前回のポスティングでは、オバマ政権による国際課税改定案の一つにCheck-the-Box既定の使用制限が含まれている点に触れた。すなわち、外国事業主体がパススルーの取り扱いを選択できるのは、事業主体がその単独構成員と同一の国で設立されている場合に限るという点だ。すなわち、逆に言えば単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体は、米国税法上「法人」と位置づけられることとなる。唯一の例外は、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができるとされている点だ。
*なぜ別の国に設立される単独構成員パススルーが目の仇に?
今回の税法改定案を理解するためには、そもそもなぜオバマ政権が外国の事業主体のうち、単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体に対してのみパススルー選択を認めたくないか、という点に触れておく必要がある。
米国には日本のタックスヘイブン税制の基となる「Subpart F」規定というものがあるが、単独構成員と異なる国に設立された外国パススルー事業主体はこのSubpart F規定から逃れながら外国で最大限の税効果を得るという手法に頻繁に利用される。
*Hybrid Branch
例えば次のような取引を考えてみると単独構成員のパススルー事業主体の効用が良く分かる。
米国親会社Pの子会社Aは外国Xにあり、外国Xにて事業を営んでいる。子会社Aは低税率国である外国Yに子会社Bを所有している。Bの主たる業務はAに対するファイナンスだ。AとBはそれぞれXとYでは独立法人として取り扱われているが、Bは米国税務上の取り扱いはCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択している。
AはBからの貸付に対して利息を支払い、Aは外国Xでの課税所得をこの利息額分圧縮している。一方、Bは利子所得があるが、外国Yは低税率国なのでほぼ税金を支払っていない。ここで、もしBが米国税務上、法人扱いだったとすると、BはCFCとなり、Aから受け取る利子所得は「同じ国から受け取るものではない」受動的な所得となりSubpart F所得となる。となるとBからの配当の有無に関係なく、Bが受け取る利子所得は米国Pで課税されることとなる。ところが、米国税務上はBがパススルー(単独構成員なので支店)となることから、AB間の貸付、Bの受け取る利子所得は内部取引として「無視」される。となると、AもBも外国での税負担は最小限とすることができる上に、米国のSubpart F所得の認識をも回避することができることになる。典型的な「Earnings Stripping」と言える。
IRSが以前から目を付けている取引で、いわゆる「Hybrid Branch」と呼ばれるアレンジだ。
*11年前の悪夢が再び・・・
実はこの手のHybrid Branch手法に網を掛けようという試みは過去にも存在した。1998年1月にIRSが発表した「Notice 98-11」である。このNoticeではHybrid Branchに関してはCheck-the-Box規定の利用を制限するという財務省規則を発行する予定であるというものであり、実際に3月には暫定規則が発表された。しかし、これらの規則は、議会、産業界、専門家からかなりの反発を食い、結局撤回されるに至っている。その後別のNotice等が出たりしているが最終的には取り締まりは行われておらず、このことから今回の改定案はHybrid Branchまたはそれに類似する取引を一気に潰すためのものだ。
また、一部このような取引を公認している「Look-Through」規定というものがあるが、これが改定案が最終化される過程で生き残るのかどうかという点も興味深い。
長くなりそうなので次もCheck-the-Boxの改定に関するポスティングを続ける。