Thursday, March 25, 2010

IBM追徴課税に見る日米税法の違い(2)

前回のポスティングでは米IBMがグループ間で子会社株式を売却した際に検討されるであろう米国税法上の検討事項に関して触れた。今回も引き続き、IBMが追徴課税を受けている取引を米国税法の観点から見ていきたい。

*日本IBMによる株式買い戻し

問題とされている取引の次のステップはAPH社が取得した日本IBMの株式を一部数回に分けて日本IBM社そのものに売却したというものだ。日本IBMは100%親会社であるAPH社から自社株式を買い戻していたことになる。この売却から譲渡損が発生し、それをAPH社と連結納税をしている日本IBMとの連結納税で使ってしまったというものだ。米国税法下では考えられない取り扱いと言える。

日本の税法では100%子会社の株式をその子会社そのものに買い戻しさせる取引が税法上も償還(=株式譲渡)と取り扱われるからこそこのような手法が可能だ。また、グループ関連会社間での取引から発生する譲渡損、しかも連結グループ間の取引から発生している譲渡損の認識が日本で認められるからこそ今回のようなプラニングが可能であったであろう。

*株式償還と米国税法

一方、これが米国であったらどうだったか。まず、会社法上「償還」という形式を取って自己株式の買取を行っても、税法上それが償還すなわち譲渡と取り扱われるとは限らない。

100%子会社が親会社からいくら株式を償還しても、株数が変わるだけで100%親会社は100%親会社であり続ける。ということは何万株償還しても親会社の子会社に対する権利関係には全く影響がないことになる。このようなケースでは例え会社法上の取り扱いが償還であっても税法上は分配(すなわちE&Pの範囲で配当)となる。

償還が税務上も償還として認められ、譲渡損益を計算することができるのは、償還により株主の持分比率に「意味のある低下」が認められる場合に限定される。この点を規定するSec.302にはいくつかのパターンが定められており、Safe-Harbor規定として機械的に一定の持分%の低下が見られる場合には意味のある持分低下が認められるし、最高裁判所の判例で有名な「Davis」ケースの考え方に基づきSafe-Harborテストに満たない減少でも意味のある低下を達成することは可能であろう。もうひとつDavisケースで面白いのは持分に意味のある低下があれば、いわゆる事業目的の有無に関係なく償還の取り扱いが認められるというものだ。

この意味のある持分低下の判断にはAttributionに基づくみなし所有を考えなくてはいけない。結果としてグループ会社間の償還を「税務上」も償還扱いするのは極めて難しい。ましては今回のIBMケースのように100%子会社による償還は例外なく分配・配当扱いとなる。となると損失の計上はあり得ない。

*関連者間取引からの譲渡損

また、仮に譲渡損が発生したとしても米国では関連会社間の譲渡損の認識は認められない。この規定の基は二つある。まず連結グループ内であれば内部取引として譲渡損益の双方が繰延され、最終的にグループ外に譲渡対象の資産が流出した段階で損益が認識される。

また連結納税をしていない関連会社グループ間の譲渡損は認識できずに繰り延べされる。おそらく税務に係っている者なら(シニアの人くらいなら?)誰でも知っているSec.267だ。法人以外の関連者間の譲渡損は否認されその後も認識されることがないのに対し、関連法人間の譲渡損は一旦否認されるものの、その後関連会社の外部に資産が譲渡された段階で損を認識することができるという繰り延べ規定となる。ここでいう関連法人とは直接・間接に50%超の関係にある者を意味する。連結納税規定下の繰り延べが譲渡損と益の双方に対して適用されるのに対して、Sec.267の繰り延べは譲渡損にしか適用されない。すなわち譲渡益は関連法人間の取引から発生していても、連結納税をしていない限り認識させられることとなる。

このように100%子会社の株式償還で損を認識するということ自体が米国ではあり得ないばかりか、例え損が認められたとしても関連会社間の譲渡から発生している限り損失の認識は繰り延べられる。これら全てが法的に認められている日本の税法と対象的で、米国的に考えるとかなり面白い取引形態だ。