Sunday, January 27, 2008

大統領選挙後の米国税制

2008年の大統領選は8年間に及ぶブッシュ政権からの「変革」を求めて既にかなり盛り上がっている。各候補者はイラク戦争から中絶、同性間の結婚問題に至る幅広いトピックで各自の主張を展開しているが、経済に暗雲が立ち込め始めたここに来てにわかに注目を集めているのが「経済政策」である。

*ブッシュ政権下での税制

ブッシュ政権は戦時であり財政が悪化していったにも係らず大減税を連発するという普通では考え難い戦略を取ってきた。基本的には共和党色に基づき、高所得者が優遇された税制であった。また、2001年の同時テロ、2008年のサブプライム問題で経済がスローダウンすると見ると素早く「戻し減税」、「設備投資減税」を実行している。本来の共和党のスタンスは小さな政府を実現して歳出を低くするため減税しても財政が均衡するというものだが、イラク戦争等の出費で財政は民主党のクリントン政権時とは比べ物にならない赤字となっている。

また、当初は税法を簡素化するという意欲が感じられたものだが、実際には税法は簡素化されるどころかますます複雑になった。さらに社会保障税の一部を納税者各自が運用できるという社会保障システムの民営化は一時大きな話題となったがイラク戦争が泥沼化していく過程でほぼ議論されることがなくなってしまった。

*次の政権で税制はどうなるか?

現時点ではもちろん誰が次の大統領となるか分からない。ただ方向的には、もし民主党候補が大統領になるとすると今までの減税基調は逆戻りするであろう。特に高所得者優遇っぽい項目は見直されるはずだ。配当所得に対するキャピタルゲイン税率の適用撤廃、累進最高税率のアップ、2010年に期限が到来する多くの時限減税の終了、等が予想される。

一方で共和党候補はどうだろう。皆基本的には増税反対であるからブッシュ政権が残した税法から大きく乖離するような政策は取らないのではないかと予想されるが、財政赤字の問題があり難しい舵取りを迫られることは間違いがない。2010年に期限が到来する時限減税のうちどの程度が恒久化されるか見ものだ。

各候補者の主張だが、現時点で上位3位のRomney、McCain、Huckabeeの中で一番減税をアピールしているのはHuckabeeだ。

*Huckabeeの「フェアタックス」

HuckabeeはYoutubeの討論会で「大統領になったらどの連邦省庁を廃止するか?」と聞かれて「IRSだ」と回答して喝采をあびた程である。彼の提唱する「フェアタックス」案によると、基本的に所得に基づく税金(Income Tax)は撤廃される。対象には所得税、法人税ばかりでなくFICA等のPayroll Taxも含まれる。代わりに財源となるのが「連邦売上税」だ。米国には今でも売上税は存在するが、基本的に州税であり連邦ベースの国家単位では売上税は存在しない。

基本的に有形の動産の小売にのみ適用される州の売上税と異なり、Huckabeeの連邦売上税はありとあらゆるものに適用される。物販ばかりでなく、 サービスにも適用される。例えば、医療費、家賃などにも適用されることになる。また、不動産取引も対象となることから家を購入しても売上税の対象となることになる。

所得税に代わる売上税の%であるが、20%~30%としないと足りないのではないかと推測されているようだ。となると今まで$1,000で買えたものが$1,333となる(25%の税率でグロスアップ)。これはかなりのインパクトだろう。

*もっと凄いRon Paul案

インターネットを中心に一部で狂信的な支持を集めているのが真の小さな政府を目指すRon Paulだ。Huckabee案が所得税を撤廃して「代わりに」連邦売上税を導入するのとは対照的にRon Paul案は所得税一切を撤廃し、IRSをなくし、その上「代わりの税金を取らない」という過激なものだ。なぜ代替の歳入がなしで済むか?Ron Paulによるとイラク戦争、世界の警察という米国の外交ポリシー、Homeland Security省、その他の無駄使い(?)をなくすことにより、所得税の歳入などなくても他の歳入でやっていけるそうである。現に1913年までは連邦政府は憲法上Income Taxを徴収することが認められていなかった。

変革を求める米国民にどれだけの「税制変革」が実現されるか?2008年の選挙はいろんな意味で見所が多い。