前回のポスティングでは、4月2日に財務省が発表した3姉妹Noticeのうち、支払利息損金算入制限(Section 163(j))にかかわるNotice 2018-28に関して、特に旧アーニングス・ストリッピング規定で繰り越されている利息の今後の扱いを中心に触れた。過去に外国関連会社に支払ってアーニングス・ストリッピング規定に抵触して繰り越されていた支払利息を今後損金算入する際には、BEATに抵触するんだろうな、っていう点は何となく予想されてたけど、(たかが?)Noticeの段階であそこまで明確にBEATに抵触する可能性を指摘してるのは少し意外な感じがすると同時に他の解釈は認めないぞ、っていう財務省の強い決意が感じられた。
今回はこのNoticeに規定されるSection 163(j)の他の適用にかかわるガイダンス内容について簡単にまとめておきたい。まず一般的に「Notice」っていうものの位置づけだけど、基本的には正式な規則が出るまでの「つなぎ」のガイダンスという性格のもので、その法的な効果も「納税者はNoticeの内容に準拠してもよろしい」となっており、法律と異なり「準拠をしなくてはいけない」という書き方ではない。もちろん、Noticeで公表されているポジションが財務省およびIRSの現時点における法文解釈となることから、Noticeと異なるポジションを取る場合には、財務省やIRSはそうは思ってないっていう点は十分に覚悟の上決断しないといけない。Notice上の解釈は必ずしも法文の唯一の解釈ではないことが多いので、異なるポジションで申告すること自体に問題がある訳じゃないけど、法的に主張が通り得るFiling Positionに至るのか、税務調査でIRSから指摘があった際に、不服審査また訴訟に行く覚悟があるのか、とかリスク管理面の検討が重要となる。
Noticeはあくまで暫定的なガイダンスをタイムリーに納税者に提供するという位置づけなので、最終的にはNoticeで公表されている財務省やIRSのポジションも正式に財務省規則に組み込まれる。その際、100%Noticeと同じポジションで規定されるとは限らないが、異なる扱いとなる可能性がNotice発行時点で認識されているケースでは、その可能性がNoticeに示唆されるのが普通。要は未だ検討中だけど、当面これいいです、みたいな感じの時の暫定処理。Section 163(j)のNoticeでも財務省はそのうちNoticeで規定されているポジションを基に「Proposed Regulations」、すなわち財務省規則「案」を策定するとしている。規則案は法的な効果を持たないので、規則案が同時に暫定規則と位置付けられていない限り法的効果を持たず、その後、最終化されて法的な効果を持つガイダンスが誕生するまでには更に時間を要することになる。Notice後に策定される規則が必ず規則案かというとそんなことはなく、いきなり最終規則が公表されることもある。現にNotice 2018-28と同時に公表されている米国事業に従事するパートナーシップ持分を譲渡した際の源泉徴収を規定したNotice 2018-29では、規則案ではなく、いきなり最終規則を策定するとしている。
で、Section 163(j)にかかわるNoticeの内容そのものだけど、まず法人が認識する利息の扱い。Section 163(j)は法人だけではなく全ての納税者(小規模事業には免除あり)に適用され、この点は法人のみが対象だった旧アーニングス・ストリッピング規定と異なる。その上で、各納税者が認識する利息のうち「Business Interest」のみがSection 163(j)の対象となる。となると当然、支払利息、受取利息のうち何が「Business Interest」に当るかという点が入口のところでまず最大の関心事となる。Business InterestでなければSection 163(j)のの出番はないからだ。
この点に関して、法文には「Businessに関連して発生するInterestはBusiness Interest」というような全然役に立たない定義しか記載されていない。米国税務の他の局面でも何がTrade or Businessなのかっていう結構基本的な点に関して明確な定義がなく困ることがあるけど、基本的には、判例等に基づき個々の事実関係に基づいて判断せざるを得ない検討だ。Trade or Businessの有無判断がよく問題となるのは、外国法人がECIを認識するかどうかという検討時だ。税法上、ECI目的では一定の活動はTrade or Businessとはならないという例外は規定されているけど、あくまでも例外が規定されているだけで、包括的にTrade or Businessを定義している条文はない。
Section 163(j)目的では「Investment Interest」はBusiness Interestには当たらないとも規定されていることから、例えば純粋な持株会社が認識する利息がSection 163(j)に規定されるBusiness Interestに当るのか、それとも法人に関しては基本的に全ての活動がBusinessと考えられるのか、という点が議論を呼んでいた。Noticeでは、法人(ここではC Corporationのこと)が認識する支払利息および受取利息は全額「Business活動」から発生しているものと明確にしている。
それはそれでOKなんだけど、パススルーには同様の考え方は適用されない。となると法人が事業活動をパススルー経由で行っている場合、自ら認識する利息は問答無用にBusiness Interestとなる一方、パススルー主体で認識される利息は必ずしもそうとは限らないということなんだろうか。Section 163(j)はややこしいことにパートナーシップに関してはパートナーシップ事業主体レベルで適用となっているので、この辺りの絡みは実に複雑だ。パートナーシップに対して本来は相反するコンセプトであるAggregateとEntityの扱いを状況次第で併用するアプローチは今に始まったことではないけど、規定によってAggregateだったりEntityだったり余りバラバラに扱うことになると、いろんなところで無理が生じてくる。
次に連結納税グループの扱い。これは以前から財務省高官が発言していた通り、Section 163(j)は連結納税グループ単位で適用となる。まあ、その当然の結果として、連結納税グループ内の債権債務は消去される。また、今後の規則案策定時には、連結納税グループでSection 163(j)に抵触する際の制限額および繰越額の個社への配賦法、連結納税グループに後から参加する法人が持ち込む繰越額に対するSRLY規定適用有無、損金制限に抵触する場合の株主側の子会社株式簿価調整法、連結納税グループ内に制限免除可能事業(不動産事業、農業、公共ユーティリティ)が含まれる場合の扱い、なんかを規定するとしている。今回、Section 163(j)が新設された際、繰り越されている支払利息はNOL同様にSection 382の対象属性である点が明確にされているので、SRLY同様の規定が適用される場合には、Section 382とのOverlap規定もNOLみたいにできるんだろうか。う~ん、いろいろと複雑。
一点Good Newsとしては、 旧アーニングス・ストリッピング規定と異なり、連結納税を選択していないグループ、または外国親会社経由で構成される広範なグループに対するグループ計算は規定されない。この点は旧アーニングス・ストリッピング規定下でも法律そのものは連結納税グループのみを合算するとしているのに、規則案が暴走して広範なグループもみなし連結納税グループとしてしまったための弊害で、みなし持分とかも適用させられて、まともに準拠しようとすると細かい部分でとても変な結果になることがあった。今回はそんなレッスンから学んだのか、本当に連結納税をしているグループのみ一社として扱うとしている。
次にE&P(アーニングス・アンド・プロフィッツ)への影響。E&P計算時にはSection 163(j)で損金算入が制限されているかどうかにかかわらず、支払利息は発生ベースで取り込むとしている。
Section 163(j)はパートナーシップに関してはパートナーシップ事業主体レベルでの適用となっている点は上述したけど、ここは実際の適用時に問題山積み。今回のNoticeでは、パートナーシップの部分はほとんど触れられていない。唯一、パートナー側でネット支払利息額の算定を行う際に、パートナーシップから配賦される受取利息全額を取り込むことは認められず、パートナーシップのネット受取利息のみを加味することとしている。それはそうで、パートナーシップレベルでまずはネット支払利息を算定することになるので、その際に受取利息は一旦加味されている。それを再度まるまるパートナーが取り込んでしまうとパートナーシップレベルの受取利息は同じ金額なのに2回枠を作りだしているような結果になり兼ねない。Floor Financingにかかわる支払利息も同様で、パートナーシップレベルのFloor Financing利息はパートナー側の枠の計算時に再度取り込んではいけないとしている。
と、まあまあクリアになった部分もあるけどパートナーシップへの適用に関しては規則案で相当きちんと規定してくれないと適用時に不明な部分が多い。また、BEATとの関係は散々明確にしているけど、他の制限、特にAnti-Hybridとかの影響も考えないといけないのか、という点は不明。更にSection 163(j)をCFCレベルで適用するのかどうかに関してもNoticeは触れていない。この点はGILTI計算に大きな影響を持つので慎重に検討の上、規則案で明らかにされるんだろう。これらの不明点は忘れているとか、問題として認識していないということでは一切なく、「敢えて」Noticeでは触れなかったと見るべきで、それだけ扱いの最終化に苦慮しているということだろう。