での感触と5月になった現時点の感触は若干異なるというか、国際税務業界でもその分析がいろいろと進化してきた感じがする。

NOLの使用法も、詳しくは「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(8)」を参照して欲しいけど、どうも通常の法人税の算定で使用した金額のみが加味されて、かつBase Erosion Benefit%は使用年度のもの一発を適用するという感じが濃厚。これに加えて旧アーニングズ・ストリッピング規定下で繰り越されている支払利息が、もともと外国の関連者向けのものだった場合には、Base Erosion Benefitになると、NOLと旧アーニングズ・ストリッピング規定の繰越利息の双方を使用する年度にはBEATミニマム税を支払うケースが多くなりそう。まあ、ものは考えようで、BEATミニマム税を支払っても従来の35%よりも実行税率が低ければ税制改正の恩典はプラスだったとも考えられる。

2026年以降には、BEAT算定の比較対象となる通常法人税はフルに税額控除を引いた後の金額となること、また適用税率的も12.5%(金融機関は13.5%)となることから、要注意だ。

BEATを含む国際課税のメジャーな新規定に関しては夏にも財務省規則またはNoticeのようなガイダンスが公表されると予想されているが、その際にはBEAT適用納税者かどうかの判断に利用される3年平均$500M売上、また同判断およびBEAT修正課税所得算定時にNOLのいくらを加算調整するかを計算するためのBase Erosion Benefit%、の双方を計算する際に適用がある「Aggregation Rule」(合算規定)の考え方が明確になることが期待される。Aggregation Ruleの詳細に関しては以前のポスティングの「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(7)」を参照して欲しいけど、法文では50%超の資本関係にあるグループ法人は「一人の納税者」として扱うとしている。ということは、このグループに含まれる関連者間の売上は自分に対するものなので、$500Mの判定時には加味されないと考えるのが自然なようにも見える。一方、Base Erosion Benefit%は別のところで定義されていて、仮に50%超のグループが一人の納税者でも、グループ内の取引を基にBase Erosion Benefitとなるものはそのまま計算しないといけないだろう。

また今回の税法改正のあちこちで不確実性を生み出しているのが、連結納税をしているグループに対して、特定の規定が個々の法人に対して適用されるのか、連結納税グループ単位で適用されるのか、という疑問。Section 163(j)の支払利息損金算入制限に関しては4月2日のNotice 2018-28で連結納税グループ単位ということが明確化されたけど(これに関しては「支払利息損金算入ガイダンス発表」を参照)、BEAT、GILTI、FDIIなんかもどのように適用があるかで計算結果が大きくことなることがある。BEATは通常の法人税との比較なんだから、通常の法人税が連結納税グループ単位で算定されいることを考えると間違いなく連結納税グループ単位での比較になるはずだろう。そもそも連結納税を選択しているグループに属する個社には個別の課税所得というものは概念的に存在しないと言ってもよく、その証拠に、SRLYとか個別の数字が重要になる局面では財務省規則は徹底して「個別メンバーの所得、譲渡益、控除、損失のみを参照して決定される連結納税グループの課税所得」と実に回りくどい表現をして実質単体の課税所得を指し示している。この点からも、厳密に言うと連結納税グループにはそもそも個社の課税所得という考え方が存在しないことが伺い知れる。

さらに金融機関が連結納税グループの一員となっているグループに関してはBEATミニマム税の適用税率が1%高かったり、Base Erosion Benefitの基準%が1%低かったり不利な状況になっているけど、例えば、連結納税グループの課税年度の部分的な期間、極端な例で言えば3日とか、のみ金融機関がグループに属していたらどうなるのか、とかも不明。

また以前にも触れたけど、$500Mの売上基準に加味される売上は米国法人のものは全額(上述の50%超の資本関係にあるグループ会社間のものを除外はできる可能性あり)、また外国法人に関してはECIの算定に加味される売上のみとなっている。法文を読む限り、ECIと明確に記載されているので、条約のPE規定を用いてECIを米国課税免除としていても、その売上は加味せざるを得ないように見える。そんな数字を管理しているところは稀だろうし、またそもそも米国で申告しないでいいんだから、Base Erosionのチャンスもない訳で、ここはガイダンスでPEのないECIは除外してくれることを願う。

と、いろいろとあるけど、BEATはガイダンスが公表されるまではこの辺りにして、次のトピックに進みたい。題材は山のようにあるので何を選択するかが頭痛の種。チョッと考えてみるとしよう。