*Hopscotch
米国での外国税額控除プラニングとして「Hopscotch」というものがある。Hopscotchはコンクリートの路上とか学校の校庭にチョークで四角の絵を描いてそこに番号を書き込む。そこに石を投げ、石が入っている四角を飛び越えて番号順に跳んでいく遊びだ。日本でも昔、アスファルトの道路に絵をチョークで書いてケンケンして遊んだりしたが、あの石蹴り遊びのアメリカバージョンと思えばいい。
僕的にはHopscotchと言われるとやはりどうしても「Missing Persons」という80年代のハードロックバンドがやってた「Mental Hopscotch」という曲を思い出してしまう。結構流行ったバンドなので知っている人も多いと思うが、「Nobody Walks in L.A.」「Tears」「Window」とかの名曲を送り出し、同時にバンドの技量というかテクニカル面もしっかりしていた。基本的には新らしめの(当時は)音を持った感じの西海岸ポップ・ハードロックなんだけど、Windowって曲なんかは(大変古くて申し訳ないけど)六本木のナバーナとかでも掛かるダンサブルな曲でもあった。
そんなMissing Personsが最初に出した12インチシングル(今ではこんな言葉分かる人居ない?)は4曲構成で、ヒット曲のWordを筆頭に、Boys、Destination Unknown、そして「B面」の2曲目を締めていたのがこのMental Hopscotchだった。途中のフィードバック・ビブラートきんきんのギター(彼は後にAndy Talyerの後任としてDuran Duranのギタリストになる)やリフをきざむキーボードも良かったけど、やはり決まっていたのはTerry Bozzioのツインバス使いまくりのドラムだろう。当時、実は僕は大介さんっていうドラムがとてもうまいお兄さんとバンドをやっていて彼がツインバスを売り物にしていて(Cozy Powellの影響が大きかったと記憶してます)、たまたまボーカルがFemaleで、キーボーディスが参加したばかり、かつMissing Personsのギターが僕のスタイルにピッタリ、という出来すぎた状況でMental Scotchのフルコピーを新宿ロフトで演奏したのが昨日のことのようだ。
実はこのMissing Personsを90年代の中盤にL.A.近辺のライブハウスで「復活版」っぽい感じで見るチャンスがあった。その時のOpeningがMental Hopscotchだったので感動した。Terry Bozzioの元奥さんだったDale Bozzioはそのままボーカルやってたが(まあ彼女ナシではMissing Personsと名乗ることはできないだろうけど)、ドラマーは別人だった。しかもこの差し替えドラマーさん、シングルバスドラなのにツインバスと同じスピードでバスドラを蹴ってたのは感心だった。ちなみのこのチョッと裏びれた感じのライブハウスでMissing Personsの前座を務めたのはワンヒット・ワンダー「Flock of Seagull」だった。アンコール前の最後の曲はもちろん「I Ran (So Far Away)」。エコーの聞いたギターが印象的で、昔、家庭教師のバイトをしていた時に生徒さんのお家に行く途中の車で散々聞いた名曲だ。という訳でBuy One Get One Freeみたいないいコンサートだった。
で、そのHopscotchがアメリカ多国籍企業のタックス・プラニングにどう関係してくるのか、というところだが、ここからはMissing Personsの演奏同様に若干テクニカルになる。
日本のタックスヘイブン税制に類似する米国のSubpart F規定の基本的な趣旨は、米国企業が外国子会社で得る所得は本来は米国に配当されるまでは米国で課税されない、っていう大原則が悪用されるのを取り締まるため、一定の所得は米国に配当されようとされまいと外国子会社が所得として認識した時点で米国で課税するというものだ。例えば香港子会社が認識する投資所得などは、別に無理して低税率の香港で認識させなくてもいいのではという理由で配当の有無に係らず米国で課税される(細かい例外規定等はある)。
一方で米国企業は外国で得た所得はそのまま外国に留保しておき、かつSubpart Fにも抵触しないようにして米国では課税されないように知恵を絞る。または米国に配当として資金を還流させる場合には少なくとも米国の税金がなくなるように(うまくいけばCross-Creditで他の米国勢金も圧縮してしまうように)High Tax Poolから配当を受けるように腐心する点は前回までのポスティングでしつこく触れた通りだ。
*Sec.956
しかし、もし米国で資金が必要であるにも係らず、Low Tax Poolにしか配当原資がなければどうするか? そんなケースには配当ではなく外国子会社が米国親会社に貸付をするばいいのではないか、と考えるのが普通の流れだろう。実際、米国企業もそう考えた。配当ではないので課税されないばかりか、米国が支払利息を計上して、低税率国でそれを受け取ることができるのであれば、これは典型的なEarnings Strippingとなって一石二鳥だ。
ところが実際にはそんな調子よくは行かない。Subpart Fの一部に「門番」的に規定されているSec.956により、海外子会社にE&Pがある場合に、それを投資、貸付、保証という形で米国に持ち帰ると全て「みなし配当」となる。技術的に言うとこれらの資金移動は「Investment in the U.S. property」と位置づけられ、配当同様に課税される。実際には各四半期のInvestment in the U.S. propertyを算定したりと結構面倒な規定だが「配当課税回避行為に対する措置」としての趣旨は誰にでも理解できる。
米国企業が直接保有しているTier 1の外国子会社からSec.956の借入等がある場合の処理は直接配当されたのと同様なので分かり易い。一方で、Tier 2の孫会社からSec.956に抵触する借入があったとすると通常はそのような流れの配当はあり得ないので更なるルールが必要となる。具体的には、このような局面ではあたかも孫会社が「直接」米国親会社に配当したかのように税務処理をするように規定されている。すなわち、Tier 1である直接子会社を飛び越えて(=Hopscotchして)米国に配当されたかのように取り扱われる。実際に配当されている訳でないので当然と言えば当然な取り扱いだろう。
しかし、何事も自分達の有利な取り扱いに摩り替えてしまうのが米国多国籍企業、というか企業にアドバイスしている弁護士、会計事務所の国際税務部門だ。そんな彼らがSec.956のHopscotch規定があれば、実際に配当するよりもHigh Tax Poolで間接税額控除を計上できるという可能性に着眼しないはずがない。
*Sec. 956とHopscotch規定を敢えて利用
つまり、Tier 1の外国子会社のTax PoolがTier 2のTax Poolよりも低い場合、Tier 2の孫会社が実際に米国親会社に配当を行なうと、どうしてもTier 1子会社を通ってしまうことで、より低い(=より不利な)税務ポジションとなってしまう。一方、これを本当の配当ではなく、Tier 2孫会社が直接米国親会社に貸付その他のSec.956取引を行なうと、Tier 1を経由したことにならないため、High Tax Poolのまま外国税額控除を算定することができるというものだ。Tier 1としてケイマンとかバミューダとかの持株会社が入っているようなケースではこの差は特に大きい。
そんなプラニングに網を掛ける目的でClosing Tax Loopholes Actでは次のような規定が盛り込まれている。すなわち、Sec. 956に基づくみなし配当であっても、実際にUpper Tierの子会社等を経由して米国に配当されたかのように外国税額控除を計算する。一方で従来通り、Tier 2から直接配当とみなされたらどのような外国税額控除となったかも計算させられ、どちらか「低い」方の外国税額控除を取ることとされている。なお、あたかもUpper Tier経由で配当されたとしたら、という仮定のシナリオ上、源泉税等の存在は無視するとしている。
このHopscotchストーリー、規定する方、それを有利に解釈する方、それをまた取り締まる方、全ての登場人物の方々の努力に敬意を払わらずを得ないとしかいいようがない。