前回のポスティングではブッシュ政権が2001年~2003年に実行した大型減税が2010年末で全て失効する点に触れた。今回は中でもその効果というか影響が最も異常な形で現れているの遺産税に関して触れてみたい。
*米国遺産税
米国の遺産税とは相続税のようなものだが、相続を受け取る者に課税する相続税と異なり、死亡した者の資産に直接、資産課税という形で課税するものだ。したがって、相続を受け取る者は「After-Tax」で相続資産を受け取ることになる。
2001年のブッシュ減税では、それまで55%だった遺産税率を徐々に低下させて(同時に非課税枠は徐々に増額させて)、最終的に2010年には遺産税が「完全撤廃」されると規定されている。したがって2010年は遺産税が「ゼロ%」の年だ。
問題はブッシュ減税が2010年末で失効するため、2011年1月1日にはブッシュ減税がなかった状態に後戻りする。となると2011年の遺産税はナント55%(免税枠は100万ドル)となる。
2010年12月31日に死亡すると遺産税がないのに、翌日の2011年1月1日に死亡すると55%の遺産税が掛かることになる。こんな短期間の間にこれだけの差が発生するような設計を持った法律はどう考えてもおかしいし、死のタイミングに係る問題なだけに場合によっては気まずい状況を生み出す。
重病の親族を持つ場合、2009年段階ではタックスのことを考えている者でも「何とか2010年まで生きていて欲しい」と願うことができた。実際に2009年の大晦日に命尽きそうになった方が何とか翌日朝まで頑張って遺産税ゼロを達成したケースが報じられている。逆に2010年に関してはタックスのことだけを考えていたら「2010年に亡くなって下さい」となってしまう。
納税者から見てベストなオプションは2010年以降ももちろんゼロ%がそのまま延長、恒久化されることであるが、民主党政権下でそれは難しい。それで次のオプションとして、遺産税が復活するのは仕方がないとしても、税率はせめて55%ではなく35%程度に、更に免税枠も100万ドルではなく350万ドル程度にして欲しい、という現実的なアプローチが打診されている。また、2010年だけゼロ%というのは異常なので、2009年の税率を2010年にも適用させるという遡及規定も有望視されていたが、年も後半に差し掛かっている現時点で2010年1月1日に戻る遡及規定は困難だろう。
公のデータによると、通常であれば遺産税を支払っていたはずだが2010年のゼロ%の恩典を受けた方は夏時点で25,000名に上るそうだ。有名人としては俳優のデニス・ホッパー、ヤンキーズのオーナーであるスタインブレナーが含まれる。
ちなみに遺産税がゼロ%なのはありがたいが、相続資産の受け手側での税務簿価は2010年は時価へのステップアップに制限が加えられる。通常は遺産相続された資産の受け手側での税務簿価は基本的に全て時価にステップアップするため、含み益を持つ資産が多額にある場合、この点に関してデメリットとなるケースもある。
それにしても、尊厳死を認めるオレゴン、ワシントン、モンタナ州に遺産税絡みで注目が集まるかもしれないとかいうニュースを読んだりすると、人生最後の選択をタックス・プラニングを基にしてしまうというのは何だか、という気持ちになる。日頃、日本企業にはタックス・プラニングにもっと真剣になって欲しいな、と思っているこの僕であるが。
という訳で次回は切り口を変えてブッシュ減税失効の個人所得税に対する影響について触れてみたい。