Thursday, May 22, 2025

Mega-Bill (OBBB Act H.R. 1) 電光石火で下院本会議も通過。次は上院

日曜日の夜にDeficit Hawk派の4人の侍が戦術的な「Present」投票に転じたことでBudget Committeeを乗り越えた直後から、Mike Johnson下院議長の下、下院共和党リーダーシップによる文字通り24時間夜を徹しての党内調整が続いた。主たる意見の食い違いは「歳出減が手緩い」って怒るDeficit Hawk派、「州税の控除枠が低い」っていうNYやCAの高税率州のSALT派、そして中間選挙で「民主党から叩かれるような刺激的な規定は最小限にして欲しい」っていう中庸派、らからのもの。

下院の議席数は共和党220、民主党212、空席3っていう状況なんで共和党は3人までの反対のみOKで、これはほぼ全員一致が求められるっていう厳しい状況。しかも歴史的に党内の異なる派の意見調整が困難な下院共和党の話しだ。

ルービックキューブ化する調整

日曜日夜のBudget Committee時点ではMike JohnsonがDeficit Hawk派に「Medicaid就労義務早期適用」「IRAのエネジークレジット撤廃前倒し」の2点を口約束ベースで説得しその場を凌いだ。Medicaidは就労義務とは言えそれで当然それでカバレッジを失う市民がいるんで中庸派は好まない。エネジークレジットは自分のDistrictで恩典を受けてる企業がある場合、イデオロギー的には好ましくないとか政府のバラマキって分かってても撤廃には腰が引ける。この手の「Entitlement」は一度与えると取り消すのはほぼ不可能。結局政府の歳出は増額一方。オバマケアで元々の趣旨を超えて歳出が増大したMedicaidも同じだ。SALT派の主張は、規律のない歳出を繰り返す高税率州を所得税が低い(またはない)州の市民が補填することになるんで他州の議員には評判悪いし、費用増額はもちろん歳入減に繋がるんでDeficit Hawk派の主張と真っ向から対立する。まるでルービックキューブ。

Magic Johnson

ほぼ調整不可能にも見えたこんな意見の食い違いをMike Johnsonはわずか4日で調整し切って約束通りメモリアルデー前に下院を通過させた。Johnsonは過去にも数々の危機を乗り越えて最近では「Magic」Johnson(笑)なんて言われたりするけど本当に魔法使いみたいな人だ。もともと2023年に(例によって…)下院共和党内の意見収集が付かずKevin McCarthyが下院議長の座を追われるっていうドタバタ劇後にJohnsonは議長就任したけど、その際、個人的には「この人誰?」って思ったくらい存在感が薄かった。ルイジアナの実直で信仰深い人っていう印象は受けたけどね。その後数々の政局を乗り切り、2025年には議長再選。そんなJohnsonは今回も辛抱強く調整を続けた。

振り返ってみると日曜日の夜のBudget Committee後、Deficit Hawk派とSALT派との調整が長引き、火曜日朝には絶妙のタイミングでJokerの切り札トランプカードを切った。トランプは下院共和党議員に「いつまでもごちゃごちゃ言ってる場合じゃない」って強力にプッシュし、その晩というか水曜日早朝の午前1時(!)にはRules Committeeが招集され更に調整が続いていた。その間もDeficit Hawk派は「まだ手緩い」とか、SALT派は「$30,000の枠は$80,000に挙げて所得制限も撤廃がいい」とか強気の発言が続いてたよね。

ただ、これらの主張をMike Johnsonやメディア相手に主張するのは容易でも、実際に主張が聞き入れられなかったからって、税制改正、国境警備、ヘルスケア、国防、エネジー政策すべてが一つに盛り込まれてる(すなわちOne Big Beautiful Bill)一世一代と言っても過言ではない法案に反対票を投じて可決を阻止するのはチョッと時限が異なる話し。そんな風に考えると「エネジークレジット撤廃を前倒しにしました」とか「SALT費用控除枠は$40,000に増額しました」みたいな改訂は「だったら仕方なく賛成しましょう」っていうポーズには助け舟だったかもね。

Rules Committee・本会議

それにしてもRules Committeeは水曜日午前1時に始まったけど、改訂法案のMark-upが終わったのは20時間後の水曜日午後9時。そしてその後、法案を本会議投票にかけるRules可決は木曜日の午前2時40分に至った。Rules可決は結局217対212。共和党で唯一反対票を投じたのはBudget resolutionでも反対票を投じたThomas Massie(R-KY)。217対212っていうRules可決結果で本会議可決もほぼ確実になった。

本会議では結局、Thomas Massieと並びWarren Davidson(R-OH)が民主党全議員と並び反対票を投じ、Andy Harris(R-MD)は「Present」で2名の共和党院は「Absent」で無投票。結果215対214で可決。全てが終わったのは今日、木曜日午前7時だった。その後、Mike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise(R-LA)、WhipのTom Emmer(R-MN)が記者会見してたけど、Mike Johnsonとか全く疲れが出てる様子がなくてビックリ。Johnsonっていつ見ても同じなんだよね。お疲れ様でした…って感じでメモリアルデーは取り合えずゆっくりできるんだろうけど、6月には上院が休会から戻ってきて法案にはそれなりの修正が入るだろうから、またしても下院調整。Majic 2.0だね。

ちなみに常に反対のThomas Massieに関してはトランプがPrimary Challengeの可能性を示唆している。

共和党議員2人の無投票って誰?

本会議の投票に参加しなかった2人。結果OKだったから良かったものの議席数が僅差なんで場合によっては運命を分けたかもしれない。Andy Harrisの「Present」投票やBudget Committee時の4人の侍みたいに「何か深淵な戦術だったか…」って思わせてくれる動きでチョッと調べてみたんだけど、実は長時間に亘る徹夜の議論で居眠り(?)だったっていうオチ。一人はAndrew Garbarino(R-NY)。彼の側近は「チョッとだけ席を外した間に投票になってしまった。きちんと昼間に開催しないから…」みたいな説明をしてたけど、Magic Johnsonは「冗談じゃなく、彼は議会の後列で眠ってしまって投票を逃した」ってもっと正確な理由を披露している。もちろんJohnsonとGarbarinoは懇意の仲だからこそ言えること。「吊るしあげる」とも付け加えたそうだ。もう一人はDavid Schweikert(R-AZ)。Schweikertに関してJohnsonは「投票に駆け付けたのが遅すぎて票に加味するにはToo Late」って言っている。2人ともMega-Billのドラフトには尽力してたらしい。致命傷にならなくてよかったね。っていうか可決が確実になったんで2人の票は不要って判断して見切りCloseしたってことだろう。

今後のタイミングは?ちらつくX-Day

ここまで来たら何らかの形で両院通過する可能性大だけど、財務長官のScott Bessentたちが目指す独立記念日(7月4日)はどうだろうね。上院の様子を見てると際どいかもね。ただ実はMega-Billには$4TのDebt Ceiling増額が盛り込まれてて、この増額がないと「Extraordinary Measure」でのやり繰りも8月頃が限界とのこと。所謂「X-Day」。この関係で遅くとも8月初旬にはトランプの署名が終わってる必要がある。ボンドマーケットは不安定だけど、Mega-Bill可決の国家財政インパクトは既にマーケットに織り込まれてるって考えるのが自然だろう。

ここからのスピード感は上院による修正度合次第だけど、下院Ways and Means委員長のJason Smithは「上院での大きな修正は予想されない」って楽観的(希望的?)なコメント。歴史は必ずしもそうじゃないけどね。修正が多いとそれをまた下院で意見調整するんでMagic Johnsonの魔法が必要になる。いくつ魔法持ってても足りないね。

Section 899は?

下院本会議を通過したMega-BillにはそのままSection 899が入っている。InboundのTradeやCapital Flowを気にしたりするSenateがこのまま温存するかどうかは不明だけど、以前のポスティングで触れた通り、Mega-Billに盛り込まれたSection 899は上院もSurviveできるような工夫が施されてる。また$116Bの歳入は個別条文としてはおそらくトップ級なんでPay-For財源の魅力も大きいだろう。

ということでようやく次回は下院法案899の続き。