Friday, March 13, 2026

トランプ関税の最高裁判決 (2)

最高裁判決から早くも2週間を経過して、米国は寝てる間に1時間なくなってDay-Light Saving Time(DST)に突入。DST…。首尾よくNYCの気温も先週まで氷点下で雪とかちらついてたのが嘘のように急に夏めいてきた(実はその後また冬みたいに戻ってしまいました。三寒四温?)。マイアミは…関係なく相変わらず夏。

地政学的にはこの間にイラン攻撃とかもあって、今後の通商、サプライチェーン、果ては企業の生存は関税だけにフォーカスするべき問題じゃないっていう部分のポスティングをドラフトしてたところなんでそんな感覚が更にRealになってしまった。

IEEPAに基づいて関税を徴収された輸入者に認められる救済策に関しては段々方向性が明らかになりつつあって、前回のポスティングでチラッと触れた通り、V.O.S. Selectionケースが差し戻され、独占的な法的管轄権を持つとされた「the United States Court of International Trade (CIT)」による最近の判決で今後の還付は個別審理に代わって「U.S. Customs and Boarder Protection (CBP)」経由で請求っていう流れ。これは1990年台後半にHarbor Maintenance Feeが不法とされた際、同様の大混乱を収拾するためにCITがCBPに命じた措置に準じてるんで大概において予想通り。今日はそれらの展開も含めてもう一度だけ最高裁判決に関して。

ちなみにIEEPAに基づく関税は最高裁が「違憲」判断したみたいな報道を見ることがあるけど、前回のポスティングで触れた通り、IEEPAに基づく大統領による関税は条文解釈として不法というのがMajority Opinionで、Major Questions原則を含む憲法議論はDictaに留まっている。「どっちにしても結果は同じだからどうでもいいじゃん」って思うかもしれないけど、今回の最高裁判決にかかわる法解釈っていう視点では、Liberal派の判事3人をMajority Opinionに取り込むため、Opinionを敢えてArtisticかつ意識的に分解し、直接的に「違憲」っていう理由としなかった点、すなわちこれがHoldingではない点、が今回の判決の重要なポイントのひとつだから単なる言い回しの差異では終わらないと思うんだけどね。

Dissenting Opinions

今回の判決は6対3で、Dissenting OpinionsはThomas、Alito、Kavanaughの3人。前々回のポスティングで口頭弁論の様子からThomasとAlitoは連邦政府指示に回るだろうって書いたんでこれはその通りだったけど、3人目がKavanaughになる点は判決を読むまで全く不明だった。憲法厳格主義6人のうちRobertsとBarettはおそらく原告指示かな~って思ってたんで残りのKavanaughとGorsuchの動向を(どちらが勝訴するかではなくMajority Opinionの構成や法解釈の面から)注目してた。正直なところ、過去の判例からどちらかって言うとGorsuchが連邦政府指示に回るかもな~って感じてたところはあったんで逆にGorsuchがMajority、KavanaughがDissentっていうのは驚きではないにしても「そうなんだね」って感じ。

で、Dissenting OpinionはKavanaughが代表で執筆しThomasとAlitoが賛同しているもの、そしてそれとは別にThomasが個人的に例によって辛口に別途執筆しているもの、の2つがある。Kavanaughは連邦のSolicitor Generalが口頭弁論で主張してたようにIEEPAが大統領に付与している権限のひとつ「Regulate… importation」には用語的に当然関税を課す権利がNaturallyに含まれると解釈するべきってうもの。その根拠にMajority Opinionでは重要な判例ではないと片づけられていたニクソン大統領時代のTrading with the Enemy Actのケースに言及している。1976年の別の判例、Federal Energy Administration v. Algonquin SNG, Inc. でも大統領にはImportに対する広範な権限が認められているとしている。さらにIEEPAは大統領に通商停止権を付与している点はIEEPAの条文そのものから明らか。つまりMajority Opinionを信じるならば、例えば中国からの輸入は全面的に禁止っていう大統領令は問題ない一方、中国からの輸入に$1でも関税を課すのは認められないっていう不合理な解釈になるっていうもの。う~ん、確かに意味をなさない気はするけど。

Thomasの個別Dissentingも同様のラインだけど、もっと端的で、憲法のNon-delegationは国際通商には単純に適用はなく、Majority OpinionのIEEPA解釈は歴史的に(Thomasの歴史はいつも建国時に遡る長期をカバーする傾向がある。これは彼が憲法が批准された時点の意図を最重要視するから)何のサポートもないってバッサリ。Mooreの時もSubpart FをConstructive Receiptとか整理してたMajority Opinionに対してConstructive Receiptに課税するような概念は憲法上認められないってこっちもバッサリだったもんね。

同じ条文を読んでも法解釈の巨匠9人でここまで解釈が異なるっていうことから僕たちが毎日格闘しているInternal Revenue Codeの条文の意味、例えば351の「Immediately afterの意味」とかああだこうだって言ってても結局ユニバーサルな解釈を求めている訳ではなく、判例・Rulingその他の法源を総合的に考えてMajority的にどんな風に解釈されてきたかっていうことだよね。

チョッと(大分?)話しそれるけど前回のポスティングでTrading with the Enemyに触れた際にRunning with the Devilのギターソロの話しをしたけど、あのソロはRunning with the DevilじゃなくてYou’re No Goodのソロでした。Running with the DevilはVHデビューアルバム一曲目でYou’re No Goodは2 枚目のアルバムの一曲目で、同じ一曲目なんで混乱してしまいました。どうでもいいって?そうだね。

関税はこれからどうなる?

正確な数字は分からないけど関税の歳入に占めるIEEPAの比率は少なくない。仮に2025年4月以降の関税歳入総額を$260BとしてIEEPA関税を$170Bとすると65%を占めることになる。最高裁判決後、トランプ政権は即時IEEPAに基づく関税は取りやめる一方、他の法源で置き換えるっていう方向を明確にしている。IEEPA以外の法源はthe Trade Act of 1974のsection 301, 201, 122、the Trade Expansion Act of 1962のsection 232, またthe Trade Act of 1930のsection 338っていう結構お馴染みなもの。各々ScopeはNational securityだったりUnfair trade practicesだったり、また期間もまちまちだけど、これらはIEEPAと異なり一定のParameter内で関税を課す権利を大統領に明確に付与してるから、各条文のParameterを逸脱しなければ不法ではない。最高裁判決はIEEPAの解釈だから他の法源には関係ない。もちろん別の理論で訴えを起こす者が現れる可能性は常に残るけどIEEPAとの比較で大統領の権利は強固。

トランプはsection 122で認められる最高関税15%をこちらも議会の追加承認なく認められる150日間課すとしてる。Section 232や301もお馴染みだけど、USTRや商務省による調査結果に基づかないといけない。調査には最低数か月掛かるみたいな報道もあるけど、調査は最高裁判決後に慌てて始めるんじゃなくて、もともと政権発足時の2025年1月20日大統領令America First Trade Policyで調査を命じてたから内部では既に何らかの結果が出てたとしてもおかしくない。って言っていたらさっき調査結果に基づく個別審査開始みたいなニュースが報道されてたんで近々にもう少し様子が分かるだろう。若い読者にはピンとこないかもしれないけど、Section 301は日本もその昔、半導体とかで対処に苦労したよね。

これからの通商は?

でも、仮に関税がいろんな理由で温和っていうかソフトになったとしてもサプライチェーンやグローバル経済が元に戻るかっていうと戻らないよね。関税を理由にグローバル経済が反転してるんじゃなくて、「Rule-Base」のグローバル経済って聞こえはいいけど一部の国に恩典が集中し、また主権国家を超えたグローバリストに富や権力が集中してしまった一方、米国を含む多くの国の製造業を壊滅させて一般庶民の多くは完全に取り残されてしまった。これらからグローバリズムは失敗だったっていう結論は先日のダボスに続き、ミュンヘン安全保障会議で米国が再三EUに明言してた(一年前のミュンヘンはJD バンスが強力だったけど、今年のRubioはソフトタッチ。だけどメッセージとしては同じ)。

また時代の流れとして米国Unipolar体制からMultipolarへの移管期っていう大枠も変わらない。米国の現政権はUnipolar体制に取って代わる新グローバルオーダーとして米国(西半球)、中国、ロシア、インド(そして米国の地政学専門家の中に「日本」も5つ目に数える人もいる)によるMultipolar体制を是認し自ら導入しようと試みてるんで、その一つの対処が関税だとしても、関税そのもの有無で時代の流れそのものは変わらない。各国、各企業、各個人はそんな流れの中で今後を考えていかないといけない。

イランの件にしても僕みたいな一般庶民はTruman Showの中で生活してるんで(新年のポスティング覚えてる?)表面的には不思議極まりない展開にしか見えない。しかもミュンヘンでグローバリズムの終焉を宣言し、Multipolar体制に移管表明した数日後の出来事。2つのイベントで見せた米国の姿勢に整合性すら見いだせず、狐につままれたみたいだ。ただ、千年単位で確執が続く中東の歴史やそこに入り込んでる西洋の利権とか理解していないんで僕には分かる訳ない。「Expert」のコメントも文字通り十人十色(千人千色?)。

新年特集のポスティングで触れたけど、トランプを支持した米国一般庶民は、国境問題、カルチャー問題、米国建国時のスピリットに基づく国家主権の復興(Super-Nation的なグローバル統治ではなく)等に加えて「戦争を起こさない」「他国の政権を転覆させたりNation Buildingに関与しない」っていう公約に魅かれたケースも多い。特に中東の紛争はイラクの苦い経験から拒絶反応が強い。この背景から数か月後の中間選挙(両院)、そして2028年の大統領選挙を考えるとイラン攻撃は一見、政権に何のメリットもないどころか転回次第では命取りになるリスク大。過去3回トランプがネオコンやグローバルプレッシャーに耐えてイラン攻撃をとどまった経緯(3回目はミサイル打ち込みとイランの見た目の反撃のシアター的な展開でごまかした?)から今回も米国軍がイランを取り囲んだ時点でも最後の一線は守るだろうって多くの者が信じてた。にも拘わらず大規模な攻撃に出てしまい驚愕。予想通りMAGA内の意見は割れている。

ただ、こんな初歩的な政治リスクは僕でも容易に分かるんで政権当人たちはもちろん計算済みだろう。ホルムズ海峡封鎖や油価高騰リスクも通商やエネルギー市場にどんなに疎くても容易に想像がつくから、Chris WrightやDoug Burgumを始めCIAとかこの手の話しのプロが想定していないはずはない。世界における米国やドルの信用、ペトロダラーの在り方その他にも悪影響こそあり得てもアップサイドはあんまりないように感じるし、今後のグローバルオーダーの在り方と米国が考えるMultipolar体制への移管に際しては、中国やロシアと共存姿勢を表明していたんで、ここにきてイラン攻撃で中国やロシアを刺激して(裏で何か密約でもない限り)Multipolar体制の共存達成にもマイナスに映る。油価高騰でロシアには好都合だとしても米国への不信感は高まるはずで2度とプーチンも2度とアラスカに来ないかもしれない。これら諸々、ベーシックかつ表面的な観測は僕でもわかるから政権や諜報機関では当然分かってるとすると、こうなるって知ってて、またはこうするために敢行したって考える方が自然かもね。または遂にネオコンやイスラエルとかのプレッシャーに負けたんだろうか。そんな単純な話しじゃなさそうだよね。現政権の地政学的オブジェクティブの大枠として、中国、ロシア、インド(+日本?)と共に自国の利益に基づく国家主権ベースのMultipolar体制の実現を考えると、その実現に抵抗を示す勢力に打撃を与えるっていう計算があるんだろうか程度の憶測しか成り立たない。イラン攻撃がそんな目的をどのように果たす要素を持つのか僕なんかでは全く分かんないけど。

米国とイランの関係は、1979年の革命、イラン・コントラ事件(あのエプスタインが暗躍)、大使館人質救出失敗、とかドラマがあり過ぎてTruman Showで生きてる僕のような庶民は真実を知る術もない。知らぬが仏みたいな世界の可能性も大だし。米国には1979年の革命当時イランから米国に脱出してきた人たちが多くいるけど、そんな一家の友人がロサンゼルスにいるんでチョッと話してみた。彼女たちの視点では「もしかしたらこれで50年近くぶりに孫の顔を家族に見せに帰国できるようになるかもしれない。生きてる間にこんなことが起こるとは信じられない」っていう視点では前向きだったけど、米国で結構な人が攻撃に反対している点に関して、1979年以降のイラン政権の人権無視ぶりを考えて欲しいってがっかりというか混乱していた。

1979年の革命…。あれ自体チョッと不思議な感じだよね。まだ何も知らなかった幼い頃(若い頃っていう方が適切かな?今更サバ読んでもしょうがないしね))1979年にホメイニ師がイランに帰ってきてジェットのタラップを降りるところや、イラン市民が大きな写真を掲げて集まってる写真が一面に掲載された新聞を朝食のシリアル食べながらチラッと見ただけだけど、宗教の精神的指導者っていうイメージにピッタリのルックスだったんでVisual的に強い印象を受けたのを記憶している。その時はもちろんそれ以上何も考えなかったけど、欧米と親しい王政を覆して戻ってくる際、他のイスラム教の国じゃなくてフランスからジェットで帰ってきたんだね。誰が誰の見方なのか中東と欧州の関係に知見がない僕には全く不明だけど相当Deep。

って関税から大きく脱線してるけど、関税どころではない大変動がOvernightで起こり得る世の中に生きてるって点を忘れず、国家、企業、個人で自助努力的に可能な範囲で備えておくのがMustっていう点を再認識する出来事。特にエネルギーや資源はデータセンターやAIとかを無視しても、全ての経済活動に不可欠だから、ホルムズ海峡封鎖のような事態や他の事態も想定してリスク管理が必要。

リスク管理って言うのは容易だけど、人間のサガ的に近年体験したことのないリスクは頭では分かってても対処には手が付き難い。いわゆる平和ボケに似てるけど、例えば石油やLNGが途絶えたりとんでもない価格に高騰したらっていうリスクは体感してないからね。そうなったらカーボン云々とか言って火力発電所等を自らのチョイスで閉鎖したりしてた時代が懐かしくなるだろう。備蓄なんかは付焼刃だろうから根本的な解決にはならない。化石燃料が今日の経済活動や基本的な生活にどれだけ重要かっていうのはトランプ一次政権下でも強調されてたけど二次政権では国内生産、原子力再考、等で以前の中東依存から脱却している。また贅沢な生活やシステムに慣れてるとそれが当たり前になって、それらがなくなるリスクっていうのも想像できなくなる。アマゾンのDeliveryが一日遅れたとか、レストランで給仕が遅く「20分も待たされた…」とかで激怒してた時代も懐かしくなるだろう。エネルギーが途絶えれば食料も途絶え、配給制になるかもしれないし、そのうち配給も途絶えるかもしれない。社会不安に基づく治安の悪化、コロナでそうだったようにリスクを逆手にとって徹底的に個人の自由を奪う州政府も出てくるだろうし、すでに無責任なFiat Money過剰プリンティングで破綻しているグローバル経済に更なる打撃、等々。オンラインで何もかも瞬時に実行できる生活、あらゆる商品が2~3日のスパンで自宅に届けられるシステム、移動したくなったらFSDで勝手に車が運転してくれたり、Appで瞬時に配車されたり、米国のハイテク産業は凄いなってBezo、Musk、Jobsとかに感謝して生きてたんだけど、心の片隅で「なんか変だな」っていうかこんなことが未来永劫持続するんだろうかっていう疑問があったり、この便利さと引き換えに自分のSoulを売ってしまったんだろうか、とかね。そんなことが起こったとしたら暗黒の時代の先にルネッサンスは来るのでしょうか。

判事の役割

最高裁判決の話しに戻るけど、メディアはトランプが任命した判事の2人、GorsuchとBarrettが原告指示に回り「トランプは裏切られた」的な報道をすることがある。これはもちろん的外れというかタブロイド的な見解で、判事は誰に任命されたかにかかわらず憲法解釈のみに忠実でなくてはいけない。

判決後のトランプの発言もよくない。SCOTUSの役割が誤解される傾向に拍車がかけるだけで全くプラスにならない。SCOTUSの判事、GorsuchやBarrettはトランプやメディアが何て言われても、連邦憲法の三権分立における司法府の機能を理解してないなって感じることはあっても気にすることはないだろう。増してや他のケースの審理結果に影響があることもない。

メディアやトランプばかりでない。双方の政党に共通だけど、ポリティシャンも自分たちの気に入らない判決が出ると最高裁は正当な存在ではないとか直ぐに口に出したりする。それも重鎮議院たちが。上院議員Check Schumerとかは上院Majority リーダーだった頃、最高裁に「Pay the price」とか「Won’t know what will hit you」とか暴力を是認するような激しい言動(後に撤回)。若気の至りで若手議員が騒ぐのと異なり、重鎮のおじいちゃん議員だったら品格のある反応で二極化している市民にお手本を示して欲しいところだったけどね。実際にその後、SCOTUS判事に対する殺人未遂的な事件が起きたりしてる。

トランプに冷静な反応を期待する者はいないだろうけど、それにしても例によって衝動的な反応。いつも通り演技じゃなくて本気で言ってるんだろう。「Very disappointing」くらいはそうだとしても、最高裁判事が不忠実とか愛国心に欠けるとか言い出したりしてもう無茶苦茶。特に自分が任命した3人の判事のうち原告を支持したGorsuchとBarrettには飼い犬に手を嚙まれたような勢い。政権の閣僚と異なり最高裁判事はポリティシャンではなく、誰に任命されようと憲法や法のみに忠誠を誓っているっていう根本的な位置づけをもう少し考えて発言しないとSCOTUSの正当性に傷がつく。米国の国家統治を設計した建国の父たちが大きな政府から個人の自由を守るために過去の過ちを見て作り上げた憲法、それに基づく米国の法システムをもっと大事にしないとね。ポリティシャンは国民にそれを理解してもらう役割を果たして欲しいところなんだけど。

日本人にも無関係ではない米国憲法と判事の職務

トランプやメディア言うところの裏切者の一人Barrett(Amy Coney Barrett)がその昔、多分、控訴審の判事になって間もない頃だったと思うけど、Hillsdale大学で「判事の責任」みたいなテーマで行った講演を聴いたことがあるけど素晴らしかった。その後、トランプが彼女を最高裁判事に任命した際はその人選に感動したのを覚えてる。ちなみにこのHillsdale大学、連邦からも州からも助成金めいたお金は一切受け取らず学問や言論の自由を貫いている。ハーバード大学なんかは対称的に(トランプ政権による部分的De-Fundで今は減額したかもしれないけど)年間$700M近くの連邦政府助成金(僕たちの税金が原資)を受け取っている。ハーバード大学がトランプ政権に学問や言論に口出しするなって揉めてたけど、Hillsdale大学は「口を出して欲しくなければお金をもらわなければいい」とアドバスしていた。

Barrettの講演趣旨は判事たるもの世論やポリティシャンのプレッシャー、また自分の好む結果も全て遮断した上で法を適用しないといけないっていうもの。判事なんだから当たり前じゃんって思うかもしれないけど、判事も人間だからね。Learning Resources, Inc.で法的管轄権なしって言われてしまったDC下級裁の判事なんかは法的な分析だけでなくOpinionに私情が滲みでるような記載があったりすることがある。

で、BarrettのHillsdaleでの講演では2つの実例を紹介していた。一つ目は独立戦争時の1770年の ボストン虐殺事件(虐殺・Massacreっていう描写は米国側のもので英国ではKing Street事件として知られている)。当時、英国王室の任命でマサチューセッツ(当時はまだ直轄植民地)にセキュリティ目的で英国軍が駐屯していた。この英国軍、独立を望む市民とは何かとコンフリクトがあったのは想像に難くないけど、チョッとした事件から市民が暴徒化し英国兵が発砲して(本当の人数かどうか知る術のないけど)300~400人の死傷者が出たっていう事件。米国世論やポリティシャンはカンカンで捕らえられた英国兵に公平な裁判の機会が提供されるとは思えず、弁護する者も現れない始末。そんな中、建国の父一人で後にGeorge Washingtonに続く第2代大統領になったJohn Adamsが「世論や政治にかかわらず正当な司法判断の場を提供しないといけない」という信念に基づき自ら弁護人を引き受けている。単に引き受けただけでなく被告の英国兵を全力で法的に弁護して、兵士は死刑を免れたりしている。John Adamsは建国父の一人だからもちろん人一倍米国に愛国心を持つ者。そんな個人の信条とは別に法律にのみ忠実に力の限り被告のために全力を掛けた弁護士の鏡だ。

John Adamsは当時、弁護士としての立場だったけど、判事、それもSCOTUSの判事ともなればこのレベルの不屈の精神・勇気は全ての訴訟で求められるもの。もう一つの例は実際にSCOTUSの判事の話し。BarrettはSCOTUS判事のお手本としてFranklin D. Roosevelt(FDR)に任命されたRobert Jacksonの話しをしていた。このRobert Jackson、法律家ならどれか1つでも任命されることを夢見るであろう3つのPrestigiousな職務、Solicitor General、Attorney General、そしてSCOTUSの判事、の「全て」をFDRから任命され担当している。凄いね。ギタリストだったらCream、Experience、Van Halen全部でギター弾いたみたいな状態?またRobert JacksonとFDRは共にニューヨーク出身ということもあり職務以外でも親交が厚かったと言われている。すなわちRobert JacksonのキャリアはFDRに負うところが少なくないってことだね。

そんなRobert JacksonがSCOTUS判事だった頃、今でもLaw Schoolの憲法クラスで議論される代表的な憲法ケース「Korematsu v. United States 323 U.S. 214 (1944)」がSCOTUSで争われた。KorematsuはIEEPAの条文解釈とは異なり純粋に憲法解釈。第二次世界大戦当時、FDRはExecutive Order 9066を発令し、軍に西海岸の日系「米国市民」を社会から隔離し砂漠の真ん中に仮設したキャンプに収容する権限を与えた。後にSCOTUSの主判事となり当時カリフォルニア州知事だったEarl Warrenは当措置を支持。そんな中Fred Korematsuは自宅から軍に連行されるのを拒み、逮捕そして有罪となり収監されてしまった。Korematsuはそのような仕打ちは憲法のDue Process・Equal Protectionに反するって提訴したけど、第一審の北カリフォルニアの地方裁で負け、9th Circuit控訴審は下級審を支持、結局最高裁まで行った。実はKorematsuケースの1年ほど前には日系人に対する夜間外出禁止令もHirabayashi v. United Statesで合憲とされている。個人に国家反逆の意図が認定されていないにもかかわらず単に先祖が日本から来たっていうだけで収容所キャンプ送りっていうFDRの大統領令はもちろん本来憲法違反。戦時中でも、むしろ戦時中だからこそ、最高裁の冷静かつ勇気ある法判断が期待されたところだったんだけど、結局6対3(今回の関税ケースと同じ…)でKorematsuは敗訴。MajorityはStrict Scrutiny基準を適用の上、戦時中の必要不可欠な措置として認めている。そんな中、反対意見を書いた3人の1人がRobert Jackson。反対意見ではFDR大統領令を「醜い人種差別の深みにはまる罠」としRobert Jacksonはこんな判例を出してしまったら憲法が保障している個人の自由を大きく侵害する悪例になる、と警鐘を鳴らしていた。

Barrettが講演でKorematsuの最高裁判決は「米国の歴史、法適用の汚点」と言ってたけど、そんな中、FDRへの個人的な恩義や世論やメディアプレッシャーに惑わされず法をあるべき姿で適用したRobert Jacksonのような存在は米国法体系の希望であるとしている。

今日でも米国憲法解釈の最悪の判例に位置付けられることが多いKorematsuケースだけど、その後、現在の主判事Robertsがトランプ大統領(第一期)の渡航禁止を認めるOpinionの中でKorematsuはその判決が出た時点ですでに重大な誤りであり、米国憲法解釈に(Stare DecisisやDicta的にも?)一切影響を持たないと明言している。このRobertsのOpinionはそのケースに対する直接のHoldingではないけど、Korematsu判例は実質これにてOverturn(覚えてる?この用語の意味)され未来永劫封印されたと解されている。またそれに先立つ80年台にはKorematsuケースで連邦政府が都合の悪い証拠を隠蔽していたっていう点も指摘されている。以前から触れてる通り、立派な憲法があっても守らなくてもよくなったら終わりだからね。

ちなみに当時カリフォルニア知事だったEarl Warrenはその後、SCOTUSの主判事になってBrown v. Board of Educationで学校の人種ベースのSegregationを違憲としているが、それだったら日系人の収容にも反対して欲しかったね。

で、Barretは最高裁判事に任命された後も、その講演で明かしていた信念に基づき憲法や法のみに忠実なOpinionを出し続け、そして今回のLearning Resources, Inc.でも全く同じ信念でConcurring Opinion(すなわち原告指示)を書いている。ケースによっては法に基づきトランプ政権に好都合な判決に回ることもあれば今回のように逆の結果になることもある。そのためにBarrettはメディアに浮動票的に言われることもあるけど、法に忠実になろうとする結果のOpinionであり、それをもって裏切者やヒロイン扱いされるのは筋違い。本人はHillsdale大学の講演でも世論やメディアプレッシャーは大型訴訟になればなるほど強いから勇気をもって臨むって言ってたんでそんな精神を粛々と守って対応してるんだろう。メディアやポリティシャンの言動で一般市民がSCOTUSや判事の役割を誤解するようなことになって欲しくないし、今後任命される判事も法のみに忠実であって欲しい。

IEEPA関税を納付した輸入者への救済策

で、IEEPAに基づく関税が不法っていう点はLaw of Landとなり明確になったんで次の検討は救済策(Remedy)。RemedyはLaw Schoolだと独立した科目で、TortやContractは基本的に州法なんで、Remedyの考え方・計算法も州毎に異なるんだけど、(Equityではなく)Common Law制度に基づく訴訟のRemedyは金銭。すなわち不法行為がなかったら原告が置かれていたであろう状態に金銭をもって戻すのが原則。Tortだと事実関係次第でPunitiveが加算されることがある。

今回のSCOTUSの判決でLearning Resources, Inc.の2社に関してはそもそも下級審が無効却下なので、この点から当訴訟に特化した直接の恩典はないけど、他方のV.O.S. Selections, Inc.の5社は下級裁CITの第一審および一審を支持した控訴審の判決が確定している。となると、CITが元々どんなRemedyを言い渡してたかが関心事になるけど、SCOTUSのMajority Opinionが還付等に言及していないのと同様、CITも元々の一審ではIEEPAは関税を課す権限を付与していないというだけで、具体的な還付法には触れていない。Personal InjuryとかContractのようなケースの判決だったらRemedyも判決に盛り込まれると思うけど、おそらく関税は行政府的に独自の還付法が存在するんで最終的にはそっちで処理することなるはずっていうことだったんだろうか。

最高裁のOpinionでも仮にも救済策に触れてるのはDissenting OpinionのKavanaughだけで、それも具体的な還付メカニズムを論じるのでなく「Messy」ってBarrettが口頭弁論で口にしていた表現を使って原告指示は実務的に機能し難いというニュアンスのみに言及していた。

冒頭でチラッと触れた通り、まず最高裁判決を受けてIEEPAに基づく関税徴収はCBPが停止している。過去に既に納付されたIEEPA関税に関しては、SCOTUSが不法判決を出す事態に備えて多くの企業、一説によると1,500社強がCITに訴訟を起こしていたとか、IEEPA関税を納付した輸入者の数は300,000に上るとか言われてるけど、最高裁判決でIEEPA関税不法が明確になったのでSubstantiveな争点はこれ以上なくなり、CITは一旦これらのPendingケースは具体的な還付法が明確になるまでStayといって審理をストップ。したがってこれら各々のケースに対してCITがStare Decisisに基づき次々とSummary Judgmentを下す手続きは不要になった。

こんなケースで思い出されるのが1998年の最高裁判決で違憲とされたHarbor Maintenance Fee(HMF)。HMFの詳細は割愛するけど、関税同様にCBPが輸出に対して徴収していたFeeが違憲・不法となり還付が必要になった。当時デロイトのLos Angeles事務所にいたけど、LAとLong Beachに大きなPortがあるんでどうやって還付を受けるかっていう点が話題になってた(なんか変わんないね~)。結局、今回と同じCITの管轄ってことでCITがCBPに(還付の訴訟を起こしていない者にも)還付手続きを提供するよう命じてCITの監督下で還付を請求した者には数年かけて還付された。

今回もほぼ同様にCITは輸入者はCITに訴訟を起こす必要はなく、直接CBPにIEEPAに基づく還付請求をすることとしCBPにそれに応じるよう命じている。仮にCBPに還付を却下された場合のみCITに提訴するよう指示している。

還付受けたらどうする?

じゃあ、仮に多くの手続き的なハードルや待ち時間を経てめでたく還付を受けたらどうなるんだろうか。第三者のサプライヤーに「関税を輸入者側でモロに負担したら米国での商売は成り立たないから悪いけど輸入価格を下げて欲しい」とか交渉した経緯があると何となくギコチない話しになるよね。「還付されるんだったら価格下げた応分をうちにも返して」とか。契約法的に誰にどういう権限・義務があるかっていうのがスターティングポイントだけど、それと同様、または以上に取引先との関係にヒビが入らないように対応っていうのが重要だろう。

関連者間取引の場合は関税を支払った際のアレンジや移転価格ポリシーを基に、サプライチェーンのどの主体に還付を戻すかっていう検討が求められる。関税コストを低減させるため、また関税コスト負担が特定の主体のみを直撃しないよう、どんな風にクロスボーダー仕切値を調整するかっていう作戦を各国の移転価格税制下で練った納税者は少なくないけど今回はそのリバース。IEEPA関税が導入される前の状態に戻せばいいのかっていうと必ずしもそんなに簡単ではない。その調整や還付の分配行為自体、各主体の機能・リスクの説明と整合性が取れて各国の移転価格税制上問題ないように配慮しないといけない。IEEPAではNGとなった関税がSection とか122とかで短期的にでも別の形で関税が復活する可能性もあるんで、慌ててリバースしてもまた後日調整が求められるような面倒もあり得る。いずれにしても移転価格税制の根本は(ピラー1のAmount Aとか葬られたんで)今のところALPだから、関税が導入されたり停止されたり再導入されたりする際に「第三者間だったらどうする?」っていうベーシックから検討しないといけないけど、比較対象性のある取引は少ないだろうから結構頭痛いよね。

関税は米国に入ってくる製品コストの一部を占めるだけに、輸入後のサプライチェーンを通じて最後は消費者に亘る。それらの価格に対するインパクトは随所に隠れてるだろうし、米国には消費税やVATは存在しないけど、最終消費レベルで課税されるSales TaxやUse Tax(双方を合わせてSUTって呼びます。文脈次第でSUTはState Unemployment Taxを意味することもあるんで間違えないようにね。APAを当然「Advance Pricing Agreement」だと思って文献読み始めたら実は「American Payroll Association」のことで愕然とする、みたいな感じにならないように)を持っている州も少なくない。大企業が装置設備とか購入してSUT支払っててサプライヤーが関税の還付を受けたらSUTのベースになった取得価格に占める還付額割合とか定量化できるかもしれないけど、例えば僕がTrader Joe’sで買ったアボカドに対して支払ったSales Taxを還付してもらうなっていうのは非現実的だよね。輸入者自らが最終消費者の場合にはもともとSUT算定時に特別なルールが設けられてる州もある。

法人税法の目的でも、2025年で既にCOGS等の一部として費用計上してる場合、2026年に還付があると、2025年末時点では確定債務だっただろうから修正申告カテゴリーではなく、2026年に別途還付を所得認識(?)することになるはず。2025年の期末在庫にsection 263Aやsection 471で資産計上されている支出の一部を構成してることもあるだろうから、その場合の取り扱いとか結構面倒そう。Sub Cやクロスボーダー課税専門の僕たちの守備範囲外になるんでDCの税務Accounting Methodチームにチャージコード渡して指南してもらうのが安全だね。

M&Aはどうだろうか。メガDealが復活し活況を呈してるM&A市場ではSCOTUS判決結果を含むグローバルリオーダーによる先行不透明さは織り込まれて、っていうか不確実性は覚悟してプランされてる感じなんで判決が大きなインパクトを持つような気はしない。米国のReshoringやRedomicile(F再編、覚えてる?)トレンドにも特に悪影響はないだろう。消費財を取り扱うセグメントに関してはもしかしたら関税が緩和された分、企業価値を見直して欲しいみたいな希望を持つところがあるかもね。

また上場企業は将来の業績「ガイダンス」その他株主に対する適切なコミュニケーションにも気を遣うところ。2025年の決算書や監査報告書が最終化されてない場合、もしかしたら今のドラフトでは「IEEPAの関税で何Billionというインパクトがあり得る」とかFootnote Disclosureしようって考えてたところがあったり、既に取られた関税のインパクトがP/Lに反映されてたりするケースもあるだろうから、SCOTUSの判決をSubsequent Eventとして決算書へのインパクトも検討しないといけない。

なんか長くなったけど国家主権、Multipolar体制、憲法、とか考えだすとキリがないんで、次回からまた専門の米国タックスに戻ります。