Friday, January 25, 2013

日米租税条約8年ぶりに改正

現時点で適用されている日米租税条約は2003年に全面改正され(2003年の議定書を含む)2004年から効力を持っているものだが、今日(2013年1月24日)に新たな議定書が両政府により調印され、約8年ぶりの改正となった。改正の事実、その予想される内容はここ一年程話題にはなっていたので特に驚きではないが、正式に発表されたことで「本当になったんだな」みたいな感じだ。

内容的にはほぼ予想通りだが、FIRPTA規定の租税条約の隠れた恩典(後述)が明記されると踏んでいたところ、逆に恩典が正式に撤廃されるという方向に行っていた。これはガッガリ。後、多分入らないだろうとは思っていたが、やっぱり入っていなかったのが適格企業年金の他国での尊重(すなわち、日本の厚生年金の公的でない部分とかを米国で「402 Accrual」しなくてもいいように認めるもの)だ。現実には確定給付型の企業年金に加入している日本人の米国派遣員でこのAccrualをして申告しているケースは皆無と思われることから、逆に租税条約でお墨付きとして欲しいところだった。確か英米の条約にはそのような条項が入っていたような記憶がある。

政府間の合意が見られたが、即有効になる訳ではなく、今後両国で批准手続きの終了を待つ必要がある。批准が終わった後に実際の効力を持つこととなる。米国では条約の批准は上院のみの管轄となる。近年の租税条約、議定書の批准プロセスを見ていると簡単に数日で終わるようなプロセスではなく、早くても今年後半というところではないかと推測される。

*改訂内容

改訂そのものは14条項から成っている。重要性、スコープはまちまちだが、各項目の極ザックリとした内容は次の通り。目玉は配当、利子の源泉税免除拡充、仲裁条項の追加だろう。

I) 20条(教育・研究者の免税)撤廃による「Saving Clause」文言のアップデート。Technical Correctionで大きなインパクトはない。

II)法人のTie-Breakerルール撤廃。両国で居住者となってしまう法人は従来は協議の上、どちらかの居住者として取り扱うとされていたのが、今後はそのようなケースでは租税条約の恩典ナシとする条項。

III) 配当に対する源泉税ゼロ%の要件が若干緩和され、従来の「50%超」「12ヶ月保有期間」が各々「50%以上」「6ヶ月保有期間」となった。

IV)利子に対する源泉税が一定要件を満たすと初めてゼロ%となる。

V) 従来の租税条約では上院の批准趣旨から見て、米国のFIRPTAルールの適用時にUSRPHC(米国不動産持分法人)になるかどうかの判断を、株式売却時点のみの資産状況で決定することができるという解釈が一般的であった。これに関しては批准の文書化で明らかにされているにも係らず、条約そのものの文言が不明確で、本当にそんな解釈をしていいのかどうかという点で疑問を持つ向きもあった。今回の改正でこの疑問が解消されることを願っていたのだが、解消されたのはいいが、方向が逆で、上院の文書化に見られる批准趣旨は無視され、米国FIRPTAルールの内国法そのものが適用されることになった。すなわち通常通り、一定の例外を除き、株式売却時点が5年間遡って判断しないといけない。残念な改正だ。

VI) 日本法人の役員報酬は居住地に係わらず日本で課税できる、という実質内容に見えるが以前からどこが変わったか現時点では理解できてない。もう少し勉強します。

VII) 教育・研究者の免税撤廃。チョッと気の毒な感じ。

VIII) LOB規定の上場定義のTechnical Correction。

IX) 日本がTerritorial課税になったためのTechnical Correctionだが、現時点での解釈と変わらずのような気がする。

X) 利子の源泉税条項変更に伴うNon-Discrimination規定のTechnical Correction。

XI) Arbitration(仲裁条項)の新規追加

XII) 情報交換の拡充(条項全体一新)

XIII) 租税徴収の相互協力拡充(条項全体一新)

XIV) 2003年議定書の改訂で主たるものは相互協議関係。

という訳でJFK―>LAXの機内から取り急ぎ。今週のNYは極寒でした。