Friday, March 20, 2009

ナント90%課税? 「AIGボーナス」騒動(1)

ここ数日のトップ・ニュースは何と言っても大手保険会社AIGのボーナス騒動だろう。AIGは金融危機の影響で債務超過に陥りそうになったところを政府から「救済」資金援助を受けて何とか経営している会社だ。そんな会社の幹部の多くが多額のボーナスを受け取ることが明らかとなり「そんなバカな・・・」ということになっている。

政府からの救済はもちろん国民の税金を資金源としている。税金を支払っている一般庶民が前代未聞の不景気で息も絶え絶えな状態なのに、その税金をもらって何とか生き延びた会社の経営者がボーナスをもらって潤っているのはおかしいということだ。庶民的に分かり易い論点なのでお茶の間レベルで関心が高いニュースだ。

ボーナスへの課税に関心が高いが、そもそもAIGとはどのような経緯で危機に陥り救済を受けることになったのか?

*金融危機誘発の張本人?

AIGとはAmerican International Groupの略でNYに本拠地を持つ世界でも最大規模の保険会社だ。金融危機で経営難に陥り救済が必要になったという点で一見自動車会社のGM等と同じ「被害者」の立場にあるようにも思われるが、GMのケースとはチョッと異なる。

AIGが手元流動性の悪化による危機に瀕したのは、格付けの引き下げに伴い、CDOに係るCDS契約の担保力が不足し、その解消のためのマージンコール、つまり追証を支払うことができなったことに基づくとされている。このCDOとかCDSとかが今回の金融危機を引き起こし、今後の巨額($10Trillion?)の資産減損を引き起こすというものだ。となるとAIGは、金融危機を誘発するような取引に自ら手を染め、その取引は他の金融機関、ヘッジファンド等の同様の取引と一緒に破綻して危機を発生させ、その結果自らののポジションが債務超過となり、それを税金で穴埋めしてもらい、そして幹部は多額のボーナスを受け取った、という皮肉な見方をする者もいるだろう。

*CDO?

「CDOに係るCDS」って「南アフリカのCradock空港に係るアメリカ南部のChildress空港?」と思った方はAirport Codeに詳しい相当な航空分野の専門家だ。しかしここでいう「CDO」と「CDS」はもちろんLAXとかJFKみたいなAirport Codeではなく「Collateralized Debt Obligation」と「Credit Default Swap」のことだ。「C」と「D」が共通なのに基となる単語が異なる点が分かり難い。

CDOもCDSも難しいので詳しい説明はできないが、不正確を承知で敢えて分かり易く表現すると次の通りだ。まず銀行とかがいろんな人にお金を貸す。そして無数のローンを一つのポートフォリオにしてSPC(Special Purpose Corporation-これはお馴染みですね?)に売却し、SPCはそれを証券化する、つまり個々のローンとして転売するのではなく、沢山のローンをまとめた上でそれを小口化して投資家に売り払って設ける。

結果としてCDOはいろんなローンが集まって出来ているポートフォリオを基とする証券となる。ローンを借りている個々の債務者の返済能力は当然異なる。中には返済可能性がかなり低いもの(つまりサブプライム)も含まれる。でも全員が返済不能に陥ることは想定されないので投資家としてはひとつのローンに全てを掛けるよりもリスク分散ができて安心ということになる。しかし、ここが今回の金融危機のカラクリの一部でもあるが、CDOは単なるリスク分散では済まない。

CDOは金融工学に基づくいわゆる「Structured Products」の一種であり、証券化の際には単に金太郎飴のように全ての小口証券に均等のリスクを分散させるのではない。SPCはひとつのポートフォリオを「リスク度」の異なる複数の階層、すなわちトランチに分けて、小口証券化する。もちろん利回りはリスクの大小に準じて異なる。リスクが最も低いトランチは優先的にポートフォリオからのキャッシュフローが配賦されるように設計されているため、損失を被る可能性は低い。AAAとかの格付けがもらえるのはこの理由による。一方、一番格の低いトランチはポートフォリオに損失が生じるとまずそこにしわ寄せが行くようにできているので危険度は極めて高い。もちろんトランチの下に位置するEquityはリスクの塊だ。

それでも多くのローンからのキャッシュフローを基にしていることから、金融危機が顕在化するまでは(ベアスターンのCDOの一部に値が付かなくなるまでは)、リスクの高いトランチでも比較的優良な投資先かのように考えられていた。

CDOの基となる資産はローンでもいいし、社債でも何でもいい点、モーゲージに限定されるREMICよりもかなり弾力的な使用が可能だ。しかし、そこにも落とし穴があり、CDOの中には他のCDOの劣後証券を集めてポートフォリオとしているようなものもある。そのような二次CDOもリスク度に準じてトランチが構築される。キャッシュフローを最優先で受け取ることができるトップトランチは一見、堅い投資に見えるため「AAA」の投資として扱われることもある。しかし、いくらトップトランチでも、基となる資産が他のCDOの劣後部分では全然意味がない。というかリスクの塊だ。そんなものにAAAという今となってみると全く非現実的な格付けが付いたりしていた。CDOの中身が実は何か分からないという恐怖の事実に気付いた時には既に巨額のCDOが世界中に溢れていた。

次回はCDOと米国タックスに関して触れる。