前回のポスティングでは 米国企業が移転価格、IP移転、その他の策を駆使しまくって低税率国に所得を溜め込んだ上で、今度はまたしてもいろいろな策を駆使してその貯金を米国の税負担ナシに米国に持ち返ることに腐心している点に触れた。
中でも一部のメディア報道がきっかけとなり、製薬、ハイテク大手企業が巨額の資金を非課税で米国に持ち返る際に利用している「Deadly D」再編が注目を集めている。ここで言う「注目を集めている」というのは二つの切り口があり、ひとつは一般ストリート的な反応で「そんな悪戯なことはけしからん、早く法的に網を掛けるべき」というものと、もうひとつはシリコンバレー的な反応で「うちも外国にキャッシュを埋蔵しているけど、どうやったら非課税で持って返ることができるのか教えて欲しい」という対極的なものだ。
ちなみにこの「Deadly D」はD型再編規定を利用していることから定着した「アダ名」で、別のプラニングである「Killer B」と比較されることが多い。Killer BはB型再編規定を利用していることは容易に想像されると思うが、蜜蜂の中でも攻撃的な蜂(Killer Bee)に例えることで只者ではない雰囲気をよく表している。
*Deadly D再編
Deadly DはSec.367、Sec.356、Sec.368等のSub Cの規定等を駆使したハイテクなプラニング(IRSに言わせると「抜け穴」)だ。
典型的なDeadly Dのパターンは次のようになる。米国外に子会社(「外国子会社」)を持つ米国企業(Parent)が他の米国企業(Target)を現金で買収する。買収価格は当然Target株式の時価となるので、結果としてParentが持つTarget株式の税務上の簿価は時価とイコールとなる。一方、Targetが法人内に持つ資産の税務上の簿価(いわゆる「Inside Basis」)はゼロに近いと仮定する。買収の対価の多くの部分がGoodwill等の無形資産に対して支払われることから、この仮定は現実的なものだ。ゼロでないにしても、Target株式時価とTargetの持つ資産の税務簿価(自己創出されたGoodwill等に簿価はない)の開きは相当大きいケースがほとんどだろう。
その後、Targetは持っている資産を時価で外国子会社に現金譲渡する。この時価はParentが株式に支払った時価と同様の金額となる。資産を譲渡した後、Targetは清算される一方、外国子会社はTargetから取得した資産を現物出資する形で新たな米国法人(Newco)を組成する。
この流れのうち、Targetの資産が外国子会社に現金で譲渡され、Targetが清算されるステップはD型再編となる。D型再編というのは実に不思議な再編規定で、資産を譲渡する対価が全て現金でも、グループ内取引なので、形式的に少額の株式が発行されたかのようにみなされ適格再編とすることができる。以前のポスティングでも再三登場しているいわゆる「All-Cash D」だ。D再編のこの辺りの「魅力」に関しては昨年9月にポスティングした「D型再編とBoot」を参照して欲しい。
上の取引ではその後にNewcoが組成されるが、そのステップは適格現物出資(Sec.351)となる。
蓋を開けてみると、外国子会社が持っていた現金はParentの手に渡っている。結果としてParentは配当されたら課税されていたであろう資金(「E&P」と言った方が正確かも)を非課税で外国子会社から吸い上げて、買収資金に充てることができたことになる。
ちなみにTargetの資産を個々に外国子会社に譲渡したり、それを更にNewcoに現物出資するのは面倒なので、実際には外国子会社はTarget株式をParentから取得して、同時にTargetをLLCに転換するような手法も考えられるだろう。LLCをパススルーとして支店扱いすると、実質的には外国子会社はTargetの資産を取得したことになる。TargetのLLCへの転換は、外国子会社が組成する新LLCにTargetを州法上合併させることで容易に達成可能だし、いちいち個々の「ハードアセット」の持ち主を変更しなくてもいいのでこの方法の方が手続き的に飛躍的に容易となる。LLCとかCheck-the-Box規定はナンと便利なことか・・・。
*Sec.367
上の取引を見て、即座になぜSec.367の制限に抵触しないのか、と疑問に思われた方がいたら、米国税法上級テストに合格だ。Sec.367は複雑な法人・株主に係る取引を規定したSub Cの中にありながら、クロスボーダー取引に適用される条項であることから、個人的にはITS(国際税務)とM&A関連規定の「ブリッジ」役を果たしている条項という位置づけをしている。ここのカラクリは次のポスティングで。