先週18日、NYからLAに移動する飛行機の中でインターネットのニュースを見ていたら自家用小型飛行機がテキサス州オースティンのIRSビルに突っ込んだというニュースが飛び込んできた。事故現場は連邦政府の省庁が隣接している地域のようで、IRSビルの隣りはFBIのビルだと報道されていた。
もしかして自爆テロでFBIのビルに突っ込もうとして間違えてIRSに突っ込んでしまったのかな、とも思ったが、小型機は結構あぶないし、以前もマンハッタンのアパートに突っ込んだりしていたのでまた事故なのかな、とも思っていた。
*IRSを目掛けて自爆
ところがその後直ぐに報道は変わった方向に行く。ナンと小型機を操縦していたジョセフ・スタックは小型機を激突させる前に自宅に放火までしていたばかりでなく、インターネットにIRSへの不満を綴った文書をポストしていたことが判明したのだ。ということはIRSに激突したのは意図的だったということになる。
政府の対応に不満を持つ者が政府に対して暴力で対抗するという図式で、日本で1年チョット前に起こった元厚生労働省事務次官の殺傷事件を思い出した。それにしても、たかが(?)税金問題がなぜ自爆テロにまでエスカレートしてしまったのだろうか?税金に携わる者として、どのような税法が基でこのようなことになってしまったのか若干突っ込んで調べてみた。
*インターネット文書の内容
ジョセフ・スタックが残した文書はオリジナルサイトからは既に削除されていた。「事の性格がデリケートなので削除しました・・・」みたいな注意書きに代わっていた。しかし、その割りには「原文が見たければこちらのサイトにあります」というリンクがあり結果としては簡単にアクセスすることができた。
そのサイトは物議を醸し出す文書の原文をいつもアップしている「スモーキング・ガン」というサイトで、先日もマイケル・ジャクソンの検死結果の報告書を原文コピーでアップしていた。
7ページにギッシリと書き込まれた文書は読み応えがあった。と言うよりもストーリーが余りにあちこちに飛び過ぎてて読みづらかった。
文書はまず米国の自由と正義は妄想に過ぎないといった感じで始まり、政治家、GM役員、その他一部のエリートをボロクソに扱き下ろしている。GMは政府による救済対象となったことから取り上げられているようだ。
法システムに正義など存在せず、税法は複雑極まりなく、結果として誰も理解できない域に達している一方で、その税法に準拠できない者には容赦ないとしている。税法が誰も理解できない域に達しているという部分は確かに一理ある。申告書には「この申告は正真正銘正しいものです」という嘘をつけば偽証罪に問われる署名をする義務があるが、税法が難しすぎて誰も理解できないのに、誰が本当にそんな署名ができるのか、署名をしなければ申告書が出せないのでこれは一種の脅迫だ、と言った感じのある意味理解できないこともない文句が続いている。ここまでは余りに漠然としていてなぜ小型機を激突させる程のことだったのかはその後に続いている。この先は文に脈絡が欠け読みづらかった。
*非課税主体
事の発端は80年代前半に税法を研究するグループに参加した時期に遡る。ずいぶんとオタクな感じのグループだがアメリカには連邦税は憲法違反であるというような意見を持つ「反タックスグループ」がかなりある。確かに連邦所得税は憲法ができた当時は存在せず、憲法修正第16条が1913年に批准されるまでは連邦政府による所得課税はかなりの制限下にあった。税法を読むと今でもたまに「1913年以降の・・・」というような文言に出会うのはこのためだ。ケネディー政権が1962年にSubpart F規定(日本のタックスヘイブン税制に似ている)を導入したために、国際税務に係る条項に「1962年以降の・・・」という文言が出てくるようなものだ。
ジョゼフ・スタックが参加した税法研究グループはチョッと変わっている。単に連邦所得税を否定するのではなく、非課税主体の取り扱いにフォーカスしていた。その証拠に一切税金を払わないというような行動には出ていないようだ。あくまでも税法に基づく取り扱いを追求していたらしい。
非課税主体だが、教会、慈善財団その他の適格非営利団体は投資所得等の一部の所得を除き所得税・法人税から免除されている。ジョセフ・スタックは腐敗・堕落したカトリック教会のようなところが信じられない富を蓄積できるのは非課税主体として取り扱われるからだ、として上術の政治家、GM役員と並んで宗教法人にも敵意を隠していない。全然関係ないが、僕が大学の頃、田園調布の豪邸で高校生に英語を教える家庭教師のバイトをしていたことがある。そこのおうちはお寺だったのを思い出したりした。凄いお金持ちだな~と思ったものだ。家庭教師が終わると田園調布の丘を下り、多摩堤をドライブして遠回りして自宅に帰ったのが昨日のことのようだ。
どうもジョゼフ・スタックが参加していたグループはタックス弁護士の力を借りて(その世界ではトップの弁護士がついていたとのこと・・・)非課税主体の定義を徹底的に研究して、自分達も非課税になるというようなことをしていたようだ。目的は非課税主体に付与されている恩典の不合理性を暴くという正義感溢れるものであったようだが、ジョゼフ・スタックは直ぐに法律は「金持ち権力者」と「そうでない者」に対して別の解釈がされるものであることを知ったとされる。結果として40,000ドルおよび10年間の歳月を無駄にし、退職のための貯蓄もパーになってしまったそうだ。この時期に米国には自由も正義も何もないという感触を強めていったのが分かる。一般市民は目をつぶって生きている、と。まるでビートルズの「Think for Yourself」(ハリスン作)の歌詞のように、と僕は個人的に連想してしまった。(続く)