Saturday, June 6, 2009

BREAKING NEWS! 非居住者の「外国銀行口座開示」一時中止

オバマ政権による米国国際課税の規定大改定に関してポスティングを続けているが、今日金曜日に凄い(チョッと大げさ?)発表がIRSからあった。ナント今年の申告シーズンにあれだけ人騒がせだった「今年から非居住者でも米国で何らかの事業活動(従業員としての役務提供も含むと思われる)をしている場合には、米国外の銀行口座内容を開示することになった」というポジションがひっくり返り、2007年度までと同様に非居住者は何もしなくてよくなったのだ。かなり重要な発表なので号外(?)で触れてみる。

*米国外銀行口座の開示

米国に駐在した経験のある方であれば他の税金のことは一切記憶になくても、これだけは間違いなく覚えていると思われるものに「米国外の銀行口座」の開示が挙げられるだろう。毎年、米国外の口座の銀行名、口座番号、年間最高残高等の情報を会計事務所に提出しなくてはいけないのだが「そんなこと言われても口座がいくつあるかも分からない…」といった文句を言ってみたりした経験をお持ちの方が多いと思われるからだ。

この開示義務、実は税法(Internal Revenue Code)に基づくものではない。Bank Secrecy Actというマネーランドリング等の違法行為を取り締まるために、銀行等に情報開示を義務付けている法律に基づくものだ。

具体的には「Form TD.F 90-22.1 Report of Foreign Bank and Financial Accounts」(Foreign Bank and Financial Accountsは略してFBARと呼ばれる)という様式を財務省に提出して開示をすることになる。税法に基づくものでないため、提出期限は4月15日ではなく6月末日、提出先もIRS Centerではなく全国どこに住んでいてもDetroitにある財務省となる。

*古くからある開示義務だが・・・

開示義務を規定した法律は古くからあるが注目を集めるようになったのは近年になってからの話しだ。2001年の同時テロ以降、単にアングラマネーを取り締まるだけでなく、テロ資金の流れを掴むための情報収集としても利用することができることから急に息を吹き返した。同時テロ後の国会で開示規定の実効性のなさが槍玉に挙げられたことがある。実際には米国外に口座を持っていても開示していない例(開示義務を知らない例も含めて)はかなりあったものと思われるが、過去30年間でペナルティーが課されたのは「たったの2件」だということが財務省に対する質問から明らかになり、余りの「手緩さ」に議会中が唖然とした。

これではいけないということで2004年の税法改正でペナルティーの強化が規定され、さらに開示義務を取り締まる権限がFinCENと呼ばれる連邦省庁の複合体のような金融犯罪を監視する組織からIRSに移管されて今日に至っている。

また、ここ1~2年の間に明らかになった米国市民富裕層のスイス銀行等の匿名口座を介した米国税金逃れの実態等から、QI制度と同様に外国口座の開示にはより注目度が高まっている。

*2008年Form TD.F 90-22.1

この開示義務、もう一つの特徴はどのようなケースで開示が求められるのかという点が今ひとつ細かく規定されていないことだ。税法だったら財務省規則等で事細かに定義とかが規定されるところだが、この開示義務は税法ではないためか通常であれば法源にはなり得ないFormに印刷されている「Instructions」が唯一の拠りどころだったりする。2007年までのForm Instrucionsでは開示義務は米国市民、居住者、米国法人にあるとされていた。ただし、米国外「全口座」の合計残高が年に一度も$10,000を超えていないケースは少額免除で開示義務がない。

2008年度用にFormが一新されたのだが、この新Form InstructionsおよびIRSが公表したQ&Aによると開示義務が「非居住者でも米国で事業を行う者」にまでにも及ぶとされていたため、大変な騒ぎとなった。さらに2008年からは年間の各口座の最高残高が金額幅(Range)ではなく、きちんとした金額をもって開示しなくてはいけない点もショックが大きかった。

そもそも、米国居住者というのは税法の定義でいいのかどうかもはっきりしなかったのに、2008年からは何をもって非居住者が米国事業に従事しているかという点がますます不明確となり、安全策として非居住者で申告書を出す者は基本的に全員TD.Fも提出するという結果となり、申告シーズンは終了したかのように見えた。

*IRS Announcement 2009-51

ところが、今日(6月5日)、6月30日の提出期限ぎりぎりになってIRSはAnnouncement 2009-51を発表し、提出義務の決定に際しては2007年の旧FormのInstructionsを参照してよいと方向を転換した。すなわち元に戻り、2008年に関しては非居住者には報告義務がないことになる。めでたい方向なのだが「もう少し早く知っていれば余計なFormを作成しなくて済んだのに・・・」というのが会計事務所の個人申告書担当の方の共通の思いであろう。