Tuesday, August 31, 2010

F型再編と事業継続要件

今日は久々にハードコアなSub Cの話しとなる。Sub Cとはもちろん税法のSubchapter Cのことで、法人と株主の間で起こる様々な取引に対する課税を規定している部分だ。パススルーを規定するSub Kと並びその複雑さと面白さで多くのタックス専門家を魅了し続けている(と同時に納税者を困らせ続けている、とも言える)。

個人的にもまだまだ勉強しないといけない分野で、特に国際税務とSub Cの架け橋とでも言うべきSec.367に関しては更に深入りして理解しないといけないと痛感することが多い。

ちなみに大学のクラスとかで「Corporate Tax」とかいうクラスを受講すると、その内容のほとんどはSub Cのことで、大概Corporate Tax Iが配当を規定した301から清算規定くらいまでを網羅し、Corporate Tax IIで非課税再編、スピンオフとなる。Corporate Taxという名前から、これを受講すると会計事務所で最初の何年か必ず担当させられる(=こき使われる?)法人税の申告書(Form 1120)の作成に役立つと思っている若い人をたまに見かけるが、1120の作成はどちらかというと通常のタックス(何が所得で、何が費用)の世界に近い。Sub Cはあくまでも株主との関係における課税関係がフォーカスとなる。

*F型再編

最近の個別通達でひとつ面白いものがあった。PLR201033016がそれだが、ここではいくつかのステップを踏むグループ内再編をF型再編として非課税扱いを認めている。

非課税再編に関しては今までにも多くのポスティングで触れているので、ここでまた再編そのものの説明はしないが、米国の非課税再編はA~Gまである。これは税法で非課税再編を規定する条項のアルファベットをとったもので、A~Dまでは買収型(ただしDは非課税スピンオフのワン・ステップにも利用される)、Eは資本取引に係るもの(Recap)、Fは変身型、Gは倒産型となる。

今回のテーマであるF型再編は、他の法人を買収・結合したり、法人を分離したりする取引をカバーする他の多くの再編と異なり、一企業が何らかの変身をするようなケースに適用される。例えば、カリフォルニア法人だった企業が、上場を前にデラウェア法人に変わりたい、というようなケースが代表的だ。この場合、カリフォルニア法人がそのままの法人格でデラウェアに登記しなおすことは通常せず、新規にデラウェア法人を設立し(Merger Co)、そこにカリフォルニア法人を合併させ、カリフォルニア法人の持っているもの全てを法的にデラウェア法人に移管し、カリフォルニア法人が消滅することで目的を達成することになる。

厳密に言うとカリフォルニア法人からデラウェア法人に資産が移管されているので、非課税とならないとカリフォルニア法人で資産売却益に課税される。さらに株主は含み益に対してキャピタルゲイン課税され最悪のダブルタックスとなる。

ここで有効なのがF型再編規定だ。上のケースのように実質何も変わってないけど、法人の身分的な部分を変更するために行なわれた取引であれば非課税再編として課税が見送られる。

合併を規定するA型再編、資産取得を規定するC型再編、グループ内再編のD型と大きく変わらないような気がするかもしれないが、F型には更なる有利点がある。

F型再編は基本的に一人で変身するような局面が想定されているため、他の再編で常に大きな検討事項となる「持分継続」とか「事業継続」という要件を満たす必要がない。最も、登記州を変更するだけであれば持分も事業も普通に継続するのが当然だが、事実関係次第ではこの点が生きてくることがある。

*PLR201033016

この個別通達では持株会社であるPが沢山の子会社を持っているが、その中にP-S1-S2-S3-S4という5社のチェーン(100%の持分で縦に繋がっているグループ会社)がある。PからS3 までは株式会社であるが、S4はLLCだ。S4は支店扱い(Disregarded Entity)を選択していたが、近年Check-the-Boxで「法人扱い」を選択している。

S4が行なっている事業の拡大、資金調達のためにS4は第三者と合弁に踏み切ることとなる。第三者の資本をパススルーとして受けるのが条件だが、S4が既にCheck-the-Boxに基づき法人の選択をしているため5年間はパススルー扱いの選択ができないという問題が発生する。S4が新規設立のLLCに事業を出資する案も検討されたが、資産の出資は実務的ではないと判断された(名義変更等がやっっかい)。

そこで、S3 が新規法人のHoldcoを設立し、HoldcoはInvestcoという100%子会社LLC(税務上はDisregardで支店扱い)を設立する。さらにこのIvestcoは100%子会社LLCであるOptco(同じく税務上はDisregardで支店扱い)を設立する。その後、S4はOptcoに合併される。その後で、合弁相手の第三者にはHoldcoがIvestcoの持分50%を売却し、結果としてパススルーであるInvestcoにPグループはS3 、Holdco経由で50%、第三者も同じく50%の持分を持つこととなる。

沢山の主体が関与しているので関係を整理すると、S4のOptcoへの合併は会社法上はOptcoそのものへの合併でHoldcoの株式を対価とするため三角合併となる(間にIvestcoがあるので親ではなくお爺さん(=Holdco)の株式を利用)。一方、税務上はIvestcoとOptcoが支店扱い(合併時点では)となるため、S4の合併は直接Holdcoとの合併されたものと扱われる。

この再編はA型(合併)、C型(資産買収)、D型(グループ内資産買収)に適格となる可能性もあるが、そのためには合併後にHoldcoが何%の持分を持っているとか、Ivestcoの経営にどれだけ参加しているか、という点の分析をして事業継続要件が満たされているという点の確認をしないといけない(今回のケースでは50%譲渡なので要件が満たされる可能性あり)。

ただ、この通達ではそれらの確認はせず、再編をF型で適格としている。すなわち、S4が単にHoldcoに「変身」しただけという理論だが、その後のInvestcoの売却はF型再編の要件には影響がないとしている。これはF型再編が単独再編であり、事業継続要件のテストを必要としないことを意味していると取れる。このことから、大きな持分を譲渡する合弁契約ではF型再編の利用が鍵となるケースもあり得るだろう。