ということで昨日はElla and Bossa Beat聴いて何から始めようか考えたんだけど、個人的な好みのCFC持分譲渡時のNCTI・245A、Inbound FとFIRPTA、またはForeign Governmentの取り扱いとかから行くか、ここはチョッと我慢して一般読者の皆さん側で関心が高いかな~って推測される自社株買い1%懲罰課税のFunding規則撤廃とかDC REITに行くか、で迷った挙句、後者で行くことにしました。Inbound Fじゃなくて安心した?
自社株買い1%Excise Tax(懲罰課税)
2022年IRAで米国上場企業による自社株買いに1%のExcise Taxが導入された(section 4501)。2017年のTCJAで法人税率が35%から21%に引き下げられたこともあり、その分単純に法人の税引後利益および配当原資は増額するだろうから、従来から活発だった自社株買いはさらに拡大してたね。
このExcise Tax、報道とか読んでると日本語で「物品税」って訳すのが一般的みたいなんだけど、例えば大型トラックの販売に対するExcise Tax(4051)とかだったらトラックは物品だろうから分かり易いし、ガソリンの卸しに対するExcise Tax(4081)も、まあガソリンも有形だし何となく日常的な感覚の物とはチョッとズレる気はするけど、まあ物品税なのかな~って思える。でも、自社株式買いに対するExcise Taxは物品って感じは全然しないんでこの訳はしっくりこない。僕の日本語力の問題の可能性も大だけど、Excise Taxって米国では政府の視点で好ましくない行動や取引に懲罰的に課す税金っていうニュアンスがあるんで個人的には懲罰課税って呼んでる。ここでは無難なところで(自社株買い)Excise Taxって統一しておきます。
このExcise Tax、概念的には比較的シンプルなはずだった…。株式が公認Stock Exchangeで取引されている「米国法人」を適用対象法人とし、2023年1月以降の適用対象法人による自社株買い対象株式時価の1%を法人の課税年度ベースでExcise Taxとして課すというもの。税法(Title 26)のSubtitle D(4000番台)にCodifyされていることから分かる通り、Miscellaneous Excise Taxのひとつであり、よってSubtitle A(1~1563)の「Income Tax」ではない。Excise Taxなんで単純に取引価格に%を掛け、費用控除は認められない。ここまでは「なるほど…」って感じで仕方ないんだけど、読んでいくと設計ミス的な複雑性が伴い始める。何と言っても致命的なのが「Stock Repurchase」定義。4000番台のExcise Tax下の規定にもかかわらず「自社株買い(Repurchase)」はIncome Tax(Subtitle A)のChapter 1傘下で法人取引やM&Aの課税関係を規定しているSubchapter C(Sub C)に属するsection 317の「Redemption」(および財務省が「当Redemptionと経済的に類似と判断する取引」)って定義されている。ええ~、マーケットで認識されている所謂自社株買いとSub CのRedemptionって全然Scopeが異なるけど大丈夫…?って驚愕したとしても、既に立法府の議会で条文化されてしまってるんでどうしようもない。
ちなみにIRAのExcise Tax導入には何らかの深淵なポリシー目的があるはずで、例えばZuckerburg効果の抑止とか、それが何なのか教えて欲しいっていうリクエストが少なからずあるんだけど、IRAのエネジークレジットの財源として急遽抜擢されただけの話しでLegislative HistoryやIntentの記録は一切ない。何も記録がないんで憶測に過ぎないけど、IRA審議時にCarried Interest課税強化可決に足る票が集まらず、代替財源が必要となりExcise Taxが急遽法制化されたに過ぎない。したがってもちろんだけどなぜsection 317のRedemption定義を流用したかの議論は残っていない。
またExcise Taxって通常、四半期ごとに申告して支払うけど、課税年度ベースで支払うとなると手続きも異なって混乱だったよね。結局、2023年は準備が整わず混乱の挙句に申告・納税は不要(苦笑)っていう変わったアナウンスに至っていた。2023年6月のAnnouncement 2023-18だ。
上述の通り、何がsection 317のRedemptionと経済的に類似する取引かっていう判断権限は、立法府の議会が条文で行政府の財務省に付与している。Excise Taxが立法化された2022年夏はまだChevron原則下だから行政府は条文解釈に対する広範な裁量を持っていた。その後2024年6月に言い渡されたLoper Bright最高裁判例でChevron原則は撤廃され、連邦憲法の趣旨に立ち返り、拡大一方の行政府の裁量が抑制されている。行政府が策定する規則は立法趣旨に沿って合理的でないといけないし(この点はChevronの2ステップテストのうち、2つ目のテストでもそうだったはずなんだけどね…)、沿っているかどうかの判断時に行政府の判断をほぼ常に尊重するのではなく、司法府が行政府の解釈が合理的かどうか、策定権の範囲内かを判断することになった。「経済的に類似する取引」が何かの解釈に関して行政府の判断・裁量はChevron原則下よりLoper Bright原則下ではより限定されることになる。ただ後述のFunding規定はChevron原則でも法廷でチャレンジされると怪しかったんじゃないかな。
例えば、議会が「桶屋が儲かっている、または経済的に類似する」場合にはExcise Taxを課すっていう法律を通し、何が類似するかは行政府に規則策定権を付与したとする。財務省は規則を策定し「風が吹いたら桶屋が儲かり経済的に類似することからExcise Taxを課す」っていう規則を公表したとする。風を感じた者にExcise Taxが課せられ、裁判になったとしたら、さすがにChevron原則でも合理的な解釈じゃないってことになるだろう。桶屋はもちろん非現実的な例だけど、Excise TaxのFunding規定って個人的にはそれに近いくらいStretchだったと思う。
Funding規定案
風が吹いて桶屋が儲かるFunding規定、もともと2023年1月にNoticeに規定されて世間を驚かせた後、2024年4月の規則草案に若干「緩和」されて盛り込まれていた。Funding規定は簡単に言うと米国法人が、関連者の外国上場企業が米国外で実施する自社株買いの財源を直接・間接に提供、すなわちFundingしている場合、米国法人は外国法人株式を取得していると取り扱われExcise Taxの対象になるっていうもの。上場日本企業の例で行くと米国子会社が分配、貸付を含むいかなる形式でも親会社に資金提供・Fundingし、Fundingの主たる目的のひとつ(「a」 principal purpose)がExcise Tax回避の場合、米国子会社がExcise Taxの対象になる。
2023年のNoticeでは分配以外の取引(例、貸付)の前後2年間に親会社が自社株買いを実行している場合、「反証不可」でFundingの主たる目的のひとつはExcise Tax回避だったと認定するという「Per Se」ルールが規定されていた。日本親会社は米国のExcise Taxなんかが可決される前から自社株買いプログラムを持ってるところも多いし、そもそもExcise Taxの存在も認識してないケースもあるだろう。また、従来から子会社から定期的に分配を受け取ったり、Cash Management等で借入をしてたりするのは極普通。にもかかわらず後からExcise Taxが可決され、米国子会社から日本親会社へのFundingはExcise Tax回避が目的っていう超訳分かんないことになっていた。しかも主たる目的って一体全体誰の目的?日本の親会社なのか米国子会社なのかも不明だった。
NoticeのFunding規定、特にPer Seルールには多くの反論が寄せられた結果、2024年4月の規則草案のFunding規定はPer Seルールの代わりに反証可能な推定事実認定となった。財務省は大きな改訂(Substantial modification)と胸を張ったが、反証こそ可能になったもののFunding規定の基本的なストラクチャーはそのまま。しかもFundingのひとつの目的が直接・間接に親会社の自社株買い資金を提供している場合、それをもってイコールExcise Tax回避目的と規定されていた。この点に関して、納税者等からFundingの意図とExcise Tax回避の意図は異なるっていう反論が寄せられていた。
2024年6月に最終化された規則は主に手続き的な規則にかかわるもので、Funding規定は含まれていなかった。バイデン政権末期に規則策定権または法的解釈が眉唾な規則が次々最終化されていったので、Funding規定もそのまま最終化されてしまうのかな~って危惧はあったけど結局、草案のまま政権交代となった。
パラダイムシフトの2025年Excise Tax最終規則
つい一か月ほど前の2025年11月21日に最終化されたExcise Tax規則は2024年6月の最終規則ではペンディングになっていた手続き面以外の規則案の多くを大幅に自由化、合理化した。2024年4月の規則草案の(法人の視点から)行き過ぎの規則の多くがリバースされ、パラダイムシフトって言っても過言じゃない。前座としてFunding規定以外でいくつか代表的なものを挙げておくと次の通り。
Preferred Stock
規則草案では原則、全てのPreferred Stockの償還も自社株買いExcise Taxの対象とされていた。Preferred Stockは償還が義務つけられているタイプも珍しくないことから一定条件下で不適用にして欲しいというコメントが寄せられていた。特にExcise Taxが可決された2022年8月16日より前に償還権が付与されていたPreferred Stockに関しては、債権交付時にはExcise Taxという制度は存在せず、当事者のEconomicsが後から没収されるような効果となることから過去遡及の適用はおかしいというコメントもあった。最終規則ではどれも「ごもっとも」ということで、所謂Vanilla Preferred stock(連結納税グループの判断時に無視されるベーシックなTermのみ付与されるタイプのPreferred Stock)はその性格がDebtに近いということでExcise Tax目的ではStockに当たらないと規定された。またVanillaでなくてもExcise Tax可決(2024年8月16日)より前に交付されたPreferred Stockのうち、償還が義務つけられていたり、HolderにPut Optionが付与されていたりするケースの償還はExcise Tax対象から除外するとされた。
LBO/Take-Private/企業買収
Leveraged Buyout(LBO)やTake Privateのストラクチャリングは一つじゃないけど、もう何十年もベーシックなストラクチャーは同じ。LBOの「L」のLeverageはバイアウトファンドによるターゲット買収対価の一部で、メカニクスとしては通常、Debt Commitment Letterに基づきTransitoryのMerger Subが借り入れ、ファンドがEquity Commitment Letterに基づいて提供するEquityポーションにプラスされてトータル取得対価を構成する。同時にMerger Subの負債はMergerやDouble Mergerでターゲットが継承する。ちなみにバイアウトファンドによるこのLeverage導入はその昔から一貫してそのままで、ここ10年程度で定着したファンドレベルのSub LineやNAV Debtと混同しないようにね。同様にTake Privateも、TransitoryなMerger Subを介して結局のところターゲット法人の資産を原資に一般株主の持分が換金化される。双方共に(LBOのケースではDCLに基づく部分Debt部分)株式取得対価をターゲットが負担してるんで税務上は「Redemption」と位置付けられ、多くのケースで302(b)(1)下で「Payment in exchange for the stock」となる。Sub Cの世界ではこのExchangeは明らかにsection 317(b)のRedemptionに当たる。となるとメカニカルには条文定義的にExcise Taxの対象になるんでNoticeや規則草案ではLBOやTake Privateのターゲット取得対価もExcise Taxの対象としていた。所謂自社株買いプログラムとは似つかない取引だけど、4000番台のExcise TaxにSub Cの定義を流用した制度設計の弊害のひとつで、納税者からは趣旨的に対象外ではないかっていうコメントが寄せられていた。
最終規則では法人株主構成を根本的に変えてしまうタイプの取引は、議会がExcise Taxの対象と意図していた自社株買いとは似つかないとしてExcise Tax対象外としている。またLBOやTake Privateに加えて、企業買収取引のケースではそもそも単独法人のCorporate Financeの域を超えてるとし、適用対象法人がM&Aその他のCorporate Transactionを介して適用対象法人でなくなる(すなわち上場企業ではなくなる)取引はExcise Tax対象外としている。結果としてLBOや法人買収時に対価の原資をトラッキングしたりする作業も不要となった。Section 355適格スピンのうち、Pro-RataのSpin-offではないSplit-Offに関しては引き続き条件付きでExcise Taxの対象とされる。Split-OffはCorporate Finance的にも経済的にもRedemptiveな取引(にもかかわらず355適格の場合にはDistributing法人レベルでControlled法人株式の含み益に課税ナシになるんでとても強力)なんで、こちらがExcise Taxの網に掛かり続けるのは、買収型の取引との比較で仕方ない観がある。
そしてFunding規定不採択
Funding規定はNotice時の規定は言うまでもなく、規則草案で「substantial modification」された後も完全撤廃を求める声は後を絶たなかった。それでも政権交代前にカンファレンスでIRSのChief Counsel Office高官が発言してたのを聞いた際は「いろんなNoiseはあるが、規則草案で緩和したんで合理的」って感じだったけどね。反対の理由は多岐に亘ったけど主に次のようなもの。Excise Tax導入以前から恒常的に実行している取引にもかかわらず新たなコンプライアンス負荷が高い、米国子会社による親会社への配当、貸付その他の資金供与の主たる目的のひとつが親会社の自社株買いをFundingっていう認定はどのタイミングで行うのか、また誰の動機なのかが不明、ルール適用有無の基準が不明確、親会社側の多岐に亘るFunding源泉有無が加味されない、など。最終規則では「これらのコメントに基づきFunding規定は採択されない」と極めてシンプルにバッサリ。
ということでExcise Taxの最終規則でした。年末が近づいてきたんで次回は恒例のゆく年くる年。その後、De-RegulationsおよびOB3で続けます。