Sunday, January 20, 2008

減税「還付小切手」の悪夢(?)が再び

昨年夏ごろから予想されていた通り、ここにきて米国の経済がスローダウンしてきている。特に消費者の購買欲が低くなっている、というよりも購買欲自体は引き続き旺盛だがクレジットマーケットが収縮し、以前のように「お金はないけど借金して欲しいものを今全て手に入れる」ということが難しくなってきているというべきであろう。銀行のWritedownもいつになったら出尽くすのか分からないし、さすがのブッシュ政権も暗雲が立ちこめている事実を認めざるを得なくなってきた。

*そしてまた減税

経済がスローダウンするとお約束のようにブッシュ政権による減税案が浮上する。いつになったら終わるか分からないイラク駐留の戦費等で財政状態が日に日に悪化しているのは新聞など読んでいなくても誰でも予想がつく。そんな局面でもブッシュ政権は過去に次々とこれでもかという程の減税を実現してきているが、今回も何となく「業あり」の減税となりそうな気配である。

減税のタイミングであるが、2007年の税金は2008年の4月15日を期限とする確定申告を待つばかりで、既に申告を済ませている方もいるであろうことから、いくら2007年12月29日という年末ギリギリにAMTパッチを法律化して会計事務所に迷惑を掛けたブッシュ政権といえども今から2007年の減税を講じる訳にはいかない。となると減税は2008年に対するものとなる。例えば2008年に関して所得税の累進税率、すなわちブラケット(先日ポスティングしたFTCのバスケットと間違えないように・・・)の最低水準である10%を時限的に0%とするような方法が考えられる。

2008年の税率を下げることにより、2008年の税負担はもちろん少なくなる。問題はこの減税効果をいかに納税者に直情的に訴え、消費に結びつけ、減速気味の経済を再びジャンプスタートさせるかである。

2008年の減税を納税者の財布に還元させる方法はいくつかある。まず、給与所得者に関しては雇用主が源泉徴収する所得税の%を減税見合い分引き下げる方法だ。この方法は手順が簡単であるが、減税効果に即効性がない。まず、減税の恩典が長い期間を掛けて実現されるために急に大きな買い物などする気にはさせないであろう。米国の給与は最低でも2週間に一回支給される。仮に年間$1,600の減税効果を2週間単位で分割すると給与支給毎の恩典は$60である。もちろんないよりは全然いいが、消費の起爆剤としてはチョッとパワーに欠ける。

話はそれるが米国では給与が月一回などどいう会社はまずない。これは僕も最初は面食らったが、今では一回の給料で一月も持たせるなんて信じられなくなってしまった。また、雇用者から見ると「2週間」という単位は常に14日であり、28日~31日の間で期間内の日数がブレる月給と異なる。したがって週給制は給与の原資となる売り上げ等の収入が常に一定期間に基づくという大きなメリットがあり合理的である。

自営業者に関しては、年4回行う予定納税を減額することができる。同じく年間$1,600の減税効果に基づくと、一回の予定納税当たり$400の減税となる。$60に比べてかなりまとまったお金という感じはする。しかし、多くの国民が給与所得者であることを鑑みると自営業者だけが消費意欲を持っても経済全体へのインパクトは相対的に低い。そこで検討されているらしいのが減税効果を前もって一括で国民に現金で渡してしまうという荒業である。

*魔の還付チェック

国民に減税の恩典を一括払いで前もって現金で支給することができればインパクトは強い。ある日、財務省から自由の女神のすかし絵がプリントされた荘厳な感じの$1,600の小切手(チェック)が郵便ポストに届けられる、というのがイメージだ。そして封筒には「国民の皆さんのために米国政府から・・・」のようなレターが同封されているかもしれない。$1,600をいきなり非課税で受け取ると、日頃どうしようかなと迷っていたPCとかゲームとか何か買いたくなる衝動を抑えきれない消費者が続出する可能性が高い。

しかし、還付チェックはインパクトが強い分、かなりハイメンテナンスである。まず、チェックを財務省が印刷しなくてはいけない。そしてそれを郵便で発送する。多くのチェックが住所違い等で返送されるだろう。

そもそも、2008年の減税は2008年の申告をしてみないと減税対象者すら分からないはずだ。となると減税チェックは前年となる2007年の情報を基に送付されるであろう。2007年に税金を支払っていれば、2008年は仮に所得がなく税金を払う必要がなくても2008年の減税チェックを受け取ることができる。このケースはおそらく「もらい得」となり、2008年の申告時に還付チェックを返金させるような野暮なシステムとはならないであろう。一方で、2007年に申告していない場合には、財務省側にデータがなく、還付チェックの送付はない。これらのケースでは2008年の申告書提出時に減税に基づく低税率を適用して税金を圧縮することになる。となると2008年の申告書には「あなたは還付チェックをいくら受け取りましたか?」というラインが追加され、それに基づいて異なる確定申告額が算定されるということになる。

*2001年に同様の還付チェック

実はこの還付チェックという離れ業にはブッシュ政権下で前例がある。2001年に可決された減税法である「The Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001」だ。この減税は2001年に対するものであったが、2000年のデータを下に2001年内に「Advance Refund Check」という名のチェックが多数発送された。

日本人駐在員の申告書を作成する際に誰がいくらのチェック受け取ったかという情報を正しく収集することが極めて困難であったのを記憶している。当時、会計事務所では「魔の還付チェック」と呼ばれ恐れられていた所以である。チェックの送付はSocial Security Numberの下二桁番号順に2001年7月から9月に掛けて行われたが、非居住者申告している者は対象外であったため、2000年にたまたま非居住者扱いだった者にはチェックが来ない等、かなりの混乱があった。したがって、個人的にはとてもうれしい減税チェックであるが、その後の申告書作成時の悪夢を考えると喜んでばかりもいられない。

*税金を払ってないのに「還付」がある?

さらに今回の還付チェックで議論となっているのが、そもそも税金を支払っていない低所得者層にも「還付チェック」を与えるべきかという点である。予想通りこの点に関しては政党ラインで意見が二つに割れている。共和党は「還付チェックという名からも当たり前のように、税金を支払っている人にのみ戻すものである」と主張する一方、民主党は「税金の還付ではなく政府からの助成金というのが本来の性格であり、お金を一番必要としている低所得者層にこそ恩典が与えられるべきだ」として譲らない。共和党のプランに基づくと潜在的に6千5百万人もの国民が満額の還付チェックを受け取れない可能性があるという試算がニューヨークタイムスでは指摘されている。大統領選挙への影響もあることから、最終的に誰が還付チェック(またはリベート)を受け取ることになるか今後の議論に注目要である。