Friday, January 26, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「支払利息損金算入制限」はやっぱり連結納税グループ単位?

本来はBEATの詳細検討を続けたいところだけど、税法改正可決後のここ一カ月の動向に関していくつかアップデート。

まず、今回の税法改正はいきなり12月22日に500ページ以上の法律が可決され、その僅か一週間後には既に法律として効力を持つという異例のスピードで実現しているため、納税者ばかりでなく行政側も対応準備の時間がなかった。しかも審議自体も光のスピードで進んだのでフタを開けて見るといろいろと分からないことが続出で、留保所得の一括課税、GILTIとかBEATみたいな新しい概念が導入されている部分は特に更なるガイダンスが必要となる項目の代表だ。

議会が財務省に規則策定の権限移譲を明確に行っている場合には、財務省の規則発行によるガイダンスが期待されるけど、財務省は行政府なので法文に逆らう訳にはいかない。となるとあきらかにおかしい法律は立法府の議会本人が「Technical Correction」という法律を通して解決する必要がある。

このTechnical Correctionだけど、通常は法律が可決された後、比較的直ぐに法律の実質的な内容というよりは明らかな間違いを訂正し、その訂正はあたかも元々の法文に反映されていたかのように扱うというもの。これは行政府の規則ではないので、立法権限を持つ議会が法律として可決させる必要がある。今回の税法改正のような広範な法律はどうしてもこのような訂正が必要になることが多いと思うけど、現時点では議会および財務省筋も「そこまでする大きな問題はない」と胸を張っているようだ。実際には必ずしもそうでないような気もするけど。

Technical Correctionにはひとつ技術的なハードルがあって、大元の税法改正と異なり、予算調整措置の枠の中で可決できないらしい。となると上院で60票必要となりTechnical Correctionを通したくても通らないこともあるかもね。民主党が好みそうな法案、たとえばインフラ投資法案とかの一部にサッと混ぜて可決させるようなことになるのかもしれない。

既に納税者、専門家から不明点の多くが指摘されている。BEATで言えばNOLに対するBase Erosion Benefit%の算定法とか、支店に適用される際のBase Erosion Paymentの考え方とか。パススルー所得の個人オーナーに対する20%控除も相当なガイダンスが必要。でも実際の財務省規則の策定には相当な時間が掛かるだろうし、協議委員会が後付けで法律の趣旨はこうです、みたいな説明をまとめる「Bluebook」(中古車の実勢価格を列挙しているKelleyのBluebookと間違えないようにね)も規定が膨大なだけに例年通り年初に出すのは不可能。半年は待たされる感じ。

そんな中、財務省の重鎮たちがNY Barとかの法曹界、業界団体の集まりに招かれて、現状の見解を示してくれるのは今後の方向性が垣間見れてありがたい。ちなみに彼らは話す前に「私のコメントは個人のものであり、政府の意向を反映するものではありません」というDisclaimerを必ず声に出して言わないといけないんだけど、それでも財務省が法律をどのように解釈しているのか、また、今後の規則策定時のオープニングポジションは何なのかを計り知る貴重な機会となる。

そんなイベントのひとつである1月25日にDCで開催された「District of Columbia Bar Community of Taxation」で財務省高官がいくつか興味深い発言をしていた。

まず支払利息の損金算入制限を規定する「新」Section 163(j)に関して、連結納税グループはグループ単位で考えると言うガイダンスを出す予定だと言う点。この点は法文で敢えて言及していなかったと思われるので、どの程度、行政府にここを規定する権利があるのか不明だったけど、連結納税グループでの算定はオプションではないとまで言い切っている。できれば連結納税グループにとどめておいて「旧」Section 163(j)のようにControlled Groupとか持分のAttributionとかまで合算対象を拡大、暴走しないのを願いたい。

またNOLに関しては繰戻撤廃と繰延期間の恒久化に関しては2018年1月1日以降に「終了」する課税年度から適用と規定される一方、将来の使用が80%に限定される方の規定は2018年1月1日以降に「開始」する課税年度から適用となぜか別々の適用開始年度が規定されている。日本語で以降のいうのはその日を含むけど、英語では「After December 31, 2017」に「Beginning」または「Ending」という表現となる。面白いことにこの二つの定義、暦年を課税年度とする納税者は結局はどちらも同じで、2018年12月期からの適用になる。一方、3月決算とかのFiscal Yearのケースは2つの規定の適用開始が異なってしまうんだけど、どうも本来は双方共2018年1月1日以降に開始する課税年度からにしたかったそうだ。確かにExplanationにはそうなっているけど。ここは法文に明記されてしまってるんで財務省が勝手に規則で変更する訳にもいかず、Technical Correctionを待つしかないかもね。でもそんなの待ってたら年が終わってしまうかも。