Saturday, March 3, 2018

外国法人による米国法人税申告書提出遅延と費用控除却下

米国の税制改正って可決してまだ2カ月強の時間した経過していないってウソみたい。もう2年は経った気がする。多分可決前からBlue Print、トランプ大統領の「Phenomenal」な改正発表、Unified Frameworkそして下院案、上院案とか追いかけてたのでそんな気がするのかもしれない。ただ、内容的にはBEAT、GILTI、FDIIとか想定すらしていなかったものが結構多く、これらの規定と寝ても覚めても格闘しているうちに、なんか随分と馴染んできた気がする。ただ、不明点がどんどん増えていくことも確か。まずは、支払利息の損金算入制限にかかわる規則が近々に出るはずなので楽しみ。旧Section 163(j)の繰越金利はそのまま、今後の金利として移管されるのか、連結納税単位での計算になるのか、法人の中でTrade or Business以外の支払利息があり得るのか、とか基本的なところで興味津々だ。その後、2カ月以内にGILTIとFDII関係の規則が出るそうだ。GILTIはとんでもなく強力な規定ってことが理解できてきたのでSection 78グロスアップのバスケットとか詳細楽しみ。その他の国際課税は8カ月くらいのスパンで規則が出るってことだからBEATはその頃かもね。

BEAT、GILTI、FDIIって何となく派手目な条文と戦っていたら、急にIRSの「The Large Business and International (LB&I) Division」っていう、要は数多い納税者の中でも規模が大きかったり、クロスボーダーでビジネスしてたりする企業を担当している部局が急に外国法人が1120Fをタイムリーに提出していないケースに対する措置をIRSの税務調査ガイダンスのような形で策定、公表したのでチョッと、またBEATから脱線するけど触れてみたい。日本企業にも大いに関係ある内容だ。

日本企業の米国税務とのかかわりって大別すると、米国に現地法人を設立して、そこが内国法人として申告するケースと、日本企業が外国法人として米国で活動するケースの二つがある。後者は更に米国源泉のパシブな投資所得を受け取るのみで税金は基本的に源泉税で支払うケースと、支店みたいに事業活動に従事しているとして外国法人として申告書を提出して普通に法人税を納付するケースに大別される。

米国で事業活動(「US Trade or Business」)に従事している外国法人は、そのUS Trade or Businessにかかわる所得(=ECI)を米国で1120Fという申告書を提出してネット法人税を支払う。日本のように米国と租税条約があるケースでは、通常はUS Trade or Businessよりも対象範囲が狭くなる「恒久的施設(「PE」)」に帰属する所得を同様に申告することになる。PEはないけど、厳密には内国法でUS Trade or Businessがあると思われるようなケースは条約ポジションを適用しています、っていう旨のの開示をする必要がある。これも1120Fを出して中身はブランクだけど、条約ポジション開示のためのForm 8833ていうのを付ける。これをしておくと申告書を出したことになるので時効期間が開始して、提出から基本3年で時効が成立するメリットがある。申告書を提出していないと未来永劫時効の成立がない。

で、外国法人として申告書を提出する重要な目的がもうひとつある。それは法人税の申告が求められる外国法人が一定期限内に申告書を提出していないと、課税所得算定の際に費用控除が認められないからだ。ということは総所得(=Gross Income)がそのままネット課税所得扱いになるという怖い結果になる。もしろん、本当に申告課税所得があれば、所得とか費用を申告書に計上してタイムリーに出せばいいけど、後からPE認定とかされる際にカラでもいいから申告書を出しておけば、いざという時に費用控除ができる権利を留保することができる。これが「Protective Return」と言われているものだ。

日経企業でも、実は米国で事業活動に従事するパートナーシップ投資からK-1を受け取り続けていたけど、キャピネットに大切にファイルしてあるだけで、過去に米国法人税申告書を提出していなかったようなケースがたまにある。余りそのままにしておくと上述の通り、費用控除が認められなくなってしまうから要注意だ。

費用控除が認められなくなるのは、申告書を通常の申告書提出期限(法人の場合、年度末から3カ月半)の18カ月後、またはIRSが申告書提出を求めるNoticeを発行した日、のいずれか早いタイミングで申告書が未提出のケース。え~、そんなタイミングとっくに過ぎてるし、っていうケースで唯一救いとなり得るのが、遅延に合理的な理由があって、かつ納税者が誠実に対応していることを立証して、IRSに費用控除の許可申請を行う免除規定。今までもこの規定はあったけど、どんな尺度で免除規定を適用してくれるのかケースバイケースでチョッと不明なところがあった。

そんな背景なんだけど、この税制改正対応で忙しいはずの絶妙のタイミングで、IRSのLB&I Divisionが急に免除規定の適用審査を公正に、首尾一貫して、迅速に行うという立派な目的で、IRS内の指針(「ガイダンス」)を策定・公表している。ガイダンスは「Waiver Summary Analysis」、「Waiver Procedure Guidelines」、「Waiver Flow Chart」の3本立てで構成される。

まず、Waiver summary analysisなるものを見ると、どのような判断基準で免除規定の適用を判断するかの指針が6つのポイントにまとめられている。すなわち、1) 自分で自ら未申告を認めているか、それともIRSが未申告を指摘しているか、2) 提出期限の時点では申告要件を認識していなかったのか、3)以前に米国で法人税申告をしたことがあるか、4)未申告は税法を吟味した結果の判断だったか、5)不可抗力で申告ができなかったのか、6)その他、情状酌量の余地があるか、となっている。当然だが外国法人がIRSに協力的かどうかも問われるところだ。

次のWaiver Procedure Guidelinesだけど、こちらは外国法人自ら未申告を名乗りでたのか、それともIRSが未申告を指摘しているか、の2つのケースで若干別のアプローチを規定しているけど、最終的にはフィールドのチームは前述の6つの判断基準に基づいて「Waiver Request Package」を取りまとめ、管轄マネージャーに提出することになる。その際に費用控除を認めるべきかどうかの「Recommendation」を付けるそうだ。管轄マネージャーのレビュー後にパッケージとRecommendationは共にCross-Border Activities Director of Field Operations (CBA DFO)に回される。費用控除を認めないというRecommendationとなる場合にはCBA DFOから更に特別委員会に照会され、最終判断となるそうだ。

と、なんとなくきちんと、公正に、首尾一貫して、迅速に検討してくれそうな雰囲気なので、万一、法人税申告の必要があるにもかかわらず、提出していないケースでは至急、申告書提出と共に費用控除の許可申請の検討開始要だね。